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がん検診の大罪

岡田正彦/著

1,320円(税込)

発売日:2008/07/25

  • 書籍

検診を受けるほど、がんのリスクは高くなる! 検査大国・日本の常識を覆す。

「早期発見・早期治療」は大間違い――がん検診の有効性を示す根拠は存在しない。高血圧・糖尿病・高脂血症は、薬で数値を無理に下げても、長生きはできない。そして、メタボ健診は、無駄に病人を増やすだけ……。統計データの詳細な分析によって、現代医療の陥穽を警告し、予防医学の立場から、本当の医療とは何かを問う。

目次
プロローグ
常識とは何か/安全神話/効果がなかったエアバッグ/不公平な比較/事実の隠蔽
第一章 統計データに騙されるな
奥深い「平均値」の意味/二つを比べるには/偏りをなくせ/洞察力を磨く/見かけだけの関係/邪魔者は消せ/複雑な関係/未来は予測できるか/当たるも八卦/究極の予測とは/長生き比べ/万能の分析法/多変量解析の威力/ほぼ確かなこと/夢の大きさ/テレビ番組の定番/大規模の迫力/つい騙されてしまいそうなこと/卵が先か/本末転倒/九つの大原則
第二章 根拠がなかったメタボ健診
国民の義務とは/なぜメタボなのか/腹囲を測るわけ/モルモットになった国民/CTの害/腹囲とBMIの軍配は/太ると悪いのか/糖尿病になりやすい人/混乱した糖尿病の判定基準/意外な被害者/逆は真ならず/赤信号、みんなで渡れば……/潜在意識/存在しなかった病気/病気は予防できても
第三章 薬を飲んでも寿命はのびない
血圧あれこれ/血圧の薬/薬の裏事情/にせ薬/先駆者の業績/三つの調査/血圧を下げても長生きしない/その後の顛末/ガイドラインに従え/意外な死因/寿命がのびない理由/健康な人は長生き/糖尿病には二つのタイプがある/糖尿病の薬/薬の値段/何もしないほうがマシ/後ろ向きではわからない/両刃の剣/半数が死亡する副作用/製薬メーカーの汚名返上/論文の最後に書いてあること/三番目の薬/最後の砦/人間の部品/真実は一つでも/中性脂肪の薬/奇跡の薬/さじ加減/大企業に振り回されて/薬よりも大きな効果
第四章 がん検診の大罪
総死亡という考え方/発がんのメカニズム/がんの潜伏期/突然中止された小児がん検診/推進派と反対派/遅すぎた行政判断/がん検診の現状/肺がん検診の怪/推進派の反撃/レントゲン検査の害/危ない検査/胃がん検診の矛盾/マンモグラフィ/あきれた実態/医療人の認識/法律で決められていること/レントゲンを使わなくても起こること/結論ありき/先駆者の業績とは/医薬品に発がん性あり/世界初の成果/あちら立てればこちらが立たず/不毛な病院ランキング競争/早期がんについての素朴な疑問
第五章 医療への過大な期待
技術は進歩しても/期待と現実/人々の気持ち/職人技の世界/誰のせいか
エピローグ 治療から予防へ
病院の好きな国民/福祉の国/地道な努力/お金に比例しないこと/薬好き/新しい医療の形/市町村合併の狭間で/教育と啓蒙/訴訟のない世界
あとがき
参考文献

書誌情報

読み仮名 ガンケンシンノタイザイ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-603613-2
C-CODE 0347
ジャンル 家庭医学・健康
定価 1,320円

書評

波 2008年8月号より 因果関係を見極める難しさ

小松秀樹

本書は医学における正しさの決め方についての本である。医療提供者にとっても正しさを冷静に決めることが困難であることが書かれている。
一般の方には分かりにくいかもしれないが、医師は自分の行っている診療が、患者の役に立っているのかどうか悩むことがある。このことを患者に正直に申し上げると「そんなに謙遜をなさることはありません」と慰めてくれる。医師が超能力を持つと医師に伝えることが正しい礼儀だと思っているような気配に、面に出さないまでも、苛立ちさえ感じる。文字通り役に立っているかどうか分からないのである。
人々は直感で因果関係を判断してしまうが、これを正確に見極めるのは容易なことではない。高血圧患者が降圧剤を内服し続けると寿命は延びるのか、経口糖尿病薬は糖尿病患者の生存期間を延ばすのか。患者にとって当たり前だと思われることが、しばしば当たり前ではない。患者は、経験豊富な医師は分かるに違いないと期待するかもしれない。しかし、単独の医師による日常診療の中で、このような治療の良し悪しが分かることはない。判断するためには年齢を含めて条件が似通った比較対照が必要なのである。比較対照がなければ、長期投与の薬剤が本当に寿命を延ばしているのかどうか分かるはずがない。
慢性疾患に対する長期投与の薬剤が有効かどうかは、注意深く設計された長期間の壮大な臨床試験をしなければ分からない。壮大な臨床試験でも、結論が得られないこともまれではない。結論が得られても、多くのことが分かるわけではない。一文で表現できるような結論が得られるにすぎず、しかも、結論にさまざまな制限がつく。「この薬を飲むと長生きできる」というような脇の甘いのびやかな表現が許されることはない。
因果関係を決めるのは統計学である。本書では、統計学による認識方法の一端が分かりやすく解説されている。統計学で事実を正確に認識するには、期待と結果を混同させてはならないが、これが専門家でも実に難しい。
私は前立腺がんを扱う泌尿器科医である。生涯無症状の前立腺がんは、死に至る前立腺がんよりはるかに多い。前立腺がん以外の病気で死亡した男性の前立腺を細かく調べると、高率に前立腺がんが見つかる。80歳以上の男性では、過半数にがんが認められる。しかも前立腺がんの進行は遅い。前立腺がんの検診について、検診の専門家は、死亡率減少効果を示すエビデンスが不十分としているが、日本泌尿器科学会は検診を推奨している。泌尿器科学会側には、自分たちの存在意義を高めたいとの意図が見え隠れする。これが判断に影響している可能性は否定できない。専門家にとっても期待から自由になることは難しい。患者にはもっと難しい。患者と医療提供者の深い溝を思うとため息がでる。

(こまつ・ひでき 虎の門病院泌尿器科部長)

担当編集者のひとこと

がん検診の大罪

検診を受けるほど、がんのリスクは高くなる! 日本人の三大死亡原因は、がん・脳卒中・心臓病で、全体の約6割を占めています。1位のがんが約3割でもっとも多く、がん撲滅のために、胸部レントゲンはもちろん、胃や腸のバリウム検査を受けることは、もはや現代の常識となっています。日本のCT設置台数は世界一で、レントゲン検査の件数だけを単純に比べると、1人当たりでイギリスの約3倍になるそうです。まさに日本は検査大国なのです。
 ところが、統計データの詳細な分析によって、「がん検診の有効性を示す根拠は存在しない」というショッキングな事実が明らかになりました。さらに、レントゲン検査で受ける放射線が、がんの原因になっている可能性があることも。
 統計データの分析によって明らかになったのは、がん検診に関することだけではありません。高血圧・糖尿病・高脂血症は、薬によって、その病気は予防できても、寿命は延びない、というのです。日本人は薬好きだといわれますが、「血圧が高いのはよくないから、下げる薬を飲んだほうがいい」と思い込んでいませんか。
「早期発見・早期治療」「降圧剤の長期服用」など、「医療の常識」とされていることには、大きな問題が潜んでいるのです。
 本当の医療とは何か。自分の健康を守るにはどうすればいいのか。検査や治療を受ける前に、ぜひご一読をお薦めします。

2016/04/27

著者プロフィール

岡田正彦

オカダ・マサヒコ

1946年京都府生れ。新潟大学医学部卒。1990年より同大学医学部教授。医学博士。専門は予防医療学。米国学会誌IEEE Transactions on Biomedical Engineering副編集長、学会誌「生体医工学」編集長などを歴任。2002年、臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」受賞。『医療から命をまもる』(日本評論社)、『人はなぜ太るのか』(岩波新書)など著書多数。

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