
がん検診の大罪
1,320円(税込)
発売日:2008/07/25
- 書籍
検診を受けるほど、がんのリスクは高くなる! 検査大国・日本の常識を覆す。
「早期発見・早期治療」は大間違い――がん検診の有効性を示す根拠は存在しない。高血圧・糖尿病・高脂血症は、薬で数値を無理に下げても、長生きはできない。そして、メタボ健診は、無駄に病人を増やすだけ……。統計データの詳細な分析によって、現代医療の陥穽を警告し、予防医学の立場から、本当の医療とは何かを問う。
書誌情報
読み仮名 | ガンケンシンノタイザイ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-603613-2 |
C-CODE | 0347 |
ジャンル | 家庭医学・健康 |
定価 | 1,320円 |
書評
波 2008年8月号より 因果関係を見極める難しさ
一般の方には分かりにくいかもしれないが、医師は自分の行っている診療が、患者の役に立っているのかどうか悩むことがある。このことを患者に正直に申し上げると「そんなに謙遜をなさることはありません」と慰めてくれる。医師が超能力を持つと医師に伝えることが正しい礼儀だと思っているような気配に、面に出さないまでも、苛立ちさえ感じる。文字通り役に立っているかどうか分からないのである。
人々は直感で因果関係を判断してしまうが、これを正確に見極めるのは容易なことではない。高血圧患者が降圧剤を内服し続けると寿命は延びるのか、経口糖尿病薬は糖尿病患者の生存期間を延ばすのか。患者にとって当たり前だと思われることが、しばしば当たり前ではない。患者は、経験豊富な医師は分かるに違いないと期待するかもしれない。しかし、単独の医師による日常診療の中で、このような治療の良し悪しが分かることはない。判断するためには年齢を含めて条件が似通った比較対照が必要なのである。比較対照がなければ、長期投与の薬剤が本当に寿命を延ばしているのかどうか分かるはずがない。
慢性疾患に対する長期投与の薬剤が有効かどうかは、注意深く設計された長期間の壮大な臨床試験をしなければ分からない。壮大な臨床試験でも、結論が得られないこともまれではない。結論が得られても、多くのことが分かるわけではない。一文で表現できるような結論が得られるにすぎず、しかも、結論にさまざまな制限がつく。「この薬を飲むと長生きできる」というような脇の甘いのびやかな表現が許されることはない。
因果関係を決めるのは統計学である。本書では、統計学による認識方法の一端が分かりやすく解説されている。統計学で事実を正確に認識するには、期待と結果を混同させてはならないが、これが専門家でも実に難しい。
私は前立腺がんを扱う泌尿器科医である。生涯無症状の前立腺がんは、死に至る前立腺がんよりはるかに多い。前立腺がん以外の病気で死亡した男性の前立腺を細かく調べると、高率に前立腺がんが見つかる。80歳以上の男性では、過半数にがんが認められる。しかも前立腺がんの進行は遅い。前立腺がんの検診について、検診の専門家は、死亡率減少効果を示すエビデンスが不十分としているが、日本泌尿器科学会は検診を推奨している。泌尿器科学会側には、自分たちの存在意義を高めたいとの意図が見え隠れする。これが判断に影響している可能性は否定できない。専門家にとっても期待から自由になることは難しい。患者にはもっと難しい。患者と医療提供者の深い溝を思うとため息がでる。
担当編集者のひとこと
がん検診の大罪
検診を受けるほど、がんのリスクは高くなる! 日本人の三大死亡原因は、がん・脳卒中・心臓病で、全体の約6割を占めています。1位のがんが約3割でもっとも多く、がん撲滅のために、胸部レントゲンはもちろん、胃や腸のバリウム検査を受けることは、もはや現代の常識となっています。日本のCT設置台数は世界一で、レントゲン検査の件数だけを単純に比べると、1人当たりでイギリスの約3倍になるそうです。まさに日本は検査大国なのです。
ところが、統計データの詳細な分析によって、「がん検診の有効性を示す根拠は存在しない」というショッキングな事実が明らかになりました。さらに、レントゲン検査で受ける放射線が、がんの原因になっている可能性があることも。
統計データの分析によって明らかになったのは、がん検診に関することだけではありません。高血圧・糖尿病・高脂血症は、薬によって、その病気は予防できても、寿命は延びない、というのです。日本人は薬好きだといわれますが、「血圧が高いのはよくないから、下げる薬を飲んだほうがいい」と思い込んでいませんか。
「早期発見・早期治療」「降圧剤の長期服用」など、「医療の常識」とされていることには、大きな問題が潜んでいるのです。
本当の医療とは何か。自分の健康を守るにはどうすればいいのか。検査や治療を受ける前に、ぜひご一読をお薦めします。
2016/04/27
著者プロフィール
岡田正彦
オカダ・マサヒコ
1946年京都府生れ。新潟大学医学部卒。1990年より同大学医学部教授。医学博士。専門は予防医療学。米国学会誌IEEE Transactions on Biomedical Engineering副編集長、学会誌「生体医工学」編集長などを歴任。2002年、臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」受賞。『医療から命をまもる』(日本評論社)、『人はなぜ太るのか』(岩波新書)など著書多数。