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戦後日本を変えたのは、責任あるヨロンか? 付和雷同のセロンか?

輿論と世論―日本的民意の系譜学―

佐藤卓己/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2008/09/25

読み仮名 ヨロントセロンニホンテキミンイノケイフガク
シリーズ名 新潮選書
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 350ページ
ISBN 978-4-10-603617-0
C-CODE 0331
ジャンル 社会学
定価 1,620円

「世論」はいま、ヨロンともセロンとも読むが、戦前は「輿論=公的意見」「世論=大衆感情」と区別していた。日本戦後史は“輿論の世論化”に他ならない。終戦記念日、安保、東京オリンピック、全共闘、角栄と日中関係、天皇制、小泉劇場など、エポックとなる出来事の報道や世論調査を精査し、権力者とメディアの大衆操作を喝破する。

著者プロフィール

佐藤卓己 サトウ・タクミ

1960年広島市生まれ。京都大学大学院准教授。京都大学文学部西洋史学専攻卒業。ミュンヘン大学近代史研究所留学ののち京都大学大学院単位取得退学。東京大学新聞研究所・社会情報研究所助手、同志社大学助教授、国際日本文化研究センター助教授を経て現職。専攻はメディア史、大衆文化論。著書に『現代メディア史』『「キング」の時代』『現代史のリテラシー』(岩波書店)、『言論統制』(中公新書)、『八月十五日の神話』(ちくま新書)、『メディア社会』(岩波新書)、『テレビ的教養』(NTT出版)、『輿論と世論』(新潮選書)ほか。

書評

波 2008年10月号より 「輿論」再興へ向けた画期的論考

渡辺靖

「裸電球の明りの中にぼくは見た/一万人かもっと沢山の人びとを/話すことなくしゃべり(talking without speaking)/耳をかたむけることなく聞き(hearing without listening)/…誰も静寂の音を呼び醒まそうとはしない」(乃木敏平訳)サイモン&ガーファンクルの名曲「サウンド・オブ・サイレンス」のなかのこの有名なフレーズに昨今の日本の言論状況を想起し、そして憂えながらも、私はその想いを上手く言語化できずにいた。
そんなとき手にしたのが、メディア史研究の第一人者・佐藤卓己によるこの画期的論考だ。
“hear”と“listen”が似て非なるように、著者は「世論」を「せろん」と読むか「よろん」と読むかによって、指し示す内容が全く異なる点に喚起を促す。すなわち、「世論(せろん)」は大衆の空気・気分(popular sentiments)であり、「輿論(よろん)」は担い手のある公的な意見(public opinion)であると。
そこから著者は十八番芸(おはこ)ともいえる戦前・戦中の丹念な資料分析と明快な理論的考察を通して、明治・大正時代には両者が区別されていたにもかかわらず、一九二〇年代の大衆社会の到来とともに「輿論の世論化」が進んだこと、戦後は「輿」が制限漢字となったため「世論」だけが残ってしまったことを詳らかにしてゆく。
本書の後半では、「世論」と「輿論」の本質的な差異が忘れ去られたこと――そして、そこに起因する混同や混乱――が、戦後の日本の言説=政治空間をいかに歪めてきたかを時代別に辿りながら鮮やかに描き出す。終戦記念日、安保闘争、東京オリンピック、全共闘、田中角栄人気、中曽根人気、天皇制論議、小泉劇場といった事象の緻密な検証が浮き彫りにするのは、極めてユニークな戦後史であり、秀逸な日米関係史である。
本書全体から伝わってくるのは「輿論」を取り戻したいという著者の熱い想いだ。「輿論」によって「世論」を制御することが民主主義の原則であり、新聞こそは「輿論」を導くべきメディアであるはずなのに、実際の政治は「輿論選挙」ではなく「世論選挙」と化し、新聞は(いわんやテレビは)「世論」を反映することのみに執心しているのではないか。
そうした危惧から著者はこう唱える。「無責任のレトリックを支えてきた『世論』観を『戦後レジーム』だというのであれば、私もまた戦後レジームの打破を叫びたい」「そのために、私はなんどでも『世論/輿論』の使い分けを訴え続けるつもりである」「ある発言を前にしてそれが輿論か世論かと悩むことで、民意のリテラシーは向上する」
「内向きの日本の論壇」「閉塞する日本の言論状況」……と軽々しく愚痴ることなど、もはや付和雷同的な「世論」に過ぎない。それを超克してゆくような「輿論」をいかに紡ぎ出してゆけるか。本書をその最良の契機としたい。

(わたなべ・やすし 慶應義塾大学教授、文化人類学)

目次

第一章 輿論(よろん)は世論(せろん)にあらず
日本的「世論」への不信
万機公論に決すべし
世論に惑わず
市民的公共性とファシスト的公共性

第二章 戦後世論の一九四〇年体制
「あいまいな言葉」の深層
プロパガンダの代用語「マス・コミュニケーション」
輿論指導の戦時科学
「戦争民主主義」の科学

第三章 輿論指導消えて、世論調査栄える
情報局とGHQ民間情報教育局
当用漢字表による「文化の民主化」?
輿論調査協議会から国立世論調査所へ
公共的意識管理システムの成立

第四章 終戦記念日をめぐる世論調査
八月十五日の世論と九月二日の輿論
国民の世論と国会の輿論
「祝祭日に関する世論調査」
「平和の日」消滅と「終戦記念日」成立

第五章 憲法世論調査とポリズム批判
空気(せろん)の変化と議論(よろん)の停滞
一九五〇年代の再軍備世論
マルクス主義者のポリズム批判
世論調査の自己成就

第六章 「声なき声」の街頭公共性
近代日本史上最大の大衆運動?
五・一九運動と「声なき声」
父の輿論と娘の世論
安保闘争のパラドクス

第七章 東京オリンピック――世論の第二次聖戦
聖火と聖戦と
新聞輿論と低い参加意識
テレビンピックの視聴率
高度化への国民的ドラマ

第八章 全共闘的世論のゆくえ
大学全入時代の落とし穴
インテリの輿論と全共闘の世論
「東大紛争」をめぐる輿論と世論
安田砦決戦前の緊急世論調査

第九章 戦後政治のホンネとタテマエ
田中角栄人気の構造
メディア権力としての田中派
戦略性を欠いた日中外交
「日本社会の影(シャドー)」としての田中=中国

第十章 テレビ世論のテンポとリズム
教育問題という議題設定
中曽根支持率の特異性
「神の声」を伝える巫女
世論を製造する私的諮問機関

第十一章 世論天皇制と「私の心」
過ぎ去らぬ記憶
シンボル天皇制の世論調査
自粛現象とXデイ報道
「沈黙の螺旋」と歴史認識

第十二章 空気の読み書き能力
小泉劇場の歴史的教訓
「よろん」に関する世論調査
メディア操作という神話
一人からはじまる輿論

あとがき――よみがえれ、輿論!

担当編集者のひとこと

輿論(ヨロン)と世論(セロン)―日本的民意の系譜学―

「付和雷同の」セロン、「責任ある」ヨロン
──わたしたちは、どちらを選ぶのか?「戦後世論について、きちんと書きましょうか」──京大大学院の研究室で佐藤卓己さんがおっしゃったとき、この『輿論と世論―日本的民意の系譜学―』に結実した今日性や臨場感はまったく予想していませんでした。
 佐藤卓己さんといえば、『「キング」の時代』しかり『言論統制』しかり、『八月十五日の神話』しかり、ある一定の評価が定まった歴史的な出来事や人物を素材に、新たな視点で別の像を浮かび上がらせる刺激的な書き手。作品はどれも、研究書らしからぬ面白さと熱気があります。
 既刊書をめくるうち、編著書『戦後世論のメディア社会学』で「そもそも輿論と世論は歴史的には別物であった。」という一文にぶつかりました。この「よろん/せろん」論は序文でおしまい、あとはテーマごとに展開する複数の研究者のアンソロジーだったので、「あのつづきは……」と軽い気持ちで質問してみたのです。
 そして季刊誌『考える人』連載は2005年夏、郵政解散で激震を呼ぶ小泉首相の言葉(「立ち読み」をごらん下さい)からスタート。佐藤さん自身が「時局の赴く所というべきか、意図せざる結果として、世論の系譜学はますますアクチュアルなものになってしまった」と書くとおり、その後も自民党圧勝を受けるように「改憲・再軍備」論、元宮内庁長官の“富田メモ”スクープのあとで「天皇制」論、「世論が生んだ内閣」をテーマとした最終回の校了の日に安倍首相辞任と、歴史を俯瞰するはずの執筆が現実と絡みあう展開となっていきました。
 いまここでおきていることの背景や意味を読み解く、自分の頭で考え直してみる、そんなダイナミックな面白さをさらにさらに凝縮して、戦前の「よろん/せろん」研究などを大幅加筆し、約1年後に単行本がまとまりました。それを校了したまさにその日に、記憶に新しい福田首相の電撃辞任(終章297頁に追記が間に合いました)というおまけつきです。
 取り上げられているのがいずれも記憶にある出来事や人物で、分厚い350頁ながら、共感し楽しみながらずんずん読めること請合いです。が、読み終わったのち、ひとつの問いがわたしたちの前に突きつけられるはずです。すなわち、「付和雷同のセロン、責任あるヨロン──その意見は、どちらなのか?」と。混迷を増す日本の現在ただいま、ふと立ち止まって考えるためのたしかなヒントとしても、ご一読をおすすめします。

2016/04/27

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