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進化考古学の大冒険

松木武彦/著

1,320円(税込)

発売日:2009/12/21

  • 書籍

人類700万年の歴史を一望し、私たちの「心の進化」を解き明かす。

地球に生きるヒトの身体の基本設計とは何か? 私たちの祖先は縄文時代になぜ土器に美を求め、農耕とともに戦争を始め、紀元後に巨大な古墳を造ろうとしたのか? また、文字の衝撃をどう受けとめたのか? 旧石器時代から古墳時代まで――モノを分析して「ヒトの心の歴史」に迫り、日本人の原像を問い直す考古学の最先端!

目次
はじめに
第一章 ヒトの基本設計――進化考古学とは何か
七〇〇万年の旅/道具を作る身体/物をあやつる心/文明の原風景
第二章 美が織りなす社会――ホモ・エステティクスの出現
美の原理/美はどのように進化したのか/原始日本の美
第三章 形はなぜ変化するのか――縄文から弥生へ
物の形をつくる要素/人工物と文化/縄文から弥生へ
第四章 狩猟革命と農耕革命――現代文明社会の出発点
英雄誕生/農耕が変える心と身体/人類史のなかの縄文と弥生
第五章 われら倭人なり――民族の誕生
国家と民族/ヒトの社会進化と民族/倭人の誕生
第六章 ヒトはなぜ巨大なモノを造るのか――人類史のなかの古墳時代
モニュメントの時代/モニュメントの人類史/人類史のなかの巨大古墳
第七章 文字のビッグバン――国家形成の認知考古学
文字とは何か/文字は社会をどう変えたか/日本列島文字社会の成立
参考文献
あとがき

書誌情報

読み仮名 シンカコウコガクノダイボウケン
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-603653-8
C-CODE 0321
ジャンル 考古学
定価 1,320円

書評

波 2010年1月号より 時間尺度のズーム、あるいは考古学の独立宣言

佐倉統

異なる時間の尺度を、シームレスにつなぐ。《人間》を理解する上できわめて重要な作業であるはずなのだが、そのことを自覚している研究や著作は、ほとんどない。だが今回、この本に出会えて、やっと溜飲を下げることができた。著者・松木武彦は、生物の進化の時間尺度と人類の歴史の時間尺度とを、見事に滑らかに橋渡ししている。
ぼくたち人間は生物だから、その心理も行動も社会も、当然、進化の産物である。しかし、だからといって人間の心理や行動や社会が、進化論で直ちに説明できるわけではない。扱う時間尺度がまるっきり違うからだ。生物の進化は数千年から数万年、一方、人間の心理や行動や社会の変化は数十から数百年。進化を扱う視点から見れば、日本の政権交代も、アメリカの黒人大統領誕生も、マイケル・ジャクソンの急死も、網の目に引っかかってこない。しかし、現代社会を理解するためには、重要な事件ばかりだ。
そんなに大きなズレがあるのなら、両者は別々のままでいいではないか、そもそも別々であるべきではないかと思う向きも多いかもしれない。かつてはこの意見にも一理あった。しかし、もはやそんな悠長なすみわけはしていられないのが現状だ。進化に限らず遺伝子や脳についての研究がこれだけ進んでくると、好むと好まざるとにかかわらず、生物学の知見を抜きにして《人間》について語ることはできない。人は、なぜ社会を作って暮らすのか? なぜ言葉を使うのか? なぜ神を必要とするのか? なぜ道具を作るのか?……これらの問題に答えるためには、生物学や認知科学の知見が、必要なのである。
だけど、そこに立ちふさがるのが時間尺度の壁である。進化論を無理矢理人間社会に当てはめたヒトラーの社会進化論は、ユダヤ人の大虐殺という、とてつもない悲惨な結末を招いた。
進化論が単独では難しいとなると、両者をつなぐ位置にあるのは、考古学である。けれども残念ながら、今までの考古学は、生物進化の時間尺度を適切に変換して人間の歴史につなげるという作業は、あまりしてこなかったように思える。おそらく、「歴史」の方にだけ、目が向いていたためではなかろうか。
この『進化考古学の大冒険』は、その狭間を見事に埋めてくれる。人間の認知過程の特徴からさまざまな遺物を読み解く作業を通じて、歴史学にも進化学にもできなかった人間の活き活きとした描写が、考古学にこそ可能であることを、著者ははっきりと示している。いわば、考古学による、歴史学と進化学からの独立宣言ではないか。
独立宣言と名の付くものは、古来、物議や非難を呼び起こしてきた。著者の企ても、同じような批判にさらされるかもしれない。だがそれこそ、この本が野心的な名著であることを示す指標なのである。まずは御一読いただきたい。

(さくら・おさむ 東京大学大学院情報学環教授)

担当編集者のひとこと

進化考古学の大冒険

モノよりもココロにこだわる、考古学の最前線。 考古学、という言葉から何を連想するでしょうか。こつこつと遺跡を掘りおこし、地層の年代を推定したり土器の文様を分類したりと、なんだか地味で辛気くさい学問だと思い込んでいるひとが案外多いのではないでしょうか。でも、この本を読むと、そんなイメージは払拭されるにちがいありません。
 たしかに考古学はモノにこだわる学問ですが、その最新理論ともいうべき「進化考古学」は、ココロにこだわる。遺物(モノ)の分析をとおしてヒトの心のありようを解き明かし、さらには、数百万年にわたるヒトの「心の進化」を跡づけようとするのです。
 地球に生きるヒトの心身の基本設計はどう定まったのか? わたしたちの祖先は縄文時代になぜ土器に美を求め、農耕とともに戦争を始め、紀元後に巨大な古墳を造ろうとしたのか? そして文字の衝撃をどう受けとめたのか? 著者は、旧石器時代から古墳時代までを七つの主題によって時代順に取りあげ、ヒトの心の進化と日本人の原像までを問い直していきます。「野心的な名著」(佐倉統・東大大学院情報学環教授)の誕生です。

2016/04/27

著者プロフィール

松木武彦

マツギ・タケヒコ

1961年、愛媛県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。岡山大学文学部教授を経て、現在、国立歴史民俗博物館教授。専攻は日本考古学。モノの分析をとおしてヒトの心の現象と進化を解明し、科学としての歴史学の再構築を目指している。2008年、「全集日本の歴史1 列島創世記』(小学館)でサントリー学芸賞受賞。他の著書に「進化考古学の大冒険』(新潮選書)、『古墳とはなにか―認知考古学からみる古代』(角川選書)、『未盗掘古墳と天皇陵古墳』(小学館)などがある。

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