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時は中世初め。長い試みの果てに、それはイングランドの教会で生まれた。

ウイスキー 起源への旅

三鍋昌春/著

1,320円(税込)

本の仕様

発売日:2010/04/23

読み仮名 ウイスキーキゲンヘノタビ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 268ページ
ISBN 978-4-10-603656-9
C-CODE 0377
定価 1,320円

ウイスキーを知り尽くしたプロが、明らかではなかったその起源に挑む。酒造りの経験とイギリス留学時に入手した膨大な資料、数多くの取材を通して、誕生の謎に迫っていく。ビールとワインの伝播、キリスト教との深い関係、ケルト文化、帝国の覇権、気候変動……。ヨーロッパの歴史を背景に、蒸留酒4000年の軌跡をたどった初の試み。

著者プロフィール

三鍋昌春 ミナベ・マサハル

1953年生まれ。富山県出身。1978年東京大学農学部農芸化学科卒。1980年同大学院農学系研究科修士課程修了、サントリー入社。1989年~1993年、英国スコットランドにある国立ヘリオット・ワット大学国際醸造蒸溜研究所で博士号取得、モリソン・ボウモア社ボウモア蒸溜所、オーヘントッシャン蒸溜所実習、アライド・ディスティラーズ社研修。1994年より、白州蒸溜所製造技師長、生産第1部(ウイスキー原酒生産開発)課長、ブレンダー室主席ブレンダーおよび生産第1部課長、原酒生産部長、ブレンダー室部長兼シニアブレンダー、洋酒事業部生産部部長などを経て、現在、サントリービジネスエキスパート株式会社、品質保証本部部長。

書評

波 2010年5月号より 酔うことの謎を追う

佐々木幹郎

ウイスキーの酔いは、ワインとも日本酒とも違う。アルコール度数は高いのに、飲めば飲むほど覚醒してくる。わたしは決して酒に強い体質ではない。ワインや日本酒を飲むとどんなにおいしくてもすぐに眠たくなるのだが、ウイスキーは違うのだ。特にシングルモルトの酔いは力強く、深々とした香りとともに人の孤独を救ってくれる。
待望のスコッチ・ウイスキー本の登場である。ウイスキーの酔いとは何かを、歴史的に、化学的に、これほどさまざまな角度から追究した本はこれまでなかった。ワインの蒸溜法が発見され、その蒸溜液を「生命の水(アクアヴィテ)」と呼んだ時期。今日のブランデーのことだが、それは初期には決して酔うためのものではなかった。キリスト教の教会や修道院で洗礼式に使う聖水であり、秘薬として崇められていた。『ヨハネ福音書』にたびたび登場する「生命の水」。その製造法は秘伝であった。人類が酔うための酒として「生命の水」を発見するのは、ずいぶん後のことなのだ。
地中海以北のブドウが採れない地域でワインは作れない。ワインのように季節性に縛られることなく、しかも腐敗しない、また医薬品にもなるというメリットを持ったものとして、穀物醸造酒(エール)が作られ、それを蒸溜したものとしてウイスキーは誕生する。エールはビールの一種で、メソポタミアやエジプトなどで古くから作られていた。では人類は、いつ、どこでビールを蒸溜するということを覚えたのだろう。著者はこれまで誰もが曖昧に伝えてきたウイスキーの起源について、説得力のある仮説を立てる。
エジプトのアレクサンドリア。ここがキリスト教とともに蒸溜法を英国諸島へ伝搬する拠点になったという。しかし、フランス文化の影響を受けていたイングランドでは、ジンが主力になった。それに対してアイルランドが最初にウイスキー作りを始めた。著者によれば、「アイルランド島という反応器の中でケルト独自の文化にキリスト教という触媒がもたらされておきた化学反応」が、ウイスキー作りであった。みごとな説だと思う。同じケルトの血でつながったスコットランドにその製法が伝わり、ケルト人の想像力とアイデンティティを確かめるように、二つの地域の住民をウイスキー作りに邁進させた。だからウイスキーは「ケルトの魂」でもあると著者は言う。
酔うということは文化である。それを文化として認めるまでに人類は長い時間をかけている。スコットランドの大学でウイスキー酵母の研究をし、帰国後ブレンダーとなり、品質の管理をし、というふうにウイスキー作りのすべてのジャンルを経験した著者は、その経験をふり返るように、まるでミステリーのように、酔うことの分析とウイスキーの起源を追いかけたのである。

(ささき・みきろう 詩人)

目次

まえがき
プロローグ
第一部 起源をめぐる旅
第一章 ビールとワイン
エジプトへの旅/ビールとエジプト/気候と宗教/ビールとは/パンであり、酒でもある/乾燥地帯とキリスト教/英国はワインの国/フランス名醸地へ/エールビールとは/エールの醍醐味
第二章 蒸溜
世界一の蒸溜技術/蒸溜とは何か/蒸溜、文明、国家/蒸溜法の起源/新約聖書にも
第三章 アクアヴィテ、生命の水
飲めないブランデー/イングランドのアクアヴィテ/飲む蒸溜酒/イングランドではなぜジンだったのか
第四章 ウイスキー誕生
『完成大全』の前か後か/英国諸島の成り立ち/原始キリスト教とケルト人/ケルト人の魂/地中海交易とローマ人/伝来前夜/ケルト文化の精神風土/ワインには寒冷過ぎた/エールがあった/ジン――ボタニカルの系譜
第二部 ウイスキーの発展
第五章 アイリッシュの繁栄と衰退
エール蒸溜酒は飲まれ続けたか/アイリッシュの全盛期/アイリッシュを襲った悲劇/二一世紀での復活
第六章 スコッチウイスキーの奇跡
スペイサイドへの旅のはじまり/英国と明治日本/スペイサイドの蒸溜所をめぐる/品質と製造工程/〈原料〉〈製造工程〉/スコッチウイスキー産業の発展/スコッチウイスキーづくりの現場/スコッチウイスキーがくれた贈り物
参考資料

担当編集者のひとこと

ウイスキー 起源への旅

三鍋さんだから挑戦できたミステリー 著者の三鍋さんは、本当においしそうに酒を飲む。「愛おしそう」という言葉が一番ぴったりで、まるで生まれたばかりの子猫を抱くように、微笑みながら両手でグラスを包み込む。グラスの中身は、ウイスキーだけじゃない。ビール、ワイン、焼酎、日本酒と、出自に差別はしない。これほどの飲み手に消化されれば、アルコールたちも本望だろうと、隣で飲んでいて、そう思う。
 さて、『ウイスキー 起源への旅』である。本屋さんに行けば分かるが、普通、酒の本はジャンルごとに書かれている。ウイスキーならウイスキーだけ、ワインならワインだけ、焼酎なら焼酎だけ。が、この本はちがう。ビール、ワイン、蒸留酒と、さまざまなアルコールたちが舞台の袖から登場してくる。なぜなら本書は、主役であるウイスキーがどのような経緯で誕生したのかというミステリーに挑む歴史書であるからだ。
 イギリスはウイスキーの国である、と普通の人は思うが、実際にあちらに行って飲み屋に入ると、ワイワイ言いながら口にしているのはビールやワインである。この国で「意外」なことは、他にもある。ウイスキーが誕生した国にもかかわらず、「いつ、どこで、誰が、どのようにして」この酒を誕生させたのかが、書き残されていないのである。
 酒を――特にウイスキーを――愛する三鍋さんは、イギリス人も挑戦したことのない、その誕生の謎に迫る。大学で醸造学を学び、スコットランドで博士号を取得し、日本でウイスキー造りに長年たずさわってきた三鍋さんほど、そのミステリーハンターにふさわしい知識と経験を持った人はいないだろう。
 さて、その結末は……。グラス片手に、ぜひ本書を開いてみてください。

2016/04/27

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