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「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか―

斎藤環/著

1,430円(税込)

発売日:2011/03/25

  • 書籍
  • 電子書籍あり

抗うつ薬と休養だけでは治らない人へ「人薬(ひとぐすり)」という新しい処方箋。

軽症なのに、なかなか治らない。怠けるつもりはないのに、動けない。服薬と休養だけでは回復しない「新しいタイプ」のうつ病への対応法を、精神科臨床医が、具体的かつ詳細に解説する。「自己愛」が発達する過程に着目し、これまで見落とされがちだった〈人間関係〉と〈活動〉の積極的効用を説く、まったく新しい治療論。

目次
はじめに
第一部 解説編――私は「うつ」をこう考える
第一章 現代社会とうつ病
変わる「うつ病」/新しいタイプのうつ病/古き良き「大人のうつ病」?/私はどう考えるか/社会問題としてのうつ/「生存の不安」から「実存の不安」へ/軽くて治りにくい/「操作」への欲望が高まった/サプリメント・カルチャーの誕生/マクドナルド化する社会/対人刺激と気分状態/コミュニケーション偏重主義/「社会的うつ病」とは何か? 第二章 もしあなたがうつ病になったら――治療の勧め―― 薬物治療/認知行動療法・対人関係療法について/「環境調整」という考え方/なぜ軽いのに治りにくいのか/だれが「犯人」なのか/「心の強さ」とは
第三章 「レジリアンス」とは何か
「心の強さ」の理論モデル/プラセボ効果もレジリアンス?/レジリアンスを活かす治療/「対人関係」と「活動」の意味 第四章 「人薬(ひとぐすり)」はなぜ効くのか? 自己愛の脆弱さ/コフートの発達理論/「自己―対象」/野心と理想/三つの「自己―対象」/「双子自己―対象」/融和した自己へ/適度の欲求不満/自己愛の病理/うつ病臨床における対人関係の意味/ひきこもりシステム/孤独がなぜ問題なのか/ネットに「対人関係」はあるか/自己愛のシステム/いかにして自己愛システムを支えるか/いかにして「社会関係資本」を維持するか?
第二部 対応編――私は「うつ」をこう治している
第五章 「家族」のかかわり方
環境調整の勧め/まず「安心」と「共感」を/「構う」ということ/治療としてのコミュニケーション/会話は共感から/「聞く」ということ/リレーショナル・メッセージ/誠実でわかりやすい態度を/一緒に食事を取る/話題の選択/恨みつらみの言葉に対して/ルールと交渉/通院を勧めるには/夫婦間で注意すべきこと
第六章 仕事は薬? 「活動」の持つ意味
上司の関わり方/事情の聞き方/産業医の役割/休職は最低一ヶ月から/復職の際の注意/支援者を支援する/リワークプログラムとは/「仕事」が薬になる/まずは「活動」から/「アクティベーション」の可能性
第七章 治療より「成長支援」――うつ病と「発達障害」――
気分循環症/境界性人格障害/発達障害
第八章 セルフケアの考え方
自己啓発の問題点/セルフケアに「人薬」をどう活かすか/治療的変化を起こす三つの方法/「音楽療法」の話/身体性の回復/認知運動療法/「人薬」の由来
あとがき

書誌情報

読み仮名 シャカイテキウツビョウノナオシカタニンゲンカンケイヲドウミナオスカ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-603674-3
C-CODE 0311
ジャンル 心理学、家庭医学・健康
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,056円
電子書籍 配信開始日 2011/09/23

書評

波 2011年4月号より 最後にたどりつく処方は「人薬」

内海健

あるうつ病の画家が私のところに治療を求めに来たおり、次のようなことを教えてくれた。「スランプになると自分というのが出てくる。出てくるとだめなんです。うまく描こうとか、どの色を使おうかとか、そんなふうに考えた途端、うまくいかなくなる」。彼は自分のうつをスランプと思い込んでいたようだが、さすがに芸術家ともなると表現がふるっている。医学的に解説するなら、これは思考や行動にブレーキがかかったようになる「制止」と呼ばれる症状ということになるが、それでは身も蓋もない。ちなみに彼が好調なときには、自分がどう描いたかも覚えていないのだという。多分、軽い躁状態なのだろうが、これもまた身も蓋もない話である。
彼の言に耳を傾けると、自分というものを中心に据える世の建前がいかに皮相なものであるかがよくわかる。「自分探し」などと言われると気持ち悪くなるのも当たり前である。俊敏な動きや直感の冴え、あるいは芸術的な制作にとって、自己など脳が生み出した余分な系であり、生の中の淀みにほかならない。
近代というものが自分というものを生み出し、そして称揚したのに対し、それをもてあましているのがポストモダンの状況だろう。「自由」とか「平等」といった近代の理念がほぼ行き渡ると、自分というものがどこにも寄る辺なく前面にせり出してきたわけである。この寄る辺ない自己の徴候を、斎藤さんはいち早く「ひきこもり」の中に見出した。彼は私の知るなかで最も鋭敏な時代感覚をもった精神科医である。そして時代の方がようやく斎藤さんに追いつき、というより斎藤さんが立ち止まって振り返ったとき、ひきこもりへのアプローチがうつ病にも使えることを発見したのは当然のことだろう。
昨年、尖閣をめぐって日中関係が険悪になり、政府が膝を屈してしまった際に、私は小さな抑うつを体験した。けなげな倭は私にとってやはり同一化の対象だったのであり、自分がモダンの尻尾をいまだに引きずっていることを再確認したわけである。ところが今回はそれだけではすまなかった。そのあとの「那覇地検の判断」という政府の言い訳を聞いて、うつになっている自分がばかばかしくなったのである。同時にいまどきの若い人のうつ病の心理が少し分かったような気がした。彼らにはもはや病の中に携えていく対象がないのだろう。そしてただただ鈍重となった自分と向き合いつづけなければならないのだ。
それに対して斎藤さんが処方するのが「人薬」というものである。端的にいえば、人と人の絆である。風邪薬のように処方される抗うつ薬、脳文化人たちがばらまく疑似科学的言説、あるいは宗教まがいの自己啓発本に取り巻かれる中で、彼らが最後にたどりつくものがあるとすればそれしかないし、それから始めるよりないと私自身も思う。

(うつみ・たけし 東京藝術大学保健管理センター准教授)

担当編集者のひとこと

「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか―

当事者にとって「本当に役に立つこと」が書かれている本 病気なのか、怠けなのか――。
 これは、いわゆる「新型うつ」に苦しむ当事者なら、誰もが問い続ける命題かと思います。
 専門家の中にも、「病気ではなく怠けである」として、著書の中で、精神科を訪れる人々を「未熟」で「ワガママ」だと批判している人がいます。しかし、そうした「説教」にいかなる意味があるのでしょうか。医者に言われるまでもなく、そんなことは当事者たちが無限に自問自答し続けているわけですから――。
 そもそも「新型うつ」問題において、「病気であるかないか」はさして重要なテーマではないはずです。「当事者が苦しみの中にあり、彼らの力だけでは抜け出せない状態に陥っている」ことが問題の本質であり、専門家ならばその対処法を示すべきではないでしょうか。
 本書は、そんな考えに基づいて企画された、当事者にとって本当に役に立つことが書かれている本です。


 ……などと偉そうに書いてみましたが、じつは私自身が典型的な「説教」タイプの人間でした。口にこそしないものの、腹の中では「未熟でワガママな人に、病気という大義名分を与え、腫れ物に触るように扱って甘やかしたら、ますます増長して、治るものも治らないのではないか」などと考えていたのです。
 そんな「未熟」な私の考えを、著者である斎藤環さんは、精緻な専門知識と豊富な臨床経験の力によって、木っ端微塵に打ち砕いてくれました。ぜひ私のような「説教」タイプの方々にこそ、本書を読んでいただければと思います。人間関係や現代社会に対する著者の深い洞察も、それこそ「病気であるかないか」に関係なく、万人にとって価値のある内容ですから。

2016/04/27

著者プロフィール

斎藤環

サイトウ・タマキ

1961年、岩手県生まれ。精神科医。筑波大学医学研究科博士課程修了。爽風会佐々木病院等を経て、筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、「ひきこもり」の治療・支援ならびに啓蒙活動。著書に『社会的ひきこもり』、『中高年ひきこもり』、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川財団学芸賞)、『オープンダイアローグとは何か』、『「社会的うつ病」の治し方』ほか多数。

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