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「差別する言葉」はなぜ生まれ、なぜ消えていったのか?

私家版 差別語辞典

上原善広/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2011/05/25

読み仮名 シカバンサベツゴジテン
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 234ページ
ISBN 978-4-10-603679-8
C-CODE 0395
ジャンル 社会学
定価 1,404円
電子書籍 価格 1,037円
電子書籍 配信開始日 2011/11/25

被差別部落に根ざす隠語、あるいは心身障害や職業にまつわる言葉をめぐり、語源や歴史的背景、どこでどのように使われてきたのかなどを具体的に解説。また抗議と自主規制により「消えた言語」となってしまった現状も抉る。“路地”に出自を持ち、「差別の現場」を精力的に取材し続けてきた著者だからこそ書けた「言葉」たちの総覧。

著者プロフィール

上原善広 ウエハラ・ヨシヒロ

1973(昭和48)年、大阪府生まれ。大阪体育大学卒業後、ノンフィション作家となる。2010(平成22)年、『日本の路地を旅する』(文春文庫)で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2012年、第18回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞大賞受賞。2017年、『一投に賭ける 溝口和洋、最後の無頼派アスリート』(角川書店)で第27回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。主な著書に『異邦人 世界の辺境を旅する』(文春文庫)、『被差別の食卓』『被差別のグルメ』『異形の日本人』(いずれも新潮新書)、『私家版 差別語辞典』(新潮選書)、『発掘狂騒史「岩宿」から「神の手」まで』(新潮文庫)、『カナダ 歴史街道をゆく』(文藝春秋)など多数。

ブログ「全身ノンフィクション作家」 (外部リンク)

目次

はじめに
路地
路地
部落
新平民
特殊部落
同和
士農工商
穢多
非人
ヨツ
乞食
河原乞食
サンカ
願人坊主
ぐれ宿
不可触民
ヤクザ
ハク
浅草弾左衛門
車善七
革坊
長吏
カワタ
藤内
下町
ラク町
鉢屋
茶筅
犬殺し
勘太郎
京太郎
木地師
宮番
猿回し
青屋
番太
家船
陰陽師
谷戸
心身障害者
障害と障碍
五体満足
おし
つんぼ
めくら
ビッコ
かたわ
片手落ち
気違い
らい病(ハンセン病)
文盲
どもり
小人
職業
職安
土方・沖仲仕
浮浪者
隠亡
屠殺
くず屋
その他
学歴
片親
あいのこ(ハーフ)
育ちが悪い
丙午
ブス
土人
外人
支那
毛唐
トルコ風呂
ジプシー
カゴ
チョンコ
インディアン
オロッコ
ギリヤーク
おわりに――成熟した社会への試み
引用・参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

波 2011年6月号より 【対談】言葉を殺すのは誰か

上原善広西村賢太

「路地」の衝撃

西村 今回のご著書、「差別語」というテーマなわけですが、とにかくストレートにドーンと入ってくる衝撃がありました。この本を読むには、心構えが必要となりますね。また、ご自分のこととか、ご家族のこととかも、割りと赤裸々に書かれてある。僕としてはこういう部分も面白く、違う楽しみ方もできました。
上原 小説と違ってノンフィクションなので、真実とうたっている分、より質が悪いといいますか……(笑)。
西村 いえいえ、本当に衝撃的でした。それと、最初に出てくる「路地」という言葉、これが被差別部落を指す意味があることも初めて知りました。驚いたな、結構、文章の中で普通に使ってたんで。これからは考えないといけないな……。
上原 今まで通り普通に使って全く問題ありません。「路地」は中上健次が使い出した言葉なんです。それを僕も踏襲して使っているだけですから。
西村 なるほど、そうなんですか。それにしても、上原さんはそもそも何で、「差別語」に興味を持たれたわけ?
上原 本にも書きましたが、出身が「路地」なんですよ。大阪の河内松原です。
西村 「河内音頭」とかの?
上原 そうです。そうしたところの出身なので、ずっと興味を持ち続け、「路地」のことを書き続けてきました。一昨年、文藝春秋から出した『日本の路地を旅する』は、もう十年以上も、各地の「路地」を歩き回り、まとめたものなんです。
西村 それが大宅賞を受賞した。
上原 はい。実は、その本、本当は新潮社から出すつもりだったんですよね。でも、折り合いが悪く断られてしまった。それが、見事、大宅賞に……(笑)。ところで、西村さんもよくあちこちの出版社で出入り禁止になっているとご自身で書かれてますが、それはどうしてですか? 表現への拘りなどで編集者と対立して?
西村 いや、そういう以前の問題です。僕の場合、編集者と個人的に仲が悪くなってしまう。上原さんのように、硬派な、考え方の違いといったことでの衝突ではなく、本当に個人的な感情だけ。
上原 そうですか。僕は、恐らく西村さんは校正の段階で表現に拘って、それで編集者とぶつかってしまうんだろうと思っていたのですが。僕はよく校正の時に、編集者と衝突するんです。
西村 校正は、僕はどちらかというと「あなた任せ」ですからね。もちろん、自分で手は入れるんですよ。でも、例えば校閲部からの「疑問」が出たら、そこは極力意に沿うよう直します。

「乞食」も「オカマ」もダメ

上原 では、「禁句」ということについては、どう思われますか? 今回、この本に書いた言葉は皆、いわゆる禁止用語になっています。表現をしていく上で、以前、筒井康隆さんが「日本てんかん協会」から抗議を受けて断筆宣言をせざるをえなくなったような、そうした恐ろしさとかを考えたりすることはありませんか? 例えば社会運動団体からの抗議とか……。
西村 僕は現代の作家の中では、割と進んでそうした言葉も使っている方だと思うんですね。ただ、それは落語に出てくるようなユーモアの極端なやつというのかな。差別という意識は全くない。短編には、『乞食の糧途』というタイトルのものもあります。「乞食」って、禁句でしょ?
上原 放送では禁止です。出版では歴史的なものとしては可能となっていますが。
西村 でも、おかしいと思うのは、乞食というのは、現在ではいないわけじゃないですか、職業として。三十年ほど前までは、まだ傷痍軍人といった人が駅などにいた。多分、それが最後でしょう。ホームレスは、この本でも書かれているように、乞食とは違うわけですから。
上原 この本に書いてある言葉はほとんどダメといっていい。新聞社や通信社もマスだから、規制が大きいです。西村さんはそうした媒体に書かれる機会もあると思いますが、そこで禁句だといわれたら、その時はどうします?
西村 まぁ、媒体によってダメだという時は仕方ない、柔軟に対応しますかね。その言葉を使わなければいけない意味があるか、その辺、割と僕は緩いんですよ。
上原 西村さん、「オカマ論争」ってご存知ですか? 筒井さんが断筆宣言した時は、「差別語」についてずいぶん議論がなされましたが、その後、規模は小さくなるんですけど、「オカマ」という言葉が差別的かどうか、市民団体レベルで議論されたことがあったんです。
西村 へー、知らなかった。
上原 でも、「オカマ」という言葉だったら、結構、西村さんの作品にも出てきそうじゃないですか。それが差別語だからダメだといわれたら……。
西村 確かに「オカマ」ぐらい使って、何が悪いの?って思ってしまいますが。
上原 だけど、それでゲイ、ホモの人は傷つくというんだそうです。
西村 うーん、そこまでの話になると、個人レベルの話し合いにすべきじゃないかな。確かに心ない言葉で傷つけられるというのは分る。上原さんと初めてお会いしてそうだと分ったんですが、僕ら「デブ」といわれることがあるじゃないですか。それ、いう方は平気な顔してますが、いわれる方は結構、腹が立つものですよ。
上原 そうですね(笑)。
西村 だからといって、「デブ」が世間的に流布していても、全然問題ないですよ。直で「このデブ野郎!」などといわれたら、「何を!」となるぐらいの話でしょ。それを徒党を組むというか、団体で抗議したりするというのは、「言葉狩り」という以前に何かがおかしいと思えてしまう。

私小説で「文章の怖さ」を知る

上原 話は変わりますが、西村さんが敬愛してやまない大正の作家、藤澤清造は、関東大震災の際に、ルポルタージュを書いているようですね。
西村 ええ、そうなんです。
上原 では、西村さんも今回の震災をきっかけにルポやノンフィクションをお書きになるという気持ちはないのですか?
西村 いや、それは全くないですね。仰るように僕は清造の弟子を名乗っているわけですから、これは今、福島の原発に行ってつぶさに惨状を見て書かなければならない、そういう意思はなきにしもあらずなのですが、いかんせん、実行力が伴わない。頭の中でやりたいなと思うだけで、終わってしまう。それに比べて、上原さんは、現場にすぐ行かれますよね。
上原 とにかく現場を踏みたい質なので。
西村 この本の中でも、ホームレスの人から話を聞き、東北の故郷のことを聞き出すと、その足でもう「こまち」に乗り込んでいる。あなたは本当に生まれついてのルポライター魂をお持ちなんですね。
上原 そうですかね。でも、こんな僕でも実は一度だけ、ある文芸誌に「私小説を書かないか」といわれたことがあるんですよ。「この書き方だったら私小説も書けるはずだから」と。で、チャレンジしてみたんです。一年間だけですけど、他の仕事は一切やめて小説だけに没頭した。
西村 ほー、それで?
上原 ところが、どうしても書けなかった。結局、声をかけてくれた文芸誌にはお断りしたんです。それまでは、私小説ぐらい書けるよと、どこかバカにしたところがあったと思う。でも、いざやってみると、ひれ伏すというか、「文章って恐ろしい」と痛感させられました。それで、その時に、それまでろくに現代の私小説を読んでいなかったので、文芸誌の方に「どなたの本を読めばいいですか」と聞いてみたんです。そしたら、車谷長吉さんと西村さんの本を渡された。読んでみて、改めてこれは及びもつかないと……。
西村 いやー、そんなそんな。
上原 だから、僕はノンフィクションしかできない人間なんですよ。もっとも、以来、西村さんの本は愛読していますが。
西村 でも、上原さんはそれで大宅賞を取られたんだから、いいじゃないですか。
上原 まあ、結果オーライですね。

屠場の痛み

西村 実は僕、品川にある食肉加工場、屠場へ働きに行った経験があるんです。でも、あまりのきつさに音を上げて一日でやめてしまいましたが。
上原 へー、そうなんですか。それはいい体験をしましたね。今では、一般の人は簡単に入れないはずですから。
西村 そうなんですか。僕が行った平成二年頃は、求人誌にも載っていましたがね。それで、現場にいってみると、トラックから降りてきた牛を電気の棒で追っている。やがてその牛たちの鳴き声が聞こえてきて、その後、解体の作業が始まる。とにかく返り血がものすごかった……。
上原 うちは食肉業を営んでいたので、僕もよく父親について行き、現場の辛さは見ていました。
西村 そのきつさに、僕は一日でも耐えられませんでしたね。
上原 とにかく屠場というところは、もっともたいへんな労働環境といっていいでしょう。だからこそ、屠場などの言葉を比喩で使うと抗議してくる。僕はその胸の痛みも分るし、いってくる気持ちも分らないではない。複雑な思いです。ただ、だからといってそれを全て受け入れてしまえば、結果的に言葉を殺すことになってしまう。
西村 なるほど。それにしても、何で出版社は、そういった抗議を突っぱねられないんでしょうか。至って抗議団体に弱い。すぐにいいなりになってしまう。
上原 本当に弱いですよね。だから「部落問題」を扱った小説が、『橋のない川』や中上健次ぐらいで止まってしまっている。
西村 編集者が皆インテリなんで、舐められてるんじゃないですかね。だったら編集者に、中卒の肉体労働者みたいな者ばかりを集めればいいんですよ。そしたら舐められなくなる。極論でしょうか?
上原 いや、いい考えですよ。
西村 もっとも、偉そうなことをいってるけど僕は被災地に行きたくても行けない臆病者なんですがね。放射能が怖い。
上原 逆に僕は、そういう場所に進んで行きたくなってしまうんですよ。
西村 それは、上原さんはそうじゃなくちゃいけません。でも被曝といったことなど考えると、怖くならないですか?
上原 僕の場合、被曝してなんぼですから。
西村 へー、すばらしい! この人こそ本当の無頼派だ。今日は無頼派とエセ無頼派の対談ということで……(笑)。

(うえはら・よしひろ ノンフィクションライター/にしむら・けんた 作家)

担当編集者のひとこと

私家版 差別語辞典

「心構えが必要」な一冊「とにかくストレートにドーンと入ってくる衝撃がありました。この本を読むには、心構えが必要となりますね……」
 芥川賞受賞作家である西村賢太さんが、本書を読まれた率直な感想です。刊行に当たり小社PR誌「波」誌上にて、西村さんに著者の上原さんとの対談をお願いしたのですが、その際に西村さんが発した第一声でした。
 本書『私家版 差別語辞典』でとりあげられている「言葉」は、いわゆる「放送禁止用語」ばかりです。つまり、“ある”のに使われない、“消された言語”たちです。そうした「言葉」たちの出自、どこでどのように使われていたか、歴史的な背景などを解説した一冊ですから、西村さんのいうように、確かに「読むには、心構えが必要」なのかもしれません。
 続けて、西村さんは本書のことを、こうも評してくださいました。
「また、ご自分のこととか、ご家族のこととかも、割りと赤裸々に書かれてある。僕としてはこういう部分も面白く、違う楽しみ方もできました」
 私小説を書かれる西村さんならではの観点のように感じました。単なる“総覧”に終始するのではなく、「路地」に生まれ、深く見つめてきた上原さんの等身大の姿がこの本には込められているのです……。
 西村さんの小説の「大の愛好家」という上原さん、そのたっての希望で実現した対談でした。私小説とノンフィクションの境界線、あるいは表現の自由をめぐって等々、縦横無尽に話題が及ぶお二人のやり取りが楽しめます。本はもちろんですが、対談を収めた「波」6月号もぜひご高覧ください。

2016/04/27

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