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指揮者は音を出さない不思議な音楽家。では一体、何をしているのか?

指揮者の役割―ヨーロッパ三大オーケストラ物語―

中野雄/著

1,540円(税込)

本の仕様

発売日:2011/09/22

読み仮名 シキシャノヤクワリヨーロッパサンダイオーケストラモノガタリ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 319ページ
ISBN 978-4-10-603688-0
C-CODE 0373
ジャンル 音楽
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2012/03/09

オーケストラにとって指揮者は不可欠のカリスマか、それとも単なる裸の王様か? どんな能力と資質が必要とされるのか? ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、コンセルトヘボー管弦楽団を舞台に、フルトヴェングラーからカラヤン・小澤をへてゲルギエフまで――巨匠たちの仕事と人間性の秘密に迫る。

著者プロフィール

中野雄 ナカノ・タケシ

1931年、長野県松本市生まれ。音楽プロデューサー。東京大学法学部を卒業後、日本開発銀行をへて、オーディオ・メーカー「ケンウッド」の代表取締役CFO、昭和音楽大学・津田塾大学講師を歴任。LP・CDの制作でウィーン・モーツァルト協会賞など受賞多数。著書に『丸山眞男 音楽の対話』『モーツァルト 天才の秘密』『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』(いずれも文春新書)がある。

書評

まことに内容充実の指揮者論

宇野功芳

 中野雄さんの博識さには本当に頭が下がる。本書は「指揮者の役割」、つまり指揮者とはいったいどのような存在なのかという問題を、誰にでも分るように事細かく説明している。もともと文章の立つ方ではあるが、ここでは彼が長年蓄積した厖大な知識を駆使して、指揮者と、オーケストラにとって最も重要なコンサートマスター、さらにはオーケストラそのものについて、かんでふくめるように親切に解説・解明してゆくのである。
 彼は実に多くのコンサートマスター、オーケストラの楽員、指揮者から多年にわたってあらゆる情報を得ている。中野さんは年中、手当たり次第に質問している。誰彼となく絶えず質問している。その情熱は半端ではない。だから、その人たち(多くはウィーン・フィルやアムステルダム・コンセルトヘボウのコンマスのような有名人の実力者)から極めて多くの言葉を引き出している。その根気には圧倒されてしまう。そういう足でかせぐ仕事を何十年もつづけているのだから、この本にこめられた豊かな情報量は、それを求めている人にとっては、まことに内容の充実し切った、宝のようなものであるにちがいない。
 ヘルマン・クレッバースが述べた、「ユダヤ人音楽家は、手の指の第一関節より先の部分が標準サイズより長い。しかもその多くの掌は肉付きがいいから、ヴィブラートが大きく、ゆったりとしていて、紡ぎ出されるヴァイオリンの音色が柔かく、濃密である」などの言葉は、中野さんだからこそ引き出せたものといえよう。
 N響のコンマス篠崎史紀の次のような主旨の言葉、「昔はレコードがなかったから、人の演奏も自分の演奏も聴けない。だから今から考えればとんでもない演奏もまかり通っていただろうけれど、一人ひとりの演奏は個性的にならざるを得ず、そういう土壌から巨匠の演奏が生まれたんじゃないか」も、日頃ぼくが考えていることに共通するものがあって興味深い。
 もっとも、中野さんの方法論はぼくとは正反対である。ぼくは情報を決して求めない。情報は自分にとって有害だと思うからだ。でも必要な情報ならいつか必ず入ってくる。それを待っていれば良いのだ。多くの人が絶讃する小澤征爾指揮のサイトウ・キネン・オーケストラも一度も生を聴いたことがない。それを批評家として怠慢とは思わず、むしろ誇りに思っている。ぼくにとっていちばん重要なのは自分の耳だけである。
 というわけで、この本を読むと、自分もそう思うとか、そうは思わないとかの考えがつぎつぎと出て来て、原稿用紙二十枚や三十枚の原稿は簡単に書けてしまいそうだ。いずれどこかに、ぜひ発表してみたいものだと楽しみにしている。
 中野さんの本はぼくの音楽観を大いに刺戟する。

(うの・こうほう 音楽評論家)
波 2011年10月号より

目次

序章 指揮者の四つの条件
第一章 指揮者なんて要らない?――ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
絶美・陶酔のアンサンブル体験
ウィーン・フィルの恐るべき力量
コンサートマスターの身振り
小澤征爾という指揮者をどう思うか?
気に入らない指揮者には牙を剥く
二一世紀のウィーン・フィル

間奏曲その一 世界一のオーケストラはどこ?
第二章 カラヤンという時代――ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
凄腕揃いのチェロとコントラバス
カラヤンの残像
二人の先駆者――トスカニーニとフルトヴェングラー
鬼才が帝王となるまで
帝王の時代
頂点を極めた男の見果てぬ夢

間奏曲その二 コンサートマスターの仕事とは?
第三章 オーケストラが担う一国の文化――ロイヤル・コンセルトヘボー管弦楽団・アムステルダム
伝説の奏者ヘルマン・クレッバース
ピーツ・ランバーツの回想
救世主ベイヌムの死と後継者問題
名コンサートマスター誕生
ハイティンクの時代
歴代の指揮者をブラームスとマーラーで聴き比べる
終章 良い指揮者はどんな指示を出すのか?
あとがき
私の好きなCD&DVD30選

まとめテーマでくくる 本選びのヒント

担当編集者のひとこと

素朴な疑問に答えます

 指揮者はオーケストラのなかでただひとり、音を出しません。考えようによっては、じつに不思議な音楽家。では一体、何をしているのか? どんな資質や能力の持ち主なのか?
 本書はそんな素朴で本質的な疑問に、さまざまな角度から具体的に答えてくれます。著者の中野雄(たけし)さんは、長年オーディオとレコード事業の経営にたずさわった音楽プロデューサー。クラシック音楽ファンなら『丸山眞男 音楽の対話』や『モーツァルト 天才の秘密』などの著作で、その平明な語り口や膨大な知識量をすでにご存じかもしれません。音楽評論家の宇野功芳氏によれば、「中野雄さんの博識さには本当に頭が下がる。……彼は実に多くのコンサートマスター、オーケストラの楽員、指揮者から多年にわたってあらゆる情報を得ている」。
 そんな中野さんが七年がかりで書き下ろしたこの本は、ヨーロッパの三大オーケストラ(ウィーン・フィル、ベルリン・フィル、コンセルトヘボー管)を舞台に、フルトヴェングラーからゲルギエフまで、古今のマエストロたちの仕事と人間性の秘密に迫ったものですが、随所で貴重な「情報」が公開されています。ベルリン・フィルの奏者は自分の楽団とウィーン・フィルの違いをどう感じているのか。伝説の名コンサートマスター、ヘルマン・クレッバースはコンセルトヘボー管に移るにあたって、指揮者のヨッフムからどう口説き落とされたか。ウィーン・フィルの内部でバーンスタインの声価が高まったのはなぜか。カラヤンの真価、小澤征爾の海外での評価は実際どんなものなのか……。中野さんだからこそ引き出せた、名音楽家たちの述懐や本音を知るだけでも面白いのですが、「指揮者の役割」に焦点をあわせたこの本を読み進むと、三大オーケストラの個性や歴史についても自然とその輪郭がくっきり浮かび上がってきます。
 読み終えて、音が聴きたくなったら――巻末のCD&DVD案内をご活用ください。

2011/09/22

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