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日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―

板谷敏彦/著

1,870円(税込)

発売日:2012/02/24

  • 書籍
  • 電子書籍あり

二〇三高地でも日本海海戦でもなく、「国際金融市場」にこそ本当の戦場はあった!

「戦費調達」の絶対使命を帯び欧米に向かった高橋是清と深井英五。彼らを待ち受けたのは、急速に進化した20世紀初頭の金融マーケットであった。未だ二流の日本国債発行を二人はいかに可能にしたのか? 当時の市場の動きを辿ることで外債募集譚を詳細に再現し、全く新たな日露戦争像を示す――これはもう一つの「坂の上の雲」だ!

目次
序文
第一章 高橋是清と深井英五
高橋是清
深井英五
第二章 二〇世紀初頭の金融環境
列強世界のGDP
「承認の印章」、金本位制度
ロンドン・ロンバード街
マーチャント・バンク全盛の時代
魅力的な投資先だった新興国・日本
勃興するインベストメント・バンク
ノーザン・パシフィック事件
第三章 日露開戦
シベリア鉄道とロシア南下策
一九〇四年の兜町大暴落
金子堅太郎と伊藤博文
逡巡するベアリング商会
抱き合って泣いた元老達
ニューヨークのユダヤ人商人会で
ロシアの財政事情、ペテルブルクの悩み
戦費と公債発行、日本とロシアの国力差
第四章 高橋の手帳から見る外債募集談
暗涙を催す人々
鐚一文の信用無し
絶望的な公債発行
マカロフに追悼の意を表す日本人
トレジャリー・ビルかボンドか
新しい訪問者、カッセル配下のビートン
鴨緑江(ヤールー)の戦い
クーン・ローブ商会のシフ
厳しい公債発行条件
一転して人気急上昇の日本公債
「日本を開国したのはアメリカ」だから
オー・ヘンリが描いた日露戦争
日本国内での評価
公債募集談の真相
第五章 戦況と証券価格
松尾日銀総裁の見積もり
黄海海戦・遼陽会戦
旅順陥落を待つべし
北海海上で起きた「ハル事件」
第二回公債発行
半年以上も遅れた旅順要塞陥落
ようやくなされた一時帰国
血の日曜日事件
ウィルヘルム二世の密書
奉天会戦での分かれ目
好転した第三回公債発行
ドイツとフランスの思惑
勝つと売られる日本公債
バルチック艦隊の東航
日本海海戦の衝撃
シフとの関係で乗り切った第四回公債発行
珍客万来、米国の紳商
翻弄されるポーツマス会議
日比谷焼打事件、「ハリマン博士一行の災難」
第六章 戦後と南満洲鉄道
桂・ハリマン覚書
満州版「東インド会社」
モルガン商会からの提案
ロスチャイルドが参加した借り換債
ハリマンの豪華パーティー
外国人投資家を締め出した鉄道国有法案
南満洲鉄道、IPOの開始
最後の資金調達
エピローグ 日露戦争のその後
注(引用文献)
年表

書誌情報

読み仮名 ニチロセンソウシキンチョウタツノタタカイタカハシコレキヨトオウベイバンカータチ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 464ページ
ISBN 978-4-10-603699-6
C-CODE 0333
ジャンル 日本史
定価 1,870円
電子書籍 価格 1,496円
電子書籍 配信開始日 2012/08/31

書評

波 2012年3月号より 日露戦争を見つめる多様さの必要性

保阪正康

著者は「序文」で、本書には戦闘シーンはないと断わり、「金融市場の側面から日露戦争全体を見直そうと試み」たと書いている。この視点から日露戦争を説き起こした書がないとの実感をもつのだが、さらに二つの新しい発見がある。
その第一は、近代日本の因と果の関係が図らずも裏打ちされていること。そして第二は、国際金融市場のメカニズムの中で「戦争」がどのように理解されているかを、少なくとも日本の有能な財政家たちは把握していたこと。あえてもう一点補足の意味で伝えるなら、日露戦争時の軍事指導者たちは、軍事行為が国家の財政の枠内でどこまで行えるのかを知っていたことも挙げられる。たとえば奉天占領のあと東京の参謀本部は、さらに新たな作戦方針を立てるのだが、満州軍参謀長の児玉源太郎は東京に戻り、山県有朋らに、さらに一年間ロシアと戦うのなら二十五万人の兵力と十五億円の戦費が必要だと訴えて、次の作戦計画を中止させている。
こうした事実は、昭和期の関東軍とはまさに大違いである。
前述の二つの発見の第一についていえば、小村外相が、たとえば「桂・ハリマン協定」破棄に用いた論理(「満州は二十億の軍資金と十万の大和民族が流した血で獲得」)が、大正期、昭和期の軍人たちの骨格の思想となった。この論理を「因」とするなら、「果」はあまりにも犠牲が大きすぎた。さらに近代日本が国際社会に雄飛するとき、ロシアは常に脅威の存在で、それが「因」となって、日露戦争は「果」となったこともわかる。
だが本書は類書もまだ見当たらず、さらにその視点にも独自性があり、そして記述もきわめて論理的で説得力をもっているのは、前述の第二の点で裏づけられる。戦費調達のためにアメリカ、ヨーロッパに赴く高橋是清と深井英五の動きと、二十世紀初頭の国際金融市場のメカニズムを丹念に詳述しているのだが、このことによって読者は、戦争は軍事だけではなく、金融市場の冷徹な論理にさらされることを知る。「当時のロンドン市場は、世界中の金利や為替、株式、コモディティや船舶の価格、保険料までを取引」していたといい、そういう価格情報は世界に発信されていた。こういった状況下で日本国債はどのような位置づけをされていたか、さらに新興国日本はベアリング商会などが有力な投資先と考えていた内幕なども語られる。シティやウォール街が巨大な力を持つ中で、日本の財政家たちが戦費調達を目ざして築く投資家との人間的なつながり、財政理論を吸収しての情報発信などは、「財政家による日露戦争」ともいえる。
日露戦争の戦闘状況によって、たとえば旅順要塞攻略の進展で日本公債価格が順調に上昇する経緯など、本書は日露戦争を見つめる多様さの必要性を訴える。こうした書が待たれていたのだが、今やっととの感を与える貴重な書である。同時に現在の国債依存の不自然さも実感させられる。

(ほさか・まさやす 評論家)

担当編集者のひとこと

日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―

百年前の日露戦争の、金融市場から見た「今日的な意味合い」 百年も前の話にもかかわらず、“日露戦争もの”は今も変わらず人気です。司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』はもちろんのこと、これまで出された書籍は数え切れぬほどで、何を今さらと思われるかもしれません。しかし、本書は全く新しい視点から独自の「日露戦争像」を描きます。ただし、戦闘シーンは一切ありません。本書は、国際金融マーケットの側面から戦争の全体像を見直そうとする試みなのです。
 主役は、後に二・二六事件で暗殺される高橋是清と日銀総裁となる深井英五。まだ若かりし彼らに課せられた使命とは、大国ロシアと戦うだけの資金調達のため日本国債を海外で売りさばくことでした。今日では当たり前のように大量発行されている国債ですが、国を担保に借金をすることなど、開国間もない日本にとって全く未知のことでした。一方で二十世紀初頭の世界は、金本位制のもと為替レートが安定し、現代から見ても驚くほどに発達した国際金融市場が出来上がっていたのです。二人の日本人は、いかにして東洋の新興国・日本の国債を世界に認めさせることができたのか……。
 これまで定説とされてきたユダヤ人銀行家ヤコブ・シフと高橋是清との「偶然の出会い」、そしてシフによる「善意の融資」――それらを覆す、まさに生き馬の目を抜くような欧米バンカーたちとの丁々発止の駆け引き。日本海海戦や奉天会戦など日露戦争における個々の戦闘、ロシア革命などの国家的事件により、刻々と冷徹に価格付けされる公債市場のスリリングな展開……それらを、当時の証券市場の動きをつぶさに辿ることでリアルに再現します。
 著者は、国際金融のプロフェッショナルです。著者は問いかけます。異常なまでに累積した現在の赤字国債が辿る将来の日本を暗示するものとして、これは決して百年前の話では終わらない、今日の話だと――。

2016/04/27

著者プロフィール

板谷敏彦

イタヤ・トシヒコ

1955年、西宮市生まれ。県立千葉高校、関西学院大学経済学部卒業。石川島播磨重工業を経て日興證券へ。株式部、NY駐在、機関投資家営業を経験。その後、ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン等でマネージング・ディレクター、みずほ証券で株式本部営業統括に就く。2006年、和製ヘッジファンドを設立して話題となる。著書に『日露戦争、資金調達の戦い―高橋是清と欧米バンカーたち―』(新潮選書)、『金融の世界史―バブルと戦争と株式市場―』(新潮選書)、『日本人のための第一次世界大戦史』(角川ソフィア文庫)。

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