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貧者を喰らう国―中国格差社会からの警告【増補新版】―

阿古智子/著

1,430円(税込)

発売日:2014/09/26

  • 書籍
  • 電子書籍あり

焦燥、怨嗟、慟哭、絶望……「格差」があの国を破壊する!

中国建国65周年、共産主義の理想は、なぜ歪んだ弱肉強食の社会を生み出したのか。エイズ村、農民工、学歴競争、役人汚職、ネット世論、反日運動……中国社会の暗部に深く踏み込んだ女性研究者による衝撃の書。習近平政権発足後、ますます緊迫の度合いを深める階級闘争の最新レポート2章を加筆し、選書版で登場。

目次
はじめに
第一章 エイズ村の慟哭
不満を爆発させる輸血感染者/政府も関与していた血液ビジネス/生かされなかった他国の経験/「政績」重視の中国政治/裁判で解決できない理由/「上訪」―中国特有の陳情制度/医師やNGOへの圧力/「被害者」が「犯罪者」に転落する理由
第二章 荒廃する農村
戸籍制度が規定する「農民」/不公平な農業税制度/烏蘭蘇村の農民たち/「村民自治」の現実/農民負担問題/農村税費改革/自治の後退/崩壊する集団灌漑システム/困難な利害調整/民営化の弊害/土地をめぐる争い/娯楽、人間関係の変化
第三章 漂泊する農民工
若者のいない村/第二世代の農民工/複雑なアイデンティティ/露天商の厳しい現実/「市民」不在の無法地帯/戸籍制度の変遷/難航する戸籍制度改革/「勝ち組」が支配する社会の現実
第四章 社会主義市場経済の罠
毛沢東時代の土地改革/「先富論」と農村の土地制度/失地農民の出現/失地農民の行く末/「重慶茶館爆破事件」と「補償金離婚」/小産権の出現/錯綜するエゴイズム/私有化は可能か/「社会主義市場経済」はなぜ機能しないのか
第五章 歪んだ学歴競争
格差を助長する大学入試制度/「自力更生」と競争原理/点数は金で買える/豪華すぎる実験モデル高校、ブランド化を図る重点高校/さまざまな公私協同学校/高額化する大学の学費/壊れていく子どもの心/なぜ親を殺さなければならなかったのか/「自分」を表現したい
第六章 ネット民主主義の行方
記者逮捕――インターネットが主戦場に/インターネットが変える言論空間/「人肉捜索」の威力/「囲観」(傍観)がつくる変革への基盤/「ネット世論」が判決を左右する/「憲政」を武器にする新公民運動/中国における「言論の自由」
第七章 公共圏は作れるのか
毛沢東の「虚偽」/薄熙来事件と「法の支配」/「救亡」と「啓蒙」をめぐる葛藤/ソフトランディングは可能か/公共圏を発展させ、越境させる
選書版あとがき
主要参考文献

書誌情報

読み仮名 ヒンジャヲクラウクニチュウゴクカクサシャカイカラノケイコクゾウホシンパン
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 256ページ
ISBN 978-4-10-603757-3
C-CODE 0395
ジャンル 社会学、地理・地域研究
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2015/03/20

書評

波 2014年10月号より 中国の不条理を「内部」から描く

津上俊哉

二〇〇九年、貧しい農民や都市に暮らす出稼ぎ農民工など、中国の弱者が直面する問題をビビッドに描いた意欲作が刊行されて反響を呼んだ。本書の初版「貧者を喰らう国」である。
著者は農村や都市の小中学校でクラス副担任と一部授業を担当し、農村では農業灌漑や学校建設事業に関わり、都市に暮らす出稼ぎ農民工を支援する現地NGOにも加わりながら研究を進めた。そうしたのは、「長期にわたって現地の人々と仲間としての関係性を築いて」「内部者としての役割や視野」を得るためだと言うが、初版を一読して、著者の情熱と意欲に驚いたことを覚えている。
中国の不条理に対して、「内部者」と共に苦悩し努力する著者の姿勢は、一緒に働いた中国の社会運動家たちに認められて、人脈が拡がっていく。従来、彼らと日本の繋がりは極めて限られていたが、その後著者の働きかけで日本との繋がりを得た人も少なくない。
今回の増補新版で加筆された「第六章 ネット民主主義の行方」「第七章 公共圏は作れるのか」では、彼ら社会運動家に加えて、ネット言論空間で活躍する人、「憲政」を重んじる新公民運動家など新しい友人たちの活動や思いも取り上げられている。

*    *    *

本書で取り上げられている問題の多くは、農民問題である。土地制度、教育、社会保障面の差別、横暴な末端行政と救済手段の欠如――中国の農民と農村を取り巻く現行制度(の後れ)が救われない弱者を産み出す構造は、初版から五年経ったいまも基本的に変わっていない。
中国は「経済建設」を優先して飛躍的な経済成長を遂げたが、政治体制改革を封印した咎めは大きかった。いま中国社会に不条理と緊張が充満している大きな原因はここにある。一言で言えば、未だに「共産党の指導」という単線的な仕組みしかない中国の統治のあり方が、経済・社会の発展にも国民意識の変化にも、まったく追いつけなかったのである。
習近平政権は「このままでは、共産党はもう持たない」という危機感をバネに、昨年一一月の「三中全会決定」で、大胆な改革を宣言した。そこには社会の緊張を高める農民・農村の格差問題を是正するための制度改革だけでなく、無力な司法を強化する統治改革も想定されている。
今後多くの政策がとられるだろうが、変化には長い時間がかかるし、成否も「計り難し」であろう。著者が本書で指摘するように、中国が抱える問題の根底には、「信頼や公平なルールの欠如」があり、良い国になるには「公民社会や公共圏の構築」が欠かせない。そういう社会の営みのあり方は、政府の政策だけで変わるものではないし、成功体験の蓄積も必要だからだ。
著者がこの過程を「ウォーム・ハート&クール・ヘッド」で見守り続け、やがて「『貧者を喰らう国』のその後」を書く日を待ちたい。

(つがみ・としや 現代中国研究家)

担当編集者のひとこと

貧者を喰らう国―中国格差社会からの警告【増補新版】―

ただの「反中」本ではありません 本書のタイトルを見て、「ああ、また最近流行りの“反中”本か」と思った方もいるかも知れません。実際、書店に行くと、いわゆる反中・嫌中の本が、これでもかというほど並んでいます。特に2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件以降、この手の本が目立つようになりました。
 しかし、本書の初版本が出たのは、尖閣の事件に先立つこと1年前。著者に原稿を依頼したのは、そのさらに1年前、ちょうど2008年の北京五輪の直前でした。その頃は五輪のお祭りムードもあり、日中関係は今ほど険悪なものではなかったように思います。
 私の編集者としての関心も、むしろ日本をはじめ先進国でクローズアップされつつあった貧困・格差問題にありました。国内の貧困と格差を政府が放置すると、社会や人間の精神にどのような悪影響を及ぼすのか――お隣の「格差大国」の実情から考えてみたいと思ったのです。
 そして、出来上がった原稿の凄惨な内容に度肝を抜かれ、ほぼ直感的に思いついたのが、現在のタイトルでした。つまり、「貧者を喰らう国」とは、中国のみならず、日本や他の先進諸国をも含意したものであり、それゆえに「中国格差社会からの警告」としたわけです。
 とはいえ、本は生き物です。刊行から5年、日中両国の情勢が大きく変化したことにより、本書の内容やタイトルに、また新たな意味が生じてきたのは確かです。そこでこの度、中国で燃え上がる「反日ナショナリズム」の実情など、最新の情勢分析2章120枚を増補した上で、新潮選書から刊行することになりました。
 お読みいただければわかる通り、本書は巷にあふれている扇情的な「嫌中」本ではありません。むしろ著者はあまりに深く「親中」であるがゆえに、内在的かつ徹底的な中国共産党批判を展開し、結果的に、もっとも過激で根源的な「反中」本となった観があります。ともあれ、これからの日中関係を考える上で、とても有益な情報が詰まった一冊ですので、ぜひご一読ください。

2016/04/27

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著者プロフィール

阿古智子

アコ・トモコ

1971年大阪府生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。大阪外国語大学、名古屋大学大学院を経て、香港大学教育学系Ph.D(博士)取得。在中国日本大使館専門調査員、早稲田大学准教授などを経て、2013年より現職。主な著書に『貧者を喰らう国―中国格差社会からの警告』(新潮選書)など。

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