
瀬戸内の海賊―村上武吉の戦い【増補改訂版】―
1,540円(税込)
発売日:2015/10/23
- 書籍
- 電子書籍あり
知られざる海の武将「村上武吉」が史実から蘇る! 「海賊研究」の決定版。
激動の戦国時代、織田信長、毛利元就を翻弄し、瀬戸内を縦横無尽に駆けた「村上海賊」。彼らはいかに生き、 戦ったのか? 第11回本屋大賞『村上海賊の娘』主人公誕生のきっかけを作り、作者・和田竜氏が全幅の信頼を寄せる「海賊研究」の第一人者が最新調査で迫る決定版。和田氏創作の裏話にも及ぶ「海賊対談」も所収。
密集する島々/交通の要衝と海の難所/塩の荘園と海運の基地/権力の境界領域
2 浦々の海賊
海賊との遭遇/撃退される海賊/「関の大将」/通行料としての「礼銭」
【コラムI】 中世瀬戸内海の航路
荘園の警固/能島の海賊、村上義弘/荘園の「押領」/遣明船警固/来島と因島/伝承の世界/武吉の祖父
2 家督の継承
武吉と義益/尼子氏と大内氏/家督争いの背後に/お家騒動の決着/武吉をとりまく人々
3 能島城をさぐる
海城としての能島/交易の拠点/陸地部の城
【コラムII】 「海賊大将」が朝鮮へ送った使節
参戦か非参戦か/来島村上氏の場合/史料の検討/「森脇覚書」の記述
2 毛利水軍の一翼
「武家万代記」/元就の調略/門司城の攻防/大友軍の退路を断つ/豊前蓑島/将軍足利義輝からの命令/児島本太城/豊前田原沖での戦功
3 大友氏への接近
大友宗麟からの書状/諸勢力の対立と同盟
4 能島城、攻撃さる
本太城落城す/元就死す/能島城の危機/能島・来島の和睦
【コラムIII】 戦国期の軍船
信長包囲網/敵船を焼き崩す/海賊の戦法/毛利方水軍の面々/戦力として期待される海賊衆/「鉄の船」/大友氏との関係
2 来島離反
信長の誘い/揺れ動く能島村上氏/秀吉からの書状/調略の方法/情報戦/“軍艦”のような海城/来島城の遺構/両村上氏の戦い/通総の帰国問題/秀吉の四国攻め
【コラムIV】 九鬼嘉隆
フロイスの記録/海賊のテリトリー/上乗りと警固料/肥前鍋島氏の場合/紋章入りの旗/関所破り/関所破りの高い代償
2 海賊たちの港
讃岐塩飽/備中笠岡/周防上関/周防秋穂
3 連歌をよむ海賊
法楽連歌/天正四年の万句
【コラムV】 能島城をどうみるか
能島を去る/二つの禁止令/秀吉からの詰問状/豊臣政権との交渉/九州移住/能島家の所領/毛利氏の惣国検地/朝鮮への出兵/日本海に近い村/小早川隆景の死
2 瀬戸内へ帰る
竹原鎮海山城/元吉の死/小倉城の石垣/離散する家臣団
【コラムVI】 海賊たちの関ヶ原
付録 海賊の世界を歩く
[特別対談]村上海賊と歴史の現場 山内譲vs.和田竜
注・主要参考文献・引用史料の典拠一覧
あとがき
村上武吉関係年表
索引
書誌情報
読み仮名 | セトウチノカイゾクムラカミタケヨシノタタカイゾウホカイテイバン |
---|---|
シリーズ名 | 新潮選書 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 320ページ |
ISBN | 978-4-10-603777-1 |
C-CODE | 0321 |
ジャンル | 日本史 |
定価 | 1,540円 |
電子書籍 価格 | 1,232円 |
電子書籍 配信開始日 | 2016/04/08 |
インタビュー/対談/エッセイ
[刊行記念対談]「歴史の現場」に『村上海賊』を求めて
二〇〇五年に出版されるや、海賊研究の必読書として評価されてきた山内譲氏著『瀬戸内の海賊 村上武吉の戦い』。村上武吉とは戦国期、瀬戸内を縦横無尽に駆け、信長軍をも翻弄した「村上海賊」能島村上家の当主。くわえて空前の海賊ブームを起こした『村上海賊の娘』(二〇一三年、小社刊)の主人公“景”の父親である。
『村上海賊の娘』の筆者の和田竜氏は執筆前から山内氏の著作を読み込み、また山内氏本人にも、さまざまなアドバイスを求めてきた。
増補改訂版の刊行にあたり、海賊を知る二人が再び会い、村上武吉のこと、歴史との向き合い方を語り合った。
「娘」を生んだ『瀬戸内の海賊』
和田 まずは大事なことを言っておかなければならないのは、山内先生の本(旧版『瀬戸内の海賊』)に出会わなければ『村上海賊の娘』の主人公、「景」が生まれてこなかったということです。僕は村上海賊を小説に書くにあたって、詳しく調べていない時から女の子を主人公にしたいと思っていたんです。それで村上武吉の娘、しかも血を分けた実の娘がいないかなと、いくつかある能島村上家の家系図を探していました。
山内 でも、出てくるのは養女ばかり。
和田 そうなんです。村上武吉の史料には、養女の存在はしばしば書かれているのですが、実の娘は全く出てこない。ただ、その中で唯一、山内先生の本にだけ「女」の表記で実の娘の存在が紹介されていたんです。
山内 当時の武将の家系図においては、時々女性の存在が省かれることがあるんですが、武吉の実の娘については『萩藩譜録』の中から見出しました。黒川元康という人物の妻になったことは記してあったので黒川とは何者かということは調べましたが、こちらは、はっきり分からなかった。
和田 とはいえ、先生の本で女性を主人公にすることが出来たのは確かで、実の娘の存在を知った時は「よかった」という感じでしたね。織田と毛利・村上連合軍が戦う「第一次木津川口の合戦」(一五七六年)を描くことは決めていましたから、実の娘が見つからなければ、合戦に出た武吉の長男あたりが主人公となって、また別の作品になっていたかもしれません。
歴史の読み方を知る
和田 ところで、山内先生はどのようにして「海賊」と出会われたのですか?
山内 私はもともと高校の教員で、最初の赴任地が弓削島という瀬戸内の島だったんです。そこは塩を生産する特異な荘園のあったところなんですが、生徒も地元の人も殆ど知らないんです。それでみんなに興味を持ってもらおうと荘園の歴史を調べるうちに、室町期に荘園を解体した勢力、「海賊」に惹かれていった。ですから、もう二十年以上「海賊」と付き合っていますね。
和田 それで研究はどのように進められたのですか。
山内 やはり私の専門は古文書を調べることです。能島村上家は江戸時代、毛利藩に仕えていたこともあって、文書の大半は現在、山口県文書館に一括して収蔵されております。そこには足繁く通いましたし、東京大学の史料編纂所にも行きました。
和田 膨大な史料を読み解いて当時の出来事を見つけ出す。まさに“発掘”ですね。僕も原典は読みたいのですが、どうしても“くずし文字”が読めないので、山内先生のような学者がお書きになった報告書や論文に頼らざるをえない。実際、山内先生にはいろんな原典を読んでいただきました。その節は本当にお世話になりました。
山内 いや和田さんもすごいです。例えば毛利輝元が木津川口の合戦を決意する文書を読んで下さいと頼まれた時には驚きました。何しろ研究者が見過ごしていた史料ですからね。東大の史料編纂所で見つけ出されたのですか?
和田 そうです。先生にご助言いただいた時期の史料群をコピーしたのですが、その中から見つけました。
山内 そうやって歴史小説が作られてゆくと思うと、私たち歴史研究者も学ぶことが多いです。と同時に、歴史研究も小説も、やはり現場に行かなければなりませんね。「村上海賊」においては潮の流れ、島の形、狭い水路……そういったものが分って初めて、古文書も的確に読めるんです。
和田 そうですね。先生の『瀬戸内の海賊』でも私の『村上海賊の娘』でも、読者の方には、是非、瀬戸内を見ていただきたいですね。行くと、また新たな読み方、発見があると思います。
(やまうち・ゆずる 松山大学教授)
(わだ・りょう 作家)
波 2015年11月号より
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担当編集者のひとこと
あの『村上海賊の娘』のヒロインは本書から生まれた!
和田竜さんの『村上海賊の娘』は、もうお読みになりましたか? 2014年の『本屋大賞』に選ばれたこともあって、あっという間の100万部超のベストセラー。2016年夏には待望の文庫化で、こちらも発売から1ヶ月も経たずに100万部を記録しました。
海の名将・村上武吉を頭領にいただく「村上海賊」が第一次木津川口の合戦で信長軍をキリキリ舞いさせるシーンなんて、いやもう、何度読んでも手に汗握ってしまいますし、武将たちの日常の暮らしぶりだって、あとから思い返すと、アレ、どこかで見たような……そんな気分になって来る! などと『村上海賊の娘』を語り始めるとキリがないのですが、改めて作品の魅力を挙げるのならば、やはり描写のリアルさにあるでしょう。読めば光景がスッと立ち上がり、個性豊かな登場人物が縦横無尽に動き回る。もちろん、それは和田さんの筆の力に拠るところが大きいのですが、それだけでは決して歴史小説のリアルさは生まれてきません。
和田さんは膨大な資料を丹念にしらべて、知られざる武将たちや、砦のかたちを、ひとつひとつ原稿の中に蘇らせました。そして、今回ご紹介するのは、蘇らせる時、その和田さんが“バイブル”として全幅の信頼を寄せた本の増補改訂版です。
著者の山内譲さんは歴史学者として、長年にわたって古文書を読み込み、現地を歩き、村上海賊の来歴から、戦の方法、暮らしぶり、どんな船に乗っていた、どの戦いで誰が何をした……など、海賊のありとあらゆることを、徹底的に研究してきました。本書はその総決算としてひとたび世に出したものに、さらに最新の研究成果を盛り込んで大幅に加筆したものです。
和田さんが「この本に出会わなかったら『村上海賊の娘』は誕生しませんでした」というように、実は『村上海賊の娘』の主人公“景”もまた、山内さんの研究で明らかになった、「村上武吉の実の娘」がモデルになっていますし、他のところでも随所で山内さんのアドバイスが生きています。詳しくは巻末の山内vs.和田の「海賊対談」をお読みいただくとして、本書には他に、小島に浮かぶ不落の「海城」の実像や、秀吉が腐心した村上海賊調略の手練手管……など、村上海賊のファンだけでなく、城マニア、戦略ファン、あらゆる歴史好きを満足させる内容が満載です。
瀬戸内海から見た戦国史——読めば新たな戦国時代が見えてくる!
2015/10/23
著者プロフィール
山内譲
ヤマウチ・ユズル
1948年、愛媛県生まれ。京都大学文学部史学科卒業。愛媛県内の高校教員等を経て、現在松山大学法学部教授。日本中世史専攻。著書に『中世瀬戸内海地域史の研究』『中世の港と海賊』など。