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インドネシア イスラーム大国の変貌―躍進がもたらす新たな危機―

小川忠/著

1,430円(税込)

発売日:2016/09/23

  • 書籍
  • 電子書籍あり

我々はいかにイスラームと向き合うべきか? ——その答えがここに!

力強い経済成長、加速するイスラーム化、テロの脅威など、変貌著しいインドネシア。世界が「イスラームとどう向き合うか?」という重要課題に頭を抱える中、資本主義経済とイスラーム的価値を融和させ、かつ、多宗教/多民族の共生をめざすこの国の重要性は増すばかり。日本の未来をも占う、インドネシアの現在を徹底分析!

目次
はじめに
世界の「イスラーム化」/インドネシア 二〇年間の変容/大国としてのインドネシア/多民族・多言語国家であるということ/多宗教国家・インドネシア/穏健なイスラーム
第一章 テロリズム克服の模索
1 「イスラーム国家」樹立という誘惑
ジャカルタ連続爆弾テロ事件/ISに共感する若者/英語力の向上とイスラーム過激思想/理系エリートが関与した狂信的テロ/沈潜する「イスラーム国家樹立」の衝動/影響力を強めた過激思想家/ISに抗するイスラーム穏健派
2 ISの呪縛から逃れるために
どうやってテロを防ぐか?/硬軟とりまぜたテロ対策/「脱過激化」のイスラーム神学/テロ抑止は可能か?
3 テロリストの残影を追って
過激思想に染まる青年たちの内面理解/テロ死刑囚の肉声を記録した映画/「守る」ための攻撃/グラウンド・ゼロの夜
第二章 加速する「イスラーム化」
1 「イスラーム化」とは何か
中流社会化・学歴社会化するインドネシア/従来の近代化論を覆す「イスラーム化」現象
2 イスラームと資本主義の共存
ラマダーン(断食月)の基礎理解/消費が拡大する「禁欲の月」/存在感を増すイスラーム金融
3 文化受容の視点からみた「イスラーム化」
ムスリム・ファッションの柔軟なイスラーム受容/「ポップなイスラーム」に浸透する現代日本文化
4 学歴社会で重要性が増すイスラーム教育機関
国民教育を下支えするもの/笑顔のプサントレン/テロ対策としてのプサントレン支援
5 なぜ今「イスラーム化」なのか
「二〇世紀は青春の世紀」/「大衆化」するインドネシアの高等教育/過激思想を生んだ近代教育
第三章 揺らぐ「寛容なイスラーム」
1 インドネシア・イスラームの「変調」?
続発する宗教少数派へのハラスメント/レディー・ガガをめぐる賛否両論/世俗主義vs.宗教保守/「寛容性は退潮に転じた」/イスラームにおける「思想のねじれ現象」/なぜ「寛容性の危機」が生じているのか
2 強権が支配した時代へのノスタルジー
スハルト・ノスタルジーと民主化疲れ/プラボウォ旋風の背景
3 イスラームを社会資本に
防災文化において宗教が果たす役割/元テロリストによるコーラン解釈
第四章 インドネシアのイスラーム外交の新潮流
1 イスラーム外交の強化を求める声
対外発信を求めたインドネシア国会/イスラーム指導層の内向き議論/「イスラーム」 を前面に押し出さなかった従来の外交/二重のコンプレックス
2 イスラームの「模範国」としての自信
ユドヨノのイスラーム外交/「シャルリー・エブド」事件の衝撃/ジョコ・ウィドド大統領の訪米
3 イスラーム外交の思想
思想形成を担うイスラーム組織/「大きな構想」/「イスラーム・ヌサンタラ」/内部からの自己批判
第五章 内側から見た親日大国
1 世界一の親日国
「パブリック・ディプロマシー」とは/「日本文化祭」に熱狂する人びと/外交ツールとしてのポップカルチャー/日本は中東よりもイスラーム的!
2 親日感情にあぐらをかくことの危険
「反日」の嵐が吹いた日があった/権力内部の暗闘/文化交流重視という新外交
3 反日感情はなぜ消えたか
東南アジアが評価する名演説/文化交流史の視点から/未来を見据えて
4 歴史を語り継ぐことの重要性
交流のスタートラインでの「ありがとう」/アドミラル前田をどう思いますか?/描かれた「前田武官像」/独立宣言起草に日本人は関与していたのか/よみがえる歴史もある
第六章 イスラーム大国との新たな交流
1 パブリック・ディプロマシーの課題
インドネシアを魅了する韓国文化/新たなミッション
2 新たなパブリック・ディプロマシーの取り組み
青年たちが主導する防災教育/復興交流によって高まる日本への関心/被災者どうしの交流による地域文化の復興/幻の首相スピーチで語られた新しい交流のかたち/イスラーム教育機関へ日本文化を「出前」/日本のイスラーム理解が最重要
おわりに
主要参考文献

書誌情報

読み仮名 インドネシアイスラームタイコクノヘンボウヤクシンガモタラスアラタナキキ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-603792-4
C-CODE 0331
ジャンル 地理・地域研究
定価 1,430円
電子書籍 価格 1,144円
電子書籍 配信開始日 2017/03/17

インタビュー/対談/エッセイ

米中が注目するインドネシアの「イスラーム化」

小川忠

 過激思想に染まった青年たちのテロが続発するなか、欧米世界において反イスラーム感情が拡がりつつあります。イスラームとどう向き合うかが問われる時代に、私は国際交流基金ジャカルタ日本文化センター所長として、本年三月まで四年半インドネシアに駐在し、世界最大のイスラーム人口を抱えるこの国で進行中の巨大な変化を目の当たりにしてきました。
 すなわち、どちらかといえば、従来はさほど戒律にこだわらない「ゆるいイスラーム」として知られてきた国のイスラーム教徒のあいだで宗教意識が鋭敏化する「イスラーム化」現象が大きなうねりをみせており、政治・経済・社会・文化に影響を及ぼしつつあります。
「イスラーム化」のインドネシアに、米国、中国も注目し戦略的な一手を打って来ていることは、両国首脳発言からもうかがい知ることができます。
 二〇一〇年、ジャカルタにやってきた米国オバマ大統領は、経済大国であると同時に世界最大級の民主主義国、多民族国家であるインドネシアの重要性を説きました。独裁制から民主化した経験は東南アジア地域において重要であり、腐敗撲滅や人権擁護に闘うインドネシア市民社会を米国は支援していくとオバマ氏は語りました。
 インドネシアの民主化は、中東世界の民主化を推し進める米国の世界戦略にとって、重要な意味をもつものです。「アラブの春」による民主化が頓挫状態に陥ったことから、米国外交の影響力が低下するなか世界最大のイスラーム国インドネシアの民主化は、米国にとって、イスラームと民主主義の両立の成功事例として注目に値するのです。
 かたや中国の習近平国家主席は二〇一三年、初の東南アジア歴訪の皮切りとしてジャカルタを訪問しました。滞在中、習氏は中国明代の著名な航海家、鄭和の大航海について熱く語りました。
 鄭和。十五世紀、明の最盛期に永楽帝の命により、東南アジア、インド、中近東、アフリカ東岸まで大航海した航海家は、雲南出身のイスラーム教徒だったのです。鄭和が生きた時代は、東南アジアにおいてイスラーム化が進んだ時期であり、そのイスラーム布教において、華人も一定の役割を果たしてきたと語る研究者もいます。
 習氏が鄭和の大航海に言及したのは、インドネシアのイスラームへのメッセージだったのでしょう。習氏はこの発言とあわせて、有力イスラーム指導者を中国に招くことを明言しました。習主席のジャカルタ訪問にあわせてイスラームにアピールする中国の文化外交が展開されたのです。
 さらば日本はどうインドネシアと向きあうのか。日本にとって最も身近なイスラーム大国の変貌、そのプラス・マイナス様々な諸相を、あるがままに理解していただきたい。それが筆者のささやかな願いです。


(おがわ・ただし 国際交流基金企画部長)
波 2016年10月号より

著者プロフィール

小川忠

オガワ・タダシ

1959年神戸市生まれ。早稲田大学卒、1982年国際交流基金へ。ニューデリー事務所長などを経て、2011年よりジャカルタ日本文化センター所長。2016年に帰国し、2016年9月現在は国際交流基金企画部長。学術博士。著書に『インドネシア 多民族国家の模索』(岩波新書)、『ヒンドゥー・ナショナリズムの台頭』(NTT出版)、『原理主義とは何か』(講談社現代新書)、『テロと救済の原理主義』(新潮選書)、『戦後米国の沖縄文化戦略』(岩波書店)など。

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