モノに心はあるのか―動物行動学から考える「世界の仕組み」―
1,320円(税込)
発売日:2017/12/22
- 書籍
- 電子書籍あり
木や石にも「心」はある!
ダンゴムシ研究者がたどり着いた驚くべき世界。
永年にわたるダンゴムシやオオグソクムシなどの研究を通じて、心とは「隠れた活動体」であると定義した動物行動学者による最新作。「心」は、ヒト以外の生物にはもちろん、石などの無生物にさえあると説き、私たちが「何かをしたいと思う気持ち」にも、話す言葉にも「隠れた存在」はあるのだと、新たな世界の見方を提示する衝撃の論考。
参考資料
書誌情報
読み仮名 | モノニココロハアルノカドウブツコウドウガクカラカンガエルセカイノシクミ |
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シリーズ名 | 新潮選書 |
装幀 | 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀 |
発行形態 | 書籍、電子書籍 |
判型 | 四六判変型 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-603821-1 |
C-CODE | 0345 |
ジャンル | 生物・バイオテクノロジー |
定価 | 1,320円 |
電子書籍 価格 | 1,056円 |
電子書籍 配信開始日 | 2018/06/08 |
書評
人生いろいろ、モノもいろいろ
モノには心がある。
かねてより私もそう考えている。例えば「石」。石は黙って聞いている。聞くばかりでうんともすんとも言わないので、あえていうなら頑なヤツ。「石頭」という慣用句もあるし、そもそも「こころ」とは「ここ(凝)り」に由来するわけで、おそらく凝り凝りに固まって動けないのだ。
そうではありません。
本書を読んで私はたしなめられたような気がした。著者によると「石は静止しようと行動している」のだという。通常、静止とは行動しないことだが、「静止しよう」と行動する。言われてみれば、止めるのも案外大変なのである。石は風雨はもちろんのこと、表面が金属やガスなど様々な物質に曝され、化学反応を起こしている。石片が剥がれるなどして徐々に「劣化」しているのだが、その劣化は「石によっても調整される」そうなのである。
「はがれ去り行く石の分子と、まだはがれない石の分子との結合が切れる瞬間は、両分子によって決められるとしか言いようがありません」
分子同士が「それじゃまた」などとつぶやいてお別れしているのか。分子の中には静止行動にかかわらない分子もあり、それらも「間違いなく何らかの活動をしています」とのこと。お互いに活動を抑制したり調整したりした結果、静止している。だから「心」があるというのである。
擬人化ではないのか? と一瞬訝ったのだが、著者の森山徹さんは動物行動学者。どうやら動物の行動を理解しようとする中で「心」を「隠れた活動体」と定義し、それを森羅万象に見出しているらしい。
そのきっかけとなったのはダンゴムシの研究。従来の理論では、ダンゴムシには左右の脚の活動量を均一に保とうとする生得的行動、「交替制転向反応」があるとされていたが、彼は実験でダンゴムシにもそれぞれ「個性」があることを発見した。理論通りの生真面目なダンゴムシもいるが、変わり者で誤作動を繰り返すダンゴムシもおり、さらには変則的な行動を起こす気まぐれなダンゴムシもいて、理論を無視するかのように実験装置を乗り越えたりする。彼らは「心の状態を変化させるスピードが速」く、それが「生得的行動と環境との間に生じる不整合を解消」させることになるのではないか。一匹一匹をつぶさに見ることで「心」は浮かび上がってくるのである。
確かに石も「石」として考えると、均一な固まりとして現われるが、ひとつをじっと見つめれば「心」のようなものを感じる。実際に分子レベルでは細々と活動しているわけで、「心」はそれを体感する媒介なのだ。著者は固定した概念である「世界」「意思」「コミュニケーション」なども「心」の観点から再考する。いわゆる情報理論では言葉には意味があるとされるが、意味は人それぞれ。発信者も受信者も意味を随時「創発」しており、何かが伝わったと感じるのも「意思の伝達感」を脳がでっちあげるだけで、多様なでっちあげこそが「心」の織りなす世界ではないかと。家族や社会も「不確かな集合体」で「個別的な行動決定機構からなる集合体」。お互いの心を尊重すれば、「集団としてまとまる」。まとめるのではなく、まとまる。まとめなくてもまとまるのは、そこに「隠れた活動体」、すなわち心があるからで、強引に統治するのはそれぞれの心を踏みにじることになるのである。
本書はわかりやすく語りかけるように書かれているので、トランプ大統領などにも読んでいただきたい。科学的事象をエモーショナルに描いているようだが、それこそ新たなモーション(活動)を呼び覚ますのではないだろうか。
モノにも心か……。
読了後、私はつぶやき、「大体、モノというものも……」と考えて、はたと気がついた。私たちは物事を「〇〇というものは」などと言いがちである。つまり、なんでもかんでも「もの」化したがる傾向があり、モノに心があるというより、モノこそ心の働きなのかもしれない。
(たかはし・ひでみね ノンフィクション作家)
波 2018年1月号より
著者プロフィール
森山徹
モリヤマ・トオル
1969年兵庫生まれ。神戸大学大学院自然科学研究科博士後期課程修了(博士・理学)。公立はこだて未来大学複雑系科学科助手、信州大学ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点特任助教、同繊維学部助教を経て、2017年12月現在、同准教授。専門は動物行動学、比較心理学、心の科学。ダンゴムシ、オオグソクムシ、ミナミコメツキガニ、そして、モノゴトの心を探究中。著書に『ダンゴムシに心はあるのか』(PHPサイエンス・ワールド新書)、『オオグソクムシの謎』(PHPエディターズ・グループ)。