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野生化するイノベーション―日本経済「失われた20年」を超える―

清水洋/著

1,650円(税込)

発売日:2019/08/21

  • 書籍
  • 電子書籍あり

「米国のマネ」をやめて、成長を取り戻そう。

「アメリカのやり方」を真似すれば、日本企業の生産性は向上するはずだ――そんな思い込みが、日本経済をますます悪化させてしまう。米・英・蘭・日で研究を重ねた経営学のトップランナーが、「野生化」という視点から、イノベーションをめぐる誤解や俗説を次々とひっくり返し、日本の成長戦略の抜本的な見直しを提言する。

目次
はじめに――野生化するイノベーション
序章 あなたがスレーターだったなら旅立ちますか
新天地に向かう農夫/「裏切り者」か「産業革命の父」か/イノベーションは「移動する」/イノベーションは「飼いならせない」/イノベーションは「破壊する」/繰り返し起こる「経験的な規則性」/イノベーションには「パターンがある」
第一部 イノベーションの「習性」を知る
第一章 イノベーションとは何か
経済的な価値と新しさ/エジソンの投票機の挫折/なぜ破壊が必要なのか/馬が大量に失業する/インパクトは「じわじわくる」/「時間差」が抵抗を呼ぶ/イノベーションは「逓増する」/イノベーションは「群生する」/イノベーションを測定する
第二章 企業家がなぜ必要なのか
企業家と起業家/どういう人が企業家なのか/低い事前の合理性と企業家の必要性/企業家とアニマル・スピリッツ/企業家はクレイジーなのか
第三章 三つの基本ルール
持続的なイノベーションの始まり
1 私有財産制度
イノベーターが得をすること/マグナ・カルタのインパクト/知的財産権の重要性/イノベーターは誰なのか/短いサイクルの報告・評価
2 科学的な合理主義
権威主義からの脱却/たまたまの結果を再現する/「営業努力が足りない」は反証可能か
3 資本コストの低下
必要な資金へのアクセス/責任を有限にする
第四章 イノベーションをめぐるトレードオフ
イノベーターの慢心?/生産性のジレンマ/累積的なイノベーションの重要性/新規参入とイノベーション/イノベーションのジレンマ/日本でクリステンセンが人気の理由
第五章 イノベーションはマネジメントできるか
野生的だったイノベーション/垂直統合型企業の登場/ポートフォリオとイノベーション/研究開発を内部化する/セレンディピティとマネジメント/イノベーションっぽいこと探し/野生の状態をできるだけ保全する
第二部 日本のイノベーションは衰えたのか
第六章 成長を停滞させた犯人は誰か
経済の成長と停滞/低成長の犯人を追え/犯人は「貸し渋り」なのか?/「追い貸し」の罪/「外国資本」は危険なのか/今さら「勤勉革命」は起こさない/犯人はイノベーション不足
第七章 日本人はイノベーションに不向きなのか
『戦後日本のイノベーション100選』/世界に見る日本のイノベーション/なぜ世界では存在感が薄いのか/ラディカルなものと累積的なもの/日本人は創造性がないのか/日本人は集団主義的なのか/二つのバイアス/集団主義的な働き方/戦間期に生まれた年功序列/集団主義はマイナスなのか/ベスト・プラクティス導入への抵抗/抵抗が生産性を下げる
第八章 閉じ込められるイノベーション
企業の加齢と稼ぐ力/老化する日本企業/企業の脱成熟/硬直化する日本企業/企業単位で考える落とし穴/スピンオフとスピンアウト/低かった日本の人材の流動性/コア人材の低流動性/流動性の高さとベンチャー・キャピタルの活発さ/閉じ込められるイノベーション
第三部 「野生化」は何をもたらすか
第九章 野生化と「手近な果実」
流動性は高ければ高いほど良いのか/累積的なイノベーションの水準を下げる流動化/「手近な果実」をもいでいるのか/イノベーションのコスト/基礎研究を誰が負担するのか/「破壊によるコスト」を誰が負担するのか/東洋紡の自己変革
第十章 格差はイノベーションの結果なのか
ピケティの問い/役に立たない自己責任論/日本での低所得化/日本的経営を守った結果としての格差なのか/固定化しつつある格差/『大転換』と『アイ・アム・レジェンド』
終章 野生化にどう向き合うか
国としての向き合い方/組織としての向き合い方/個人としての向き合い方
あとがき――イノベーションと幸福

参考文献

書誌情報

読み仮名 ヤセイカスルイノベーションニホンケイザイウシナワレタニジュウネンヲコエル
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 264ページ
ISBN 978-4-10-603845-7
C-CODE 0334
ジャンル 経営学・キャリア・MBA
定価 1,650円
電子書籍 価格 1,430円
電子書籍 配信開始日 2019/08/21

書評

イノベーションを知る必読書

米倉誠一郎

『野生化するイノベーション―日本経済「失われた20年」を超える―』とは魅力的なタイトルだ。現代のイノベーションを巡る風景を見事に言い表しているように見える。本書はいまや時代のバズワードである「イノベーション」を、古今東西の学際的知見から整理統合した丹念な解説書であり、また日本に対する提言書である。
 本書は三つのパートからなっている。第一部「イノベーションの『習性』を知る」では、イノベーションの特徴について、筆者が蓄積してきた多様な先行研究が整理統合され、素晴らしいイノベーション学説史になっている。参考資料も豊富で新しいので、学生はもちろん研究者にとっても有用な解説部分である。イノベーションのジレンマに関する理論も整理され、歴史的プロセスの中で野性味が失われていく理由が述べられる。
 第二部は、「失われた20年」に直面した日本のイノベーションの特徴について分析されている。かつて一世を風靡した日本経済の最近の停滞が「イノベーション不足」によっていたことが明らかにされる。さらに、「ラディカル」と「累積的」というイノベーションの分類から日本企業の「累積的」志向が明らかにされる。ここでの重要な指摘は、富士フイルムとコダックとの比較だ。通常、コダックはデジタル化の波に飲まれて倒産し、富士フイルムは医療分野などへ多角化して見事に生き延びたと認識されている。しかし本書では、コダックから外に出てヘルスケアに従事している研究者や企業家のパフォーマンスを評価する必要があるとする。すなわち、企業単位でのイノベーション比較に疑問を呈しているのである。ここで、人材の流動性とくにコア人材の流動性と野生化との相関性が強く指摘される。
 さて、第三部「『野生化』は何をもたらすか」では、それまでのイノベーション研究の整理統合を踏まえて、日本政府や日本企業そして日本人個人が「イノベーションの野生化」にどう立ち向かうべきかが提言される。固定化しつつある格差の問題なども念頭に置きつつなされる提言は、それぞれに説得的である。しかし、評者にとってこの結論部分は、クリステンセンの名著『イノベーションのジレンマ』の結論部分と同じような違和感がある。クリステンセンが、「大企業は大企業ゆえに不治の病にかかる」と述べながら、その最後に不治に対する治療法を提示しているような違和感である。せっかくイノベーションの歴史的な概観を続けて来たのに、最後は単純な日米比較になっているように見える。英国やドイツはこの野生化にどう対処したのか、また台頭しつつある中国は何を考えているのかなどに思いを馳せると、この結論部分はオープンエンドにした方が美しかった。
 とはいえ、筆者のイノベーション関連書籍の探索量や立論における学際的な目配りには圧倒される。イノベーション研究のいまを知るには必読の書といえるだろう。

(よねくら・せいいちろう 法政大学教授・一橋大学名誉教授)
波 2019年9月号より

著者プロフィール

清水洋

シミズ・ヒロシ

1973年、神奈川県生まれ。一橋大学大学院商学研究科修士。ノースウエスタン大学歴史学研究科修士。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでPh.D.(経済史)取得。アイントホーフェン工科大学フェロー、一橋大学大学院イノベーション研究センター教授を経て、早稲田大学商学学術院教授。『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション:半導体レーザーの技術進化の日米比較』で日経・経済図書文化賞と高宮賞受賞。

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