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発達障害はなぜ誤診されるのか

岩波明/著

1,540円(税込)

発売日:2021/02/25

書誌情報

読み仮名 ハッタツショウガイハナゼゴシンサレルノカ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 220ページ
ISBN 978-4-10-603863-1
C-CODE 0347
ジャンル 暮らし・健康・料理
定価 1,540円
電子書籍 価格 1,540円
電子書籍 配信開始日 2021/02/25

「その診断」は間違いかもしれない。ASDやADHDはこうして見逃されている!

よく耳にするようになった「発達障害」。が、その誤診率が高いことは知られていない。原因は、他の精神疾患との併存、症状の類似と複雑さ、医師の知識不足や臨床経験の少なさ……。長年、うつ病や依存症とされていたが実は違っていた、ということも稀ではない。第一人者が初めてその実態を報告する。患者や家族、医師も必読!

目次
まえがき
第1章 発達障害かもしれない
発達障害とは何か?/受診のきっかけ/成人期の発達障害/臨床における問題点/いじめ、虐待との関係/発達障害と併存症
第2章 ASDとADHD
発達障害に関する誤解/ASDの過剰診断/小児科からの依頼/DBDマーチ/症状と問題行動が類似/ASDとADHDの症状の比較/うつ病と診断された会社員/専門病院で誤診されたケース
第3章 うつ病ではない?
うつ病の現在/慢性のうつ病/慢性うつ病と発達障害/ASDとうつ病/ASDと自殺/うつ病と関連する心理、社会的要因/うつ病と診断されたASD/会社での不適応/ADHDとうつ病/ADHDにおけるうつ病の頻度/ADHDにおける抑うつ、不安症状/発症の要因/3カ所でうつ病と診断/ADHDの見逃し/うつ病の理系女子/空気が読めないADHD
第4章 双極性障害か、発達障害か
「双極性障害」とは?/うつ状態/躁状態/発達障害との併存/ADHDに併存する双極性障害の治療/躁うつ病として治療を受けていたADHDの女性/治療の経過/ADHDを見過ごされていた男性例/問題行動を繰り返した一例
第5章 統合失調症という誤診
統合失調症とASD/『火星のタイム・スリップ』/おとなしい子供/精神科受診/診断の誤り/ADHDと精神病症状/精神病症状の出現/「非定型精神病」とは?/アパレル店員の女性/入院後の経過
第6章 パーソナリティ障害は存在しない?
「パーソナリティ障害」とは/統合失調症とパーソナリティ障害/ASDにおけるパーソナリティ障害の症状/社会の中の発達障害/生い立ち/思春期から/精神科受診/治療経過/「反社会性パーソナリティ障害」/薬物依存の一例/正しい診断は?
第7章 摂食障害だけではない
「摂食障害」とは/家族関係/発症/症状が悪化する/精神科受診/入院治療/問題行動/退院して自宅に/強迫症状/パニック障害/摂食障害/ADHDが基本的な疾患/その他の症状/クレプトマニア/責任能力
第8章 神経症という誤診
社交不安障害/生育歴と経過/ASDと対人恐怖/公務員の女性のケース/「心因反応」という誤診/イラストレーターの男性
第9章 依存という併存症
発達障害と生きにくさ/依存症とは?/ドストエフスキー/ギャンブル依存/発達障害と依存症/ある高学歴の男性/薬物依存/覚醒剤の恐ろしさ/薬物依存の男性/『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』/アルコール依存症の併存
第10章 発達障害と犯罪
裁判での誤診/詐欺事件/買い物依存/ASDという診断/リンチ事件/生い立ち/面接/診断/殺人未遂事件/現病歴/診断
終章 誤診への対策
精神科の特殊性/「診断基準」にとらわれる/「ドクターショッピング」もやむを得ない

インタビュー/対談/エッセイ

医師の主観に左右される疾患

岩波明

 言うまでもなく、医療における誤診は重大な事態をもたらす。身体疾患であれば誤診が生命の危機につながることは日常的にみられるし、精神疾患において、ただちに命の危険がない場合でも、適切な治療が行われなかったために、長く続く不幸な経過をもたらすことは珍しくない。
 かなり以前の話になるが、東大病院の著名な内科教授が定年前の最終講義において、外来の初診時における誤診率を明らかにしたことがあった。正確な数字は記憶していないが、その教授の誤診率は、約14%であった。
 この数字を高いとみるか低いとみるかは立場によって様々であろう。ただ内科疾患などの場合、さまざまな検査を行うことによって、初期の誤診が訂正されることが多い。
 一方、精神科の場合は、診断を確定できる臨床的な検査はほとんど存在していないので、医師の主観に左右される側面が大きいのが現状であり、特に本書のテーマである発達障害においては、診断の不一致率がかなり高い傾向にある。その理由はいくつかあるが、本書の中で詳しく述べている。
 最近になって、発達障害という病名は、医療の分野においても、一般の人にもかなり浸透してきた。ただ残念なのは、なかなか正しい概念が伝わっていないことで、的確な診断、治療をするべき医療関係者においてさえも、多くの誤解がみられている。
 本書は「発達障害の誤診」をテーマとして、さまざまな臨床例をあげながら、その診断と治療に関連する問題点を指摘した。発達障害の主要な疾患であるASD(自閉症スペクトラム障害)もADHD(注意欠如多動性障害)もともに有病率の高い疾患であり、実は我々の身近に多くの当事者が存在している。
 しかしながら、発達障害は一般的な「病気」とはかなり異なった特徴を持っている。なぜなら発達障害は、ある時点で発症するものではないからだ。これは生まれながらの特性であり、それは生涯変わることのない、個人の考え方や生き方の特徴そのものなのである。さらに多くの場合、発達障害の当事者は患者としてではなく、一般の健常者として存在している。
 最近、あるネット関連の編集者から取材を受けた。「会社で自分の同僚が発達障害だったら、どう対応するのが適切なのか」というのが彼の疑問だった。
 これに対する答えは、発達障害の種類や重症度にもよるし、その当事者が起こした問題にもよる。さらには業務の内容にも関連してくるので、答えは一様ではない。しかし、改めて考えてみると、本当にこのような状況は起こりうるのだろうか。
 隣の席に座っている同僚が、何らかの発達障害の当事者で、その結果、仕事に不適応を起こしていることはありうる話である。けれども、その同僚が発達障害であることが、周囲に認知されているという事態は起こりうるのか。
 もちろん、本人が自発的にカミングアウトすることがまったくないわけではないが、一部の障害者雇用を除けば、仕事をしている当事者が自分の「障害」を周囲に積極的に述べることはまれである(そもそも多くの当事者は自分の診断名を知らない例がほとんどである)。
 このため彼らは、周囲からは、「ミスが多い人、仕事の段取りのできない人」「コミュニケーションが取れない人」などとみなされ、その結果、「戦力外」として扱われることも珍しくない。
 社会の中でこういう苦労を重ねるうちに、発達障害の当事者は、自ら、あるいは家族などから指摘されて、自分がASDやADHDの特徴を持っていることを「発見」し、病院を受診することになるのである。
 発達障害という現象は、以前から知られており、20世紀の中頃までには、今日の診断基準の枠組みがおおよそ確立している。ただ当時は、ASDもADHDも、基本的には児童、思春期の疾患であるとみなされていた。
 成人においても発達障害が社会的な不適応の原因になることが認識されたのは、欧米では1990年代ごろから、わが国においては今世紀に入ってからのことである。そのため、成人期の発達障害の診療を担当するべき精神科の医師においても、いまだにこれらの疾患について十分な知識や臨床経験がないことが珍しくなく、それが誤診の原因のひとつにもなっている。
 本書には実地臨床における誤診の症例が数多く紹介されている。発達障害の当事者とその家族、医療関係者、会社の産業医や人事担当者などの一助となれば幸いである。

(いわなみ・あきら 昭和大学医学部教授)
波 2021年3月号より

著者プロフィール

岩波明

イワナミ・アキラ

1959(昭和34)年、神奈川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。精神科医、医学博士。発達障害の臨床、精神疾患の認知機能の研究などに従事。都立松沢病院、東大病院精神科などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授、2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼務。著書に『発達障害』(文春新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書)、『誤解だらけの発達障害』(宝島社新書)など多数。

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