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皇室とメディア―「権威」と「消費」をめぐる一五〇年史―

河西秀哉/著

2,090円(税込)

発売日:2024/12/16

  • 書籍
  • 電子書籍あり

権威の代弁者か、象徴の伴走役か、消費に走る商業主義か?

大正デモクラシー、人間宣言、ミッチー・ブーム、自粛と崩御、生前退位――重要な局面に際して皇室とメディアはいかに相対したのか。時に協調、時にバッシングに振れる皇室報道の裏側とは。注目の天皇制研究者が新聞、月刊誌、ラジオ、テレビ、SNSなどの豊富な実例から両者のダイナミックな関係を読み解いた画期的論考!

目次

はじめに
平成から令和へ/昭和から平成は?/二つの「代替わり」の違い/小室眞子さんをめぐる問題/「権威」「人間」「消費」

第1章 大衆社会の成立と天皇制
皇室報道の始まり/嘉仁皇太子の結婚・裕仁親王の誕生/明治天皇の死/坂下倶楽部/第一次世界大戦後の世界的な君主制の危機/裕仁皇太子外遊/裕仁皇太子の摂政就任/変化する皇室とメディアの関係/加速する大衆社会のなかでのメディアと皇室/大正天皇の死と昭和天皇の即位/次第に窮屈に

第2章 天皇制はいかに維持されたのか
メディアとの関係変化/皇室報道への自己批判/いわゆる「人間宣言」/全国巡幸と「人間天皇」アピール/記者たちの動向/伝えられる天皇のイメージ/報道を注視する天皇/天皇とメディアの関係構築/「天皇陛下大いに笑ふ」/占領期における天皇制とメディア

第3章 皇太子ブームからミッチー・ブームへ
明仁皇太子への注目/立太子礼と皇太子像/報道をどう見たのか/皇太子像と国家像/国内外のメディア対策/創り出された皇太子像/皇太子外遊はどう伝えられたのか/女性皇族の結婚/過熱する皇太子妃候補報道/『孤獨の人』と皇太子妃決定/「恋愛結婚」

第4章 「権威」側からの逆襲
あこがれの対象としての美智子妃/「風流夢譚」事件/『思想の科学』の自主廃棄/「美智子さま」の執筆中止/差し障りのない記事へ/「皇室アルバム」のはじまり/制作者たちの意図/番組の内容/視聴者たちの声・反応

第5章 「象徴」を模索する
模索する皇太子夫妻/皇太子夫妻のイメージ/皇太子夫妻と記者会見/昭和天皇退位論の再浮上/皇太子と威厳/「皇太子への憂鬱」/皇太子パ・リーグ論/「中年皇太子がいま燃えている」/皇太子への期待感/皇太子夫妻訪韓問題

第6章 「自粛」の構造
天皇の病状報道の開始/昭和天皇、倒れる/「自粛」を伝える新聞報道/週刊誌の病状報道/『赤旗』からの批判/『赤旗』との応酬/メディア報道の変化/昭和天皇、死去/テレビの報道/Xデーのテレビ放送に対する分析

第7章 「開かれた皇室」と反発
平成の天皇の即位/「皇室外交」の展開と被災地訪問/秋篠宮の結婚と「開かれた皇室」/ワイドショーのなかでの皇室/皇太子の結婚をめぐって・前段階/皇太子の結婚をめぐって/皇太子結婚/美智子皇后バッシング/バッシングその後/阪神・淡路大震災と戦後五〇年

第8章 「平成流」の定着
雅子妃の活動と妊娠報道/雅子妃の苦悩と初めての単独記者会見/即位一〇年の総括/雅子妃「ご懐妊」騒動/「孤独の人雅子妃」/愛子内親王の誕生と「人格否定」発言/被災地訪問と慰霊の旅/メディアの論調の変化/結婚五〇年とメディア/火葬・合葬希望/廃太子論をめぐって/「皇太子殿下、ご退位なさいませ」/「権威」化する天皇・皇后/「生前退位」騒動の始まり/「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」/世論の反応と特例法

おわりに
「代替わり」報道/小室眞子さんの結婚をめぐる騒動とSNS/新型コロナウィルス感染症流行下の天皇制/イギリス・タイとの比較のなかで

注記
あとがき
本書関連主要事項年表

書誌情報

読み仮名 コウシツトメディアケンイトショウヒヲメグルヒャクゴジュウネンシ
シリーズ名 新潮選書
装幀 駒井哲郎/シンボルマーク、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 352ページ
ISBN 978-4-10-603919-5
C-CODE 0330
ジャンル 社会学、思想・社会
定価 2,090円
電子書籍 価格 2,090円
電子書籍 配信開始日 2024/12/16

書評

皇室報道の変遷を教えてくれる名著

君塚直隆

「あなたがたにはいろいろと書かれてきたよね。でもあなたがたが私たちの写真を撮ることや、私たちについて書くのをやめたときのほうが正直恐ろしいんだよね」
 これはかつてイギリスのチャールズ皇太子(現チャールズ三世国王)が、マスメディアの集いに招かれておこなったスピーチの一節である。チャールズ国王の場合には、まさに生まれたときからつねにメディアの注目の的となり、結婚から離婚へ、さらにはその後の顛末など、話題に事欠かない日々を送られてきたのかもしれない。
 英王室にとっては、このようにメディアから書かれる(撮られる)ことと距離を取られることとの「塩梅」は難しいものであるが、それは日本の皇室にとっても同様であろう。
 本書は、戦後の日本の皇室、とりわけ平成期の天皇・皇后と皇族の歴史に関わる研究書や啓蒙書を数々ものしてきた第一人者が、ついに「皇室とメディア」について真正面から取り組んだきわめて意欲的な作品である。
 著者はまず、「自粛ムード」に包まれた昭和から平成と、「お祭りムード」が拡がっていた平成から令和という二つの代替わりに注目する。ここには天皇の「死と生」の問題だけではなく、これを報じたメディアの関わりが見え隠れする。著者は、明治以降の皇室とメディアとの関係を、「権威」「人間」「消費」という三つの概念をキーワードとして論じていく。それは天皇や皇室を「権威」として扱い一般国民とは異なる遠い存在と見る一方で、普通の国民と同じ「人間」として親近感をもち支持する志向があるとともに、芸能人のように天皇や皇室の動向・話題を「消費」する、まさに三すくみ状態を意味する。
 あるときには皇室に「権威」を求め、別の場合にはわれわれと同じ「人間」性を希求し、ときには「消費」する風潮が強まる。これは特に戦後の日本にあてはまる現象であろう。
 江戸時代までは京都御所の御簾のなかに閉じこもっていた天皇は、明治になり、国民の前に姿を現すことが求められた。しかし宮内省は当初、メディアを蔑むような態度を取り、新聞も雑誌も天皇に近づけなかった。これが大きく変わっていくのが、裕仁皇太子(のちの昭和天皇)のヨーロッパ訪問時(1921年)からのことである。渡欧に随行した記者たちと皇太子は親しく接する機会も格段に増え、宮内省とメディアの関係も変化していく。
 そしてアジア・太平洋戦争の敗戦により、皇室とメディアの関係は親密さを増していく。天皇制存続の危機に瀕し、メディアが苦悩する天皇の姿を報道することで、世の中の天皇への戦争責任追及の動きは和らげられていく。さらに戦後直後に始められた天皇の全国巡幸は、「人間」としての天皇像をアピールするため、戦前に比べて取材制限も大幅に緩和された。しかしそれは天皇や皇室にとっては諸刃の剣となり、昭和天皇の子女の結婚をめぐる報道のあり方には「プライバシーの侵害」とも受け取れる情況が生み出されていく。
 それが頂点に達したのが明仁皇太子と正田美智子の結婚にともなう「ミッチー・ブーム」だった。著者が鋭く指摘するとおり、「人間」や「消費」という側面が強くなるほど「権威」の側から天皇制を支えているものには好ましくない状態が生じる。それは大正末期に登場したラジオに加え、戦後の1950年代末に到来したテレビの時代になるとますます強まり、「皇室アルバム」(1959年放送開始)のように天皇や皇族らの活動を淡々と報ずる番組が現れる一方で、皇室はワイドショーにより「消費」されてもいく。
 昭和から平成の代替わりは、天皇や皇后がより国民に近づき「国民に寄り添う」皇室像が登場するきっかけとなった。しかしあまりにも国民に近づきすぎて国民に「人間」味を示した皇后に対する「権威」支持者側からのバッシングもメディアの責任となった。他方で、平成の天皇・皇后が自然災害の被災地への訪問と大戦の慰霊の旅という二つの柱を打ち出していく際に、これを積極的に報じて支援したのもまたメディアのなせる業だった。
 イギリスでも、「権威」「人間」「消費」の三つの要素は王室と報道のせめぎ合いの中で常に問題視された。しかもメディアが露骨に「王室の支持率」を世論調査で示す点では、日本よりさらにシビアとも考えられる。王室にとって一長一短ともいえるメディアのあり方が本論の冒頭でも紹介したチャールズ国王の言葉にもあらわれている。
 本書はこのような「メディアの功罪」を詳細にとらえつつも、明治以降に皇室が歩んだ一五〇年の歴史を新たな角度から論じ、現代までの皇室と報道の関係の変遷を理解する際に強力な道案内役になってくれる名著といえよう。

(きみづか・なおたか 関東学院大学教授)

波 2025年1月号より

著者プロフィール

河西秀哉

カワニシ・ヒデヤ

1977年、愛知県生まれ。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(歴史学)。名古屋大学大学院人文学研究科准教授。著書に『「象徴天皇」の戦後史』(講談社選書メチエ)、『皇居の近現代史 開かれた皇室像の誕生』(吉川弘文館)、『近代天皇制から象徴天皇制へ 「象徴」への道程』(吉田書店)など。編著に『戦後史のなかの象徴天皇制』(吉田書店)、『平成の天皇制とは何か 制度と個人のはざまで』(共編、岩波書店)、『昭和天皇拝謁記 初代宮内庁長官田島道治の記録』(共編、岩波書店)など。

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