謎解き 少年少女世界の名作
748円(税込)
発売日:2003/06/20
- 新書
- 電子書籍あり
「宝島」は経済小説だった!? 大人にしかわからない名作のウラ側。
十九世紀から二十世紀初頭、資本主義の浸透と身分制度の解体が進み、現在の社会秩序の基礎が確立される過程の欧米諸国で書かれた「少年少女世界の名作」を単なる子供だましと侮るなかれ。『十五少年漂流記』に隠された英米仏の領土問題、『宝島』に貫かれているビジネスの過酷さ――。そこには、近代史の真相、民衆心理、社会の根底にあるさまざまな仕組みやカラクリが隠されている。世界の見方が変わる一冊。
目次
まえがき
第一章 経済原理と世界戦略
フランダースの犬 貧しかった日本人にとっての「癒し系」
読まれているのは日本だけ/挫折した二宮金次郎
王子と乞食 偽王が偽造される民主主義への批判
きわめてアメリカ的な作品/「成り上がり」トウェインの不安
小公子 日清戦争後の母子家庭を魅了した夢物語
天才的よい子・セディ/『小公子』のネガとしての物語
宝島 「契約」の原理に貫かれたビジネスの過酷さ
これは経済小説だ!/日本人が輸入しそこなった思想
吸血鬼ドラキュラ 「伯爵=カウント」に隠された怪物の正体
コウモリの世界地図/吸血鬼と搾取の理論
第二章 冒険の中の家族、民族、国家
家なき子 十九世紀末フランスの正当な統治者は誰か
「親に対する教訓集」だった/第二帝政下のフランスゆえの
十五少年漂流記 少年も無縁でいられない英米仏の領土問題
サバイバルとは無縁の無人島生活/十五人の政治ゲーム
ドリトル先生物語 物語に刻まれた無意識の侵略思想
金儲けには結びつかない能力/ドリトル流コモンセンス
西遊記 大衆が内包する異民族蔑視の中華思想
源泉は玄奘の冒険行/大衆消費の対象だった『西遊記』
最後の授業 帝国主義の尖兵としての国語教育
独に編入された“フランス領”/フランスばんざい!?
クオーレ 真の国家確立のために必要だった物語
けなげな子供と甘える大人/貧しい国家、よく死ぬ国民
第三章 「本当の自分」探しのはじまり
ピーター・パンとウェンデー 成長を義務づけられた近代人の無間地獄
中流階級の不安と苛立ち/失われたのは「可能性」
若草物語 喜びと恐怖の狭間で揺れる「女の自立」
あっぱれな翼賛姉妹/解放されたのは黒人ではない
野性の呼び声 資本家の飼い犬か、自由な労働者か
棍棒の意味するもの/日本人は昆虫だ
少女パレアナ 孤児が生き抜くための巧妙な思想戦略
戦略的「よい子」/国をあげての「喜び」運動
あとがきにかえて──「ハリー・ポッター」はなぜ受けるのか
書誌情報
読み仮名 | ナゾトキショウネンショウジョセカイノメイサク |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610022-2 |
C-CODE | 0298 |
整理番号 | 22 |
ジャンル | 評論・文学研究、読み物 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2011/12/18 |
蘊蓄倉庫
ネルロはなぜ死んだ
子供の頃、TVアニメ『フランダースの犬』を見て、涙した人は多いはず。
この作品が書かれたのは1872年。欧米列強は帝国主義戦争に明け暮れ、5年前にはマルクスが『資本論』を発表し、労働運動が盛り上がっていた時代です。
意外な感じがしませんか? 私は勝手に、もっと昔ののんびりした話だと思っていましたが、『謎解き 少年少女世界の名作』を読んでびっくり。主人公ネルロ(ネロ)の死は、時代と無関係ではないのです。
彼は絵描きを目指していますが、自分の描いた絵を売ろうともしません。村一番のお金持ちのコゼツは彼を「芸術家気取りとは乞食よりも始末が悪い」と嫌悪します。一方、労働運動の革命家にとっても大事なのは、芸術よりもパン。資本家にとっても、革命家にとっても、金を生まない美は無駄。
じゃあ、ネルロの死は仕方ないのか? ん~、切ない。この他、本書では、誰もが知っている名作に隠された謎を見事に解き明かしています。
子供の頃、TVアニメ『フランダースの犬』を見て、涙した人は多いはず。
この作品が書かれたのは1872年。欧米列強は帝国主義戦争に明け暮れ、5年前にはマルクスが『資本論』を発表し、労働運動が盛り上がっていた時代です。
意外な感じがしませんか? 私は勝手に、もっと昔ののんびりした話だと思っていましたが、『謎解き 少年少女世界の名作』を読んでびっくり。主人公ネルロ(ネロ)の死は、時代と無関係ではないのです。
彼は絵描きを目指していますが、自分の描いた絵を売ろうともしません。村一番のお金持ちのコゼツは彼を「芸術家気取りとは乞食よりも始末が悪い」と嫌悪します。一方、労働運動の革命家にとっても大事なのは、芸術よりもパン。資本家にとっても、革命家にとっても、金を生まない美は無駄。
じゃあ、ネルロの死は仕方ないのか? ん~、切ない。この他、本書では、誰もが知っている名作に隠された謎を見事に解き明かしています。
掲載:2003年6月25日
著者プロフィール
長山靖生
ナガヤマ・ヤスオ
1962年茨城県生まれ。鶴見大学大学院歯学研究科修了。評論家、アンソロジスト。近代文学、SF、ミステリー、映画、アニメなど幅広い領域を新たな視点で読み解く。日本SF大賞、日本推理作家協会賞、本格ミステリ大賞(いずれも評論・研究部門)を受賞。著書多数。
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