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読書の愉しみは「勇気をくれる言葉」に出会うこと――。稀代の読書家が、40年以上にわたって書きとめてきた珠玉の言葉の数々。

翼のある言葉

紀田順一郎/著

748円(税込)

本の仕様

発売日:2003/12/17

読み仮名 ツバサノアルコトバ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 190ページ
ISBN 978-4-10-610047-5
C-CODE 0295
整理番号 47
ジャンル 倫理学・道徳、教育・自己啓発、趣味・実用
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/01/27

ドイツ語で“Geflugeltes Wort(翼をそなえた言葉)”といえば、「時と場所を超えて胸に飛び込んでくる言葉」のこと。古今東西、書誌については知らぬことのない著者が、自ら落ち込んだ時、挫折した時に、励みとし、心の支えとした選りすぐりの言葉を集めてみました。――挫折の末に漱石が辿りついた言葉、小林秀雄の究極の一言、バッハの人生を支えた一語、知られざる『論語』の至言……、一味違った珠玉の数々。

著者プロフィール

紀田順一郎 キダ・ジュンイチロウ

評論家、作家。1935(昭和10)年横浜市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。学生時代から推理小説批評を手がけ、卒業後は同人誌活動を経て、1964年『現代人の読書』を出版、以後書誌・近代史を中心に評論活動に入る。著書に『古書街を歩く』、『日記の虚実』、『名著の伝記』、『永井荷風』、『東京の下層社会』、『日本語大博物館』、『書林探訪』、『紀田順一郎著作集』など。怪奇幻想小説の創作・翻訳もある。

目次

はじめに
1 希望──だが、涙を恥じることはない
アラン『信仰について』
宮本常一『萩の花』
ソロー『森の生活』
『論語』雍也
フランクル『夜と霧』
デフォー『ロビンソン漂流記』
ミラー『わが読書』
アガサ・クリスティーの言葉
プルタルコス『倫理論集』
陶淵明『園田の居に帰る』
フロスト『行かなかった道』
『老子』
洪自誠『菜根譚』
岡本太郎『今日の芸術』
夏目漱石『倫敦消息』
イサベル・バートンの言葉
古歌
2 信念──深くこれを思うべし
ゲーテ『ファウスト』
シェイクスピア『ハムレット』
古今亭志ん生『なめくじ艦隊』
デュマの言葉
ヘンリー・フォードの言葉
石黒忠悳『懐旧九十年』
ゴーゴリ『外套』
小林秀雄『私の人生観』
沢村貞子『貝のうた』
欧陽修の言葉
高田保『ブラリひょうたん』
石橋湛山『死もまた社会奉仕』
『伊曾保物語』
『孫子』作戦篇
大宅壮一『「無思想人」宣言』
モア『ユートピア』
吉田健一『乞食王子』
正宗白鳥『ダンテについて』
『大鏡』
3 世界──人生に星の時間を
『ホイットマン自選日記』
トウェイン『人間とは何か』
ホイジンガ『中世の秋』
ツヴァイク『人類の星の時間』
フロム『正気の社会』
坂口安吾『堕落論』
カレル『人間この未知なるもの』
渡辺一夫『寛容は自らを守るために不寛容に対して不寛容になるべきか』
小泉八雲『日本人の微笑』
オースティン『自負と偏見』
島崎藤村『嵐』
4 真理──余分のない言葉を求めて
『ラ・ロシュフコー箴言集』
『史記』儒林列伝
吉田兼好『徒然草』
ファゲ『読書術』
モーム『世界100物語』
伊丹万作『静臥饒舌録』
谷崎潤一郎『文章読本』
エイゼンシュテイン『自伝のための回想録』
山中貞雄『気まま者の日記』
ディドロの言葉
5 幸福──生涯の大きな安らぎ
『フランクリン自伝』
ファーブルの言葉
プルースト『音楽に聞き入る家族』
モンテーニュ『子どもの教育について』
斎藤秀三郎の言葉
北村透谷『客居偶録』
三好達治『郷愁』
于武陵『勧酒』
サミュエル・ジョンソンの言葉
南方熊楠『上松蓊宛書簡』
江戸川乱歩『非現実への愛情』
ハズリット『死の恐怖』
アナトール・フランス『エピクロスの園』
ルナール『日記』
セネカ『人生の短さについて』
バッハの言葉
ある兵士の言葉
6 わが人生の路標
ソロンの言葉
サン=テグジュペリ『人間の土地』
高村光太郎『或る墓碑銘』
ミルトン『失楽園』
メルヴィル『白鯨』
魯迅『故郷』
『荘子』人間世
あとがき

引用原典および参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

波 2004年1月号より 賞味期間は無限、名言の精粋  紀田順一郎『翼のある言葉』

紀田順一郎

 たまたまTVのホームドラマを見ていた際、乱脈な家庭の父親がいきなり「家の内も、外も、嵐だ」と呟いたのには、大変おどろかされた。これは島崎藤村の『嵐』(一九二六)に出てくる主人公(作者自身)の述懐で、少なくとも私のような世代が若いころには有名な言葉だった。無断盗用――などとケチをつける気はない。脚本家としては、現代の家庭崩壊を表現するのに、最もふさわしいセリフに思えたのだろう。昨今の映像では、一種のパロディーのつもりか、古典・名作の“引用”が頻繁に行われている。
ことわざや格言のような堅苦しいものではなく、もう少しじっくり耳を傾けたくなるような、奥の深い言葉がある。「人間は、努力をする限り、迷うものだ」(ゲーテ)、「年を取るにつれて新しい知己を作って行かない人間は、必ず自分が取残された感じを味わうはずだ。君、人は自分の友情を絶えず補修せねば駄目だ」(サミュエル・ジョンソン)、「ひとり燈火のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる」(吉田兼好)などというようなものだ。いわば時空をこえて人の心から心へと飛び翔り、励ましや慰めともなる言葉。このようなものをドイツでは「翼のある言葉」と呼ぶようだ。さすがゲーテを生んだお国柄ではある。
私は小学生のころから「名文句好き」であったといえるかもしれない。たしか佐々木邦の少年小説から「タダほど高いものはない」という警句をおぼえて、友人間に振り回したことがある。翼があるかどうかはわからないが、ずいぶん役に立った言葉である。学生時代には、読書の際に「これだ!」と思った言葉を、ただちにメモる癖がついていた。いま当時の日記などの黄ばんだページを開いてみると、「おじは、人間というものはこっけいなものだと、思っているのです。それだから、おじはなににもなることができなかったのです」(ケステン『ゲルニカの子供たち』)、「社会が教育を変ずることは、教育が社会を変ずることよりもたやすいように思われる」(K・レヴィン『社会的葛藤の解決』)などという言葉に、いちいちシビレていたことがわかる。肝心の、本自体の印象については薄れてしまっているが。
それはともかく、このようなメモをもとに、新たな収穫をも加え、一味ちがう名言集を意図したのが本書である。単に名言を並べるだけでなく、どのような人物がどのような場合に発した言葉か、面白そうなエピソードとともに記してみた。このほうが、感銘が深いと思われるし、機会あれば原書にもアプローチしてもらえそうな気がしたからである。

(きだ・じゅんいちろう 作家)

担当編集者のひとこと

著者の「脱サラ」を決意させた魯迅の“言葉”

 著者の紀田順一郎さんは、近代史、書誌、情報論、あるいはコンピュータ文化など、幅広い分野にわたって評論活動をされている作家です。中でも書誌研究においては、きっと右に出る者がいないことでしょう。とにかくお話を伺っているだけで、古今東西どんな書物でも知らないものはないのでは……と思えてしまうほどです。
 先日、横浜にあるお宅に伺い、驚きました。予想はしていたのですが、その蔵書量のものすごいこと。大きなご自宅の三部屋分が、まるまる書庫となっていました。まるで図書館にいるような錯覚さえ覚えてしまいます。さらに驚くことに、紀田さんは岡山にも仕事場を兼ねる家を持っておられ、そこに横浜のお宅に収まりきれない大量の本が所管されているのだとか。
 改めて、紀田さんの読書量に恐れ入った次第でした。 さて、このように博覧強記の文芸評論家として知られる紀田さんですが、昭和三十三年に大学を卒業された直後には、実はサラリーマンをしていたこともあったのです。勤務先は、とある石油会社系の商社。優秀な商社マンでした。しかし会社員になっても、片時も好きな本を手放すことはなかったそうです。また学生時代から続けていた習慣で、ポケットに必ず小さなノートを用意し、読書の途中で「これは名言だ!」と感じた文句に出会うとノートに書き付けていました。
 そしてサラリーマン生活六年目、紀田さんは意を決して独立し、執筆生活を開始します。その間ずっと、会社を辞めて自らの望む道を歩むべきかどうか、悩み続けた末の結論でした。高度成長期以前のこと、まだ「脱サラ」「フリーター」などの言葉もない、転職の機会さえ少ない頃です。
 悩む紀田さんの背中を後押ししたのは、ある“言葉”がきっかけでした。

 ――思うに、希望とは、もともとあるものだともいえぬし、ないものだともいえない。それは地上の道のようなものである。もともと地上には、道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。

魯迅『故郷』

 このひと言で、すっと肩の力が抜けて、楽になったのだとか。これも、ノートに書き綴られた中のひとつでした。
 現在でも、感銘を受けた名言・箴言に出会うと、ノートに書き留める習慣は続いているそうです。そしてすでに何冊にもなっているノートを、折をみては読み返し、落ち込んだ時などに、いかに心の支えとなったか、感慨を持たれています。
『翼のある言葉』は、紀田さんのノートの中のコレクションから、今読み直しても新鮮かつ感動的なもの、時代を超えた適切な表現と思われるものを選んでいただきました。格言というような押しつけがましいものではなく、価値観が混乱した時代に、確かな拠り所となるような言葉の数々です。
 どうぞ、「勇気をくれる言葉」からじっくりと読書の愉しみを味わってください。

2003年12月刊より

2003/12/17

蘊蓄倉庫

小林秀雄の「究極のひと言」

「精神の状態に関していかに精しくても、それは思想とは言えぬ、思想とは一つの行為である。勝つ行為だ、という事です」――『私の人生観』より
 これは戦後三年目、小林秀雄が宮本武蔵の人間像に託し、新しい時代を生きる思想のあり方について語ったものです。小林はまず、戦時中、武蔵が軍国主義、精神主義のシンボルのように扱われていたことを「笑わずにはいられなかった」と喝破します。続けて、武蔵が負けなかったのは「兵法の理」、つまり理論や観念によってではなかった、単に自らの「器用」(剣の技)を知り、「天理」、即ち理論を超えた実の道を極めたがゆえだったのだと。武蔵は「実用主義というものを徹底的に思索した、恐らく日本で最初の人」とも評します。
 そこから小林は結論するのです、「思想とは一つの勝つ行為」だと。この言葉、昭和文壇の巨人、小林の思想を表す、究極のひと言ともいえるのではないでしょうか……。

掲載:2003年12月25日

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