ホーム > 書籍詳細:家庭という病巣

家庭という病巣

豊田正義/著

748円(税込)

発売日:2004/01/21

  • 新書
  • 電子書籍あり

恐怖、涙、戦慄。児童虐待、DV、近親姦……。家庭内犯罪の深層に迫る。

最も身近な存在は、最も危険な存在にもなる。我が子を段ボール箱の中で餓死させた両親、夫を尺八で撲殺した老婆、娘に性的虐待を繰り返した「理想の父親」、妻の身内を殺害した暴力夫……。身内の凶行により、家庭は逃げ場の無い密室と化す。児童虐待、DV、近親姦、高齢者虐待等、増加しつづける家庭内犯罪の実態とは――。加害者、被害者への膨大な取材を通じ、家庭に潜む病巣の正体に迫る。

目次
序 章 家庭は密室である
第1章 児童虐待とは何か──愛知幼児餓死事件を追う
我が子を段ボール箱で殺した両親
エスカレートする虐待
殺意を否定した両親
見えない反省
暗い生い立ち
児童相談所の失敗
親の抵抗は無視せよ
回し蹴りで殺害
第2章 近親姦の闇
女性受刑者の二割が近親姦被害者
娘をレイプする「理想の父親」
近親姦被害者の共通項
近親姦をする父親の言い分
第3章 ドメスティック・バイオレンスの現在
自宅に放火した単身赴任の父親
普段は甘えん坊
DV防止法の現状
妻をかくまう身内を殺した夫
姪を人質にして殺害──福岡立てこもり殺人事件
我が子を誘拐する親
海外に連れ去られた子供
第4章 逃げない被害者
妻をビデオで監視
「優柔不断な」被害者
不倫相手への暴行
自分を責めてしまう被害者
介入しない警察
DV対策後進国・日本
第5章 加害者は矯正できるのか
家族三人を殺害した「気弱な男」
嫉妬から感情が爆発
加害者再教育プログラム
日本での加害者教育
加害者タイプとは
第6章 暴れる子供、耐える親
「無抵抗主義」が生んだ殺人
強制入院の必要性
老親への虐待
寄生から虐待へ
終 章 破れ窓の理論
主要な参考文献

書誌情報

読み仮名 カテイトイウビョウソウ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610050-5
C-CODE 0236
整理番号 50
ジャンル 社会学、暮らし・健康・料理
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/02/24

蘊蓄倉庫

意外に多い近親姦

 近親姦という行為はどこか遠い世界の話のように思われるかもしれませんが、意外にその被害者は多いのです(近親相姦という表現には相互の合意というニュアンスがあるので最近は近親姦という言葉が広く使われています)。平成13年に厚生労働省が調査したところによると、刑務所に収監された女性受刑者の7割以上が18歳までに性的虐待を受けており、そのうちの2割は近親姦だったというのです。こうした被害体験が彼女たちのその後の人生に影を落としたことは想像に難くありません。『家庭という病巣』では、他にも児童虐待、DV、高齢者虐待など、家庭という密室で行われる様々な犯罪について加害者、被害者双方への膨大な取材を踏まえて詳細にレポートしています。

掲載:2004年1月23日

担当編集者のひとこと

家族の怖さ

 先日、山手線に乗ったときの出来事です。車内のどこかから大きな声とドタンドタンという音が聞こえてきました。何事かと思って音の鳴る方を見ると、ひとりで坐っている男性が、意味不明の奇声をあげて頭を思いっきりガラスにぶつけるという行動を繰り返していたのです。ドタンドタンは、ガラスと頭が衝突する音でした。もの凄い音を立てながらも、彼はニコニコしていました。
 電車に乗っているとこういうタイプの人を時折見かけます。そのせいでしょうか、彼の近くには、まったく動じず坐りつづけている方も結構いらっしゃいました。 そういう人たちは多分私よりも肝が据わっているのでしょう(私には奇声の主と同じくらい理解出来ない人たちですが)。実際、自傷行為を繰り返しているだけで、周囲に危害を及ぼしはしないのかもしれません。しかし何も同じ車両に居つづける必要もないので、私は次の駅でさっさと降りました。同じように降りて別の車両に移る人もいたようでした。
 電車であれば、こういうときに降りてしまえばとりあえずは安心できます。しかし、世の中には逃げ場のないシチュエーションというものもあります。
 その代表例が家庭ではないでしょうか。
 家族が犯罪者となったときに、家庭は密室と化します。虐待で殺されてしまった子供がたくさんいます。家庭内暴力の末に殺された人も、父親に性的虐待を受ける子供もたくさんいます。いずれも現場が家庭であったために逃げ場がなくなり、最悪の事態を招いたのです。
『家庭という病巣』では、実際に起きた児童虐待、DV、近親姦、高齢者虐待の事件を綿密な取材でレポートしています。40年以上自分を虐待してきた夫を尺八で殴り殺した老妻、我が子を段ボール箱の中で餓死させた両親、娘に性的虐待を繰り返す父親、DVから逃げた妻を匿う身内を殺した夫、別居中の妻とよりをもどそうとして「狂言放火」をした男、等々。
 いずれも、もっとも身近な存在が、ある日を境に、もっとも危険な存在に変わっていった事件ばかりです。とても怖い話ですが、自分の身にふりかからないとは限りません。そのときには車両から降りるように簡単に逃げることも出来ないのです。

2004年1月刊より

2004/01/21

著者プロフィール

豊田正義

トヨダ・マサヨシ

1966(昭和41)年、東京生れ。早稲田大学第一文学部卒。ニューヨークの日系誌記者を経て、フリーのノンフィクションライターとなる。犯罪事件から家族の問題まで取材対象は幅広く、人物評伝も手がけている。著書に『オーラの素顔 美輪明宏のいきかた』『DV―殴らずにはいられない男たち』『家庭という病巣』『壊れかけていた私から壊れそうなあなたへ』などがある。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

豊田正義
登録
社会学
登録

書籍の分類