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嫉妬の世界史

山内昌之/著

814円(税込)

発売日:2004/11/20

書誌情報

読み仮名 シットノセカイシ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 206ページ
ISBN 978-4-10-610091-8
C-CODE 0222
整理番号 91
ジャンル ノンフィクション、世界史
定価 814円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/01/27

「男の嫉妬」が歴史を動かす! 歴代首相も密かに熟読した話題の書。NHK『知るを楽しむ・歴史に好奇心』(2月分)に著者出演中。

喜怒哀楽とともに、誰しも無縁ではいられない感情「嫉妬」。時に可愛らしくさえある女性のねたみに対し、本当に恐ろしいのは男たちのそねみである。妨害、追放、殺戮……。あの英雄を、名君を、天才学者を、独裁者をも苦しめ惑わせた、亡国の激情とは。歴史を動かした「大いなる嫉妬」にまつわる古今東西のエピソードを通じて、世界史を読み直す。

目次
序 章 ねたみとそねみが歴史を変える
嫉妬は女の特権ではない。色恋沙汰ならまだしも、身過ぎ世過ぎに関する男のねたみそねみは国をも滅ぼす。忠臣蔵も関ヶ原の合戦も、もとを辿れば抑えきれない妬心に行き着くのだから──。
第一章 臣下を認められない君主
上杉定正と太田道灌、アレクサンドロス大王、徳川慶喜と勝海舟、ナースィルとサラディン、孫権、島津久光と西郷隆盛。上司の心の奥底にあったのは、やっかみか、老醜か、意地か、はたまた政治リアリズムか。
第二章 烈女の一念、男を殺す
息子のために名宰相を殺したスレイマン大帝の寵姫ロクソランは帝国を衰亡させ、権力欲の果てに功臣を次々と殺戮した劉邦の糟糠の妻・呂后は、一族を滅亡に導いた。時に男より残酷になれる、女たちの執念。
第三章 熾烈なライヴァル関係
軍医として文士として、自らに向けられた嫉妬に激しく反応した森鴎外は、終生あらゆる手段を用いた足の引っ張り合いの只中にあった。いっぽう近藤勇は、伊東甲子太郎の闇討ちに至る。同志が一線を越える時。
第四章 主人の恩寵がもたらすもの
殉死を許されないほど重用された阿部一族は死に絶え、ヒトラーとロンメルの蜜月もやがて不幸な結末を迎える。実業界も同様だが、パトロンの寵愛が深いほど、その死はもちろん、すれ違いもまた悲劇をもたらす。
第五章 学者世界の憂鬱
都会の洗練をまとった人格者で、研究に文筆に社交にと才を発揮した雪の博士、中谷宇吉郎の沈黙。小学校中退の自由奔放な植物学者、牧野富太郎の饒舌。嫉妬をめぐる対応に見る、スター学者二人の人生観。
第六章 天才の迂闊、秀才の周到
稀代の戦略家・石原莞爾をはじめ、山下奉文らをも追い落とした東条英機。組織運営の実務にあたる秀才の論理は、天才を駆逐する。一介の“努力の人”は、いかにして陸相、果ては総理にまで昇りつめたか。
第七章 独裁者の業
共和制ローマで突出したカエサルが闇に葬られたのと反対に、のちの独裁者、なかでも共産主義の指導者は嫉妬を体制に組み込む。かくしてスターリンはトハチェフスキーを、毛沢東は劉少奇を死に追いやった。
第八章 兄弟だからこそ
島津義久と義弘、中大兄皇子と大海人皇子、源頼朝と義経、長尾晴景と上杉謙信、徳川家光と忠長──。弟を前に心穏やかでいられない兄は、枚挙に遑がない。稀な例外は武田信玄の信頼を勝ち得た信繁。
第九章 相容れない者たち
冒険心と義侠心で突っ走るスター軍人ゴードンと、透徹したエスタブリッシュメントの辣腕官僚ベアリング。いくらそれぞれが自らの任務に才能を発揮しても、水と油の二人。そして英雄は非業の死を遂げた。
終 章 嫉妬されなかった男
決して手の内を見せないボケ元こと杉山元、軍人離れした飄逸さの寺内寿一。そして悪意を持ちようもない家光の庶弟・保科正之の人となりと、世界に先駆けた善政の数々。歴史上の人物に学ぶ、処世の知恵。
主要参照文献

あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

波 2004年12月号より 人生でいちばん大事な知恵  山内昌之『嫉妬の世界史』

山内昌之

 嫉妬事(悋気事)は歌舞伎の演技として重要な類型である。鋭く恨めしげな顔つきで若い女方がひとりで髪を梳く姿は、嫉妬の念に狂った女性のこわさを象徴してきた。嫉妬に我を忘れた女の髪はおのずと逆立つというが、私も子ども時分には映画や歌舞伎の『東海道四谷怪談』でお岩が髪梳きをする光景に思わずおじけづいたものだ。
歴史を動かす女性の嫉妬にはすさまじいものがある。日本史ですぐ思い出すのは、徳川二代将軍秀忠の正室お江与(淀君の実妹)の嫉妬心であろう。秀忠が静という女性との間にひそかに設けた男児は、あの手この手で殺されそうにもなったほどだ。その子こそ成長して、お江与の生んだ三代将軍家光と嫡子家綱を補佐した、名宰相の保科正之にほかならない。
一人の女性をめぐる男二人の嫉妬や愛憎も馬鹿にすることはできない。孝謙天皇の寵を失った藤原仲麻呂(恵美押勝)が道鏡に抱いた複雑な感情は、嫉妬心を抜きには考えられない。
男女間の嫉妬はせいぜい家を崩壊させるくらいである。しかし、男同士の嫉妬は、すぐに権力の問題と結びつき、国を滅ぼしかねないのだ。私は、『嫉妬の世界史』を書いてみて、つくづくこの恐ろしさを痛感した。
男であれ、女であれ、歴史上で人を嫉妬するケースは、他人が金や土地などの富に加えて美男美女をたやすく獲得したように見えた時だけではない。嫉妬は、他人が名声や徳性を得た時にも感じることが多い。
並大抵でない辛酸をなめたすえに獲得した場合はいざ知らず、ただ同然に手に入れたように思われると、普通の市民は嫉妬をあからさまにしたと古人は指摘している。
ましてや、現代日本のように、誰でも芸能人やスポーツ選手や政治家になれる、と簡単に信じがちな平等社会に生きる人間であれば、嫉妬の感情は深まるばかりだろう。
それでも、古代ギリシアの三大悲劇詩人のひとり、エウリピデスが紹介する謙虚な発言を聴くと嫉妬の感情も薄らぐかもしれない。

 どうして私が賢いなどと申せよう。ただ憂いもなく、多数の兵士らの一人として、この道の達人と、等しく運を分け合うたのみ。(プルタルコス「人から憎まれずに自分をほめること」『饒舌について』岩波文庫より)

謙虚さは、ある程度まで、人の嫉妬を薄める解毒剤となるに違いない。自分の成功を誇らず飾らず、得意を内心に秘めるには相当な努力が必要となる。嫉妬を避ける方便は、人生でいちばん大事な知恵かもしれない。

(やまうち・まさゆき 東京大学大学院教授)

蘊蓄倉庫

雄々しき呂后の嫉妬

 女へんに疾と石で「嫉妬」。やきもち焼きといえば女性の特権のようですが、なかなかどうして怖いのが男の嫉妬。色恋沙汰ならまだしも、権力に関する男同士の嫉妬は国をも滅ぼすからです。「傾城の美女」という言葉もありますが、この場合、城を傾けるのは女性ではなく、彼女に入れ込んだ男のほう。
 その点、劉邦の糟糠の妻・呂后は異色です。夫の寵姫に残虐の限りを尽くしたあたりまでは、まだ女性的な動機も窺えますが、夫のライヴァルになりかねない男たちを一族郎党根絶やしにするあたり、なんとも男性的な嫉妬ぶりではありませんか。
 本書には、身につまされたりぞっとしたり、誰しも避けては通れない嫉妬にまつわる歴史上のエピソードが満載されています。

掲載:2004年11月25日

著者プロフィール

山内昌之

ヤマウチ・マサユキ

1947(昭和22)年札幌市生まれ。東京大学名誉教授。学術博士(東大)。国際関係史とイスラーム地域研究で、サントリー学芸賞、毎日出版文化賞、吉野作造賞、司馬遼太郎賞などを受賞。2006年、紫綬褒章。近著に『歴史の作法』『歴史のなかの未来』『幕末維新に学ぶ現在』など。

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