
「小皇帝」世代の中国
748円(税込)
発売日:2005/12/16
- 新書
- 電子書籍あり
一億人「一人っ子」が中国を動かし始めた! 反日をも娯楽化する新世代。今後の日中関係は彼らが鍵となる。
「小皇帝」と呼ばれる一人っ子は一億人前後と推定される。社会人も急増し、現代中国を左右し始めている。新たな反日に走り、「打倒小日本!」と叫ぶ小皇帝世代とは。経済的繁栄の謳歌、巨龍(大国)意識……。しかし、このチャイナ・ドリームには闇も存在する。過保護に育てられ、出世競争に追われ、結婚難にあえぐ彼らは、精神的に深く病んでもいるのだ。旧来の常識がまったく通用しなくなった隣国の現在。
目次
プロローグ――緊張する街
第一章 新たなる反日
1 二〇〇五年四月九日・北京
2 羅剛事件の意味するもの
3 反日の娯楽化が始まった
2 羅剛事件の意味するもの
3 反日の娯楽化が始まった
第二章 巨龍意識
1 「小皇帝」たちが大人になった!
2 紅色旅行の少年四人組
3 中国不可侮辱
2 紅色旅行の少年四人組
3 中国不可侮辱
第三章 チャイナ・ドリーム
1 小資族時代がやってくる
2 帰国する頭脳集団
2 帰国する頭脳集団
第四章 苦悩する青春
1 十三億の競争
2 地方出身大学生を襲う貧富の格差
3 病む心
2 地方出身大学生を襲う貧富の格差
3 病む心
第五章 未来への架け橋
1 日系企業離れが拡大している
2 新世代とのコミュニケーション
3 温度差を超えて
2 新世代とのコミュニケーション
3 温度差を超えて
エピローグ――中国でラジオ放送をもう一度
あとがき
あとがき
書誌情報
読み仮名 | ショウコウテイセダイノチュウゴク |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610147-2 |
C-CODE | 0225 |
整理番号 | 147 |
ジャンル | 政治、社会学、地理・地域研究、経済学・経済事情、暮らし・健康・料理 |
定価 | 748円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/04/27 |
書評
波 2006年1月号より 「小皇帝」の時代がやってきた 青樹明子『「小皇帝」世代の中国』
昔から競争が苦手だった。
徒競走はピストルの音を聞くと、反射的に身体が後ろへ下がる。試験のたぐいは、普段はともかく、いざ決戦・大学入試になると、次から次へと失敗する。児童劇団の頃、オーディションと名のつくものはすべて落ちた。恋愛競争もしかり。計算上では、女子学生一人に対し男子学生トラック一台分と言われた大学で、恋人獲得は失敗した。続く就職戦線、結婚レース、みんな負けた。
ここまで負けがこむと、人生それなりに達観する。自分は競争には向かない。競争のない場所を探し、ひっそりと暮らして行こう。現代版「出家遁世」みたいだった。今思えば単なる現実逃避だが、外国暮らしは一応それを可能にする。
そこで思いついたのが中国行きだった。「悠久なる歴史の都」「時間が止まった空間の旅」……。パンフレットのようなコピーが頭に浮かぶ。静かで穏やかな、癒しの空間があると確信した。
しかし、そこで私が目にしたのは、すさまじいまでの競争社会だったのである。レース参加者は中国人であり、私は傍観者にすぎなかったが、目にするだけでも胸が痛んだ。
受験戦争は聞くだけでも疲れる。
ここ数年、中国では大学入試の受験生の数が、百万人単位で増えている。統一試験の合格率は二人に一人。「浪人」の習慣は一般的ではなく、失敗すると人生の敗残者的視線にさらされてしまう。ちなみに二○○五年度は、約四百数十万人が不合格だった。
就職戦線もまたすさまじい。
競争率が百倍二百倍、なんていう企業はざらである。自然、職にあぶれる若者が増え、初任給も気の毒なほど下落している。
最も深刻なのは結婚難だ。
中国人は伝統的に男の子を大切にする。一人っ子政策のため、出産はワンチャンスしかない。するとあの手この手で産みわけを考える。その結果女子一○○に対して男子は一二一となった。このまま行くと、二○二○年には三千万から四千万人の男性が結婚相手を見つけられないのだそうだ。驚異的な椅子取りゲームが始まる。
反日を叫ぶ中国の若者たちは、たしかに強く見える。強大なる祖国を信じ、発展を謳歌し、自由奔放で怖いもの知らずに見える。しかしひとたび裏を返せば、競争に疲れ、心を病む繊細な神経があった。彼らの多くは一人っ子たちで、「小皇帝」などと時に批判の対象となる。拙著『「小皇帝」世代の中国』は、そんな彼らの光と闇を追った。
複雑で特殊な世代の一人っ子たちは、その数すでに九千万人を超え、一説には一億人に達しているとも言われている。二十一世紀の大国・中国は、まさに「彼らの時代」なのである。
徒競走はピストルの音を聞くと、反射的に身体が後ろへ下がる。試験のたぐいは、普段はともかく、いざ決戦・大学入試になると、次から次へと失敗する。児童劇団の頃、オーディションと名のつくものはすべて落ちた。恋愛競争もしかり。計算上では、女子学生一人に対し男子学生トラック一台分と言われた大学で、恋人獲得は失敗した。続く就職戦線、結婚レース、みんな負けた。
ここまで負けがこむと、人生それなりに達観する。自分は競争には向かない。競争のない場所を探し、ひっそりと暮らして行こう。現代版「出家遁世」みたいだった。今思えば単なる現実逃避だが、外国暮らしは一応それを可能にする。
そこで思いついたのが中国行きだった。「悠久なる歴史の都」「時間が止まった空間の旅」……。パンフレットのようなコピーが頭に浮かぶ。静かで穏やかな、癒しの空間があると確信した。
しかし、そこで私が目にしたのは、すさまじいまでの競争社会だったのである。レース参加者は中国人であり、私は傍観者にすぎなかったが、目にするだけでも胸が痛んだ。
受験戦争は聞くだけでも疲れる。
ここ数年、中国では大学入試の受験生の数が、百万人単位で増えている。統一試験の合格率は二人に一人。「浪人」の習慣は一般的ではなく、失敗すると人生の敗残者的視線にさらされてしまう。ちなみに二○○五年度は、約四百数十万人が不合格だった。
就職戦線もまたすさまじい。
競争率が百倍二百倍、なんていう企業はざらである。自然、職にあぶれる若者が増え、初任給も気の毒なほど下落している。
最も深刻なのは結婚難だ。
中国人は伝統的に男の子を大切にする。一人っ子政策のため、出産はワンチャンスしかない。するとあの手この手で産みわけを考える。その結果女子一○○に対して男子は一二一となった。このまま行くと、二○二○年には三千万から四千万人の男性が結婚相手を見つけられないのだそうだ。驚異的な椅子取りゲームが始まる。
反日を叫ぶ中国の若者たちは、たしかに強く見える。強大なる祖国を信じ、発展を謳歌し、自由奔放で怖いもの知らずに見える。しかしひとたび裏を返せば、競争に疲れ、心を病む繊細な神経があった。彼らの多くは一人っ子たちで、「小皇帝」などと時に批判の対象となる。拙著『「小皇帝」世代の中国』は、そんな彼らの光と闇を追った。
複雑で特殊な世代の一人っ子たちは、その数すでに九千万人を超え、一説には一億人に達しているとも言われている。二十一世紀の大国・中国は、まさに「彼らの時代」なのである。
(あおき・あきこ 広東衛星ラジオ放送キャスター)
著者プロフィール
青樹明子
アオキ・アキコ
愛知県生まれ。早稲田大学文学部卒、同大学院アジア太平洋研究科修了。ノンフィクション作家。北京師範大学、北京語言学院への留学を経て、中国各地のラジオ局で日本語番組のプロデューサー・MCを務める。著書に『「小皇帝」世代の中国』など、訳書に『上海、かたつむりの家』。
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