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海賊の掟

山田吉彦/著

748円(税込)

発売日:2006/08/18

書誌情報

読み仮名 カイゾクノオキテ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610180-9
C-CODE 0225
整理番号 180
ジャンル 世界史
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/06/29

キッド、ドレーク、カリブの海賊から倭寇、水軍、現代のテロリストまで、海のならずものパイレーツの全て!

ギリシア神話の昔から、大航海時代のキッド、ドレーク、あるいはカリブの海賊たち、日本でも藤原純友、倭寇、水軍、そして今日のマラッカ海峡に出没する略奪者に至るまで――古今東西、海のあるところ常に存在した海賊。国家や法律などの枠組みから抜け落ちた成らず者集団であったが、一方で必ず独自の掟を設け、驚くほど民主的な共同体を作り上げていた。映画やアニメの世界などでは窺えぬ、本当の“奴ら”の実態。

目次
プロローグ
第一章 現代に生きる海賊
1 海賊は実在する
海は誰のものか
国際ルールにおける定義
「韋駄天」のその後
身代金の相場
現代海賊の分類
アロンドラ・レインボー号事件
テロリスト型の出現と国際協力
海上で起きた自爆テロ
海賊防止の国際規定
ソマリア海域
2 マラッカ海峡とは
アジアの生命線
歴史的変遷を追う
国際紛争の舞台に
シンガポールへ羨望のまなざしを送るバタム島
マラッカ海峡海賊異聞
「ロビンフッド海賊」
海上警察リアウ管区本部
海峡沿いのベンカリス島
「マレー村」ルパット島
マラッカ海峡に海賊が多い理由
第二章 七つの海を股にかけた男たち
1 海賊の世界史
海賊の誕生
カエサルの海賊退治
記憶に蘇る彼らの肖像
「ロビンソン・クルーソー」の作者
百年戦争時代の私掠船
女王陛下公認のドレーク
スペインの無敵艦隊
カリブの「バッカニア」
最も野蛮で残忍な男
イスラム教徒の「バルバリー」
北欧の民族集団「バイキング」
2 最強海賊列伝
一八世紀の黄金時代
補償制度が完備された掟
キャプテン・キッド
黒髭
女海賊、メアリーとアン
伝説の理想郷「リバタリア」
第三章 日本の海賊
1 海を領地化した海上武装集団
「続日本紀」にはじめて描かれる
海賊の元祖、藤原純友
承平・天慶の乱
海上王国の建国
「土佐日記」にみられる脅威
2 室町後期から戦国時代、覇権を握った海賊たち
村上水軍
戦国時代の瀬戸内海
秀吉の海賊停止令
「魏志倭人伝」にも登場する松浦
北九州に生まれた共和制連合体
元寇による危機
倭寇の正体
平戸を基盤にした頭目・王直
九鬼水軍
3 海賊の末裔
戦乱の収束とともに
あくなき航海術へのこだわり――松浦熈
海城を夢見た大名――久留島通嘉
塩飽諸島の人名
4 今日に続く後日談
海賊城・能島の今
潮流体験
能島の発掘
日本にもある宝島伝説
海賊の信仰
あとがき

〈コラム〉海賊旗
参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

波 2006年9月号より マラッカ海峡に生きる海賊  山田吉彦『海賊の掟』

山田吉彦

 昨年三月に日本の外洋型タグボート「韋駄天」が襲われ、日本人を含む三人が誘拐される事件が起こり、マラッカ海峡における海賊の存在が注目を集めた。ただ事件以降、この海域では警備が強化され、海賊の発生は抑止されていた。それが一年経ち、再び活動を活発化させてきたようだ。
 私は「日本財団」に勤務し、海洋安全問題などを担当している。特に、日本に輸入される原油の80%が通過するマラッカ海峡の航行安全施策に携わってきた。この海峡は、浅瀬や暗礁が点在し航路が狭く、海難事故が絶えない。その上、ここでは海賊が出没し船の安全を脅かすのだ。必要上、私は海賊問題に深く関わることになった。それが高じて、いつしか歴史、民俗学の面からも海賊の研究を続けるようになったのである。
 私の下には、日々刻々と海賊発生の情報が送られてくる。主な発信元はマレーシア・クアラルンプールにあるIMB(国際商業会議所国際海事局)海賊情報センターだ。つい七月二七日にも、マレーシアの漁船が襲われ三人の乗組員が誘拐されたとの連絡を受けたばかりである。
 韋駄天事件が発生した時も私の下には、マレーシア・インドネシアなどの捜査関係者、海運事業者、マスコミなどから多くの情報が寄せられた。だが、これらの情報の中には憶測や偽情報も多く、わざと不安をあおり、対応を誤らせる種類のものも必ず含まれている。私は、これらの情報を分析、精査することで事件の状況を正確に把握し、関係者へ連絡する役割を担ったのであった。
 海賊は複数の国の領海にまたがり行動するため、国家の主権の壁が立ちはだかり、各国政府の対応には制約が多い。また海運の世界は、便宜置籍船制度、多国籍船員の混乗が進み、国家意識は希薄である。そのため、各国政府に代わり日本財団のようなNGOが対応しているのが現状だ。
 また事件当時、私は、マスコミから多くの取材を受けた。人質の安否について意見を聞かれることが多かったが、当初から一貫して、今回の誘拐事件では人質に危害が加えられることはない、と言い続けた。奇異に思われる向きも多かったと思うが、実はそれにはわけがあった。この海域の海賊にとって船の乗組員は獲物であって、決して敵ではないからである。敵でなければ、殺すことは許されない。それが“奴ら”の「掟」なのだ。だから私は人質の身の安全について確信を持っていた。
 海賊は略奪行為を繰り返す「悪」の存在である。だがその一方で、独自のルールを作り、自分たちの夢を追い続けているのだ。それは古今東西、必ず海賊の間に共通している。生と死が対峙する海の上では、人間はいかにも無能な存在にすぎない。海に生きる海賊は誰よりも、その海の恐ろしさを知っている。そして、自分自身を守り、生き続けるために掟を作り、遵守してきたのである。



(やまだ・よしひこ 「日本財団」職員)

蘊蓄倉庫

女海賊、メアリーとアン
 ドレーク、キッド、黒髭……名だたる海賊といえば、みな髭をはやしたむくつけき男をイメージしがちですが、決してそうとばかりは限りません。一八世紀、カリブ海で名を馳せた二人の女海賊がいました。英国人のメアリー・リードとアン・ボニーです。
 死んだ夫の実家に娘の養育費を無心するため母親から男として育てられたメアリー、男勝りの性格でそのまま男として英国海軍に入隊し、果ては悪名高きラカム海賊団に加わることになりました。一方のアンは、何不自由なく育てられた大農場主の娘でした。ところが一人の船乗りに恋をし、駆け落ちしてしまいます。しかしすぐにその恋人に愛想が尽き、今度はある男と恋仲になります。その恋人とは、ラカムのことでした。恋人ラカムと船を調達し無頼漢を集め、海賊業を始めて、やがてラカム海賊団に若い英国人青年が入ってくると、その男性にときめいてしまいます。恋多きアンは、今度は彼を誘惑するのですが、彼こそ誰あろう男装したメアリーだったのです……。
 メアリーは、自分が女であることをアンにだけ打ち明けます。その後、友情で結ばれたメアリーとアンは、ラカム海賊団の中心メンバーとして誰よりも勇敢に振舞ったのでした。

掲載:2006年8月25日

担当編集者のひとこと

映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のモデルとなった海賊

 今年の夏、公開された映画の中でジョニー・デップ主演の『パイレーツ・オブ・カリビアン―デッドマンズ・チェスト―』が特に話題を呼び、ヒットしているようです。カリブ海を舞台に暴れまわる海賊たちを迫力たっぷりに描いた冒険活劇で、大人も子供も楽しめる作品に仕上がっていました。
 この映画、もちろんフィクションであり、現代的にアレンジされた構成となっているのですが、案外、時代背景、場所や人物設定など、きちんと史実に基づいて作られているのをご存知でしたでしょうか? たとえば、海賊たちが集まる無法の島「トルトゥーガ」、これは実際にある島で、十七世紀頃は映画のシーンと同じように海賊たちが好き勝手を行っていた島だったそうです。 もう一つ、今回の映画の中で興味深い人物が出てきます。それは主人公ジャック・スパロウの敵役である幽霊船の船長デイヴィ・ジョーンズです。幽霊船の船長なんて、言うまでもなく架空の人物なのですが、実はこのキャラクターにはある実在の人物のモデルがいました。「黒髭」という海賊です。
 この黒髭、名前通り顔じゅう髭で覆われ、さらに髪も長く、その伸ばした黒髪と髭を何本も編み下げにしてリボンで結んでいたと言います。背が高く、ぎょろっとした目にやせこけた頬、見るからに容貌魁偉といった人物でした。
 彼の性格は残忍かつ粗野であったとか。また奇行ぶりも際立っていました。船を襲撃する際は、編み下げた髪と髭に硝石にひたした火縄をつけて乗り込んでいきました。それらが燃えて頭や顔から煙が上がる様は、まるで悪魔のようだったと記録されています。こんなこともあったと言います。ある晩、船長室で二人の部下と酒を飲んでいると、黒髭は突然、何の理由もなくテーブルの下で二挺の拳銃を引き抜き、安全装置をはずしました。一人の部下は、船長の奇行癖を思い出しとっさに逃れたのですが、もう一人の部下は無残にもひざを撃ち抜かれてしまいました。したたかに酔っ払っていた黒髭はこう嘯いたと言います。「命の危険を察知できないやつは、撃たれても仕方ない。時々こういうことをしなくちゃ、お前ら、俺がどんなやつか忘れてしまうだろう」……まさに映画に登場するデイヴィ・ジョーンズのキャラクターそのものです。
 こうして黒髭は十八世紀のカリブ海一帯を荒らしまわり、その名を聞いただけで航海者たちを震え上がらせる存在になりました。そしてその後も、黒髭の名は海賊の代名詞となり、東京ディズニーランドのアトラクション「カリブの海賊」の入り口には彼の肖像画が飾られています。また、海賊の入っている樽に順番に剣を刺し、あたると海賊が飛び出すゲーム「黒ひげ危機一発」にも彼の名が残されているのです。
 今月刊『海賊の掟』では、このカリブの海賊から倭寇、マラッカ海峡やソマリア沖に出没する現代の海賊まで概説しています。

2006年8月刊より

2006/08/18

著者プロフィール

山田吉彦

ヤマダ・ヨシヒコ

1962年千葉県生まれ。学習院大学卒業。東海大学海洋学部教授。海上保安体制、現代海賊問題などに詳しい。著作に『日本の国境』、『海賊の掟』(新潮新書)、『海の政治経済学』(成山堂書店)、『日本は世界4位の海洋大国』(講談社+α新書)、『海洋資源大国 日本は「海」から再生できる』(海竜社)、『日本国境戦争』(ソフトバンク新書)、『驚いた! 知らなかった 日本国境の新事実』(じっぴコンパクト新書)などがある。

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