「痴呆老人」は何を見ているか
836円(税込)
発売日:2008/01/15
- 新書
- 電子書籍あり
われわれは皆、程度の異なる「痴呆」である。
「私」とは何か? 「世界」とは何か? 人生の終末期を迎え、痴呆状態にある老人たちを通して見えてくる、正常と異常のあいだ。そこに介在する文化と倫理の根源的差異をとらえ、人間がどのように現実を仮構しているのかを、医学・哲学の両義からあざやかに解き明かす。「つながり」から「自立」へ――、生物として生存戦略の一大転換期におかれた現代日本人の危うさを浮き彫りにする画期的論考。
おわりに
書誌情報
読み仮名 | チホウロウジンハナニヲミテイルカ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610248-6 |
C-CODE | 0247 |
整理番号 | 248 |
ジャンル | 哲学・思想、思想・社会、暮らし・健康・料理 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/03/30 |
蘊蓄倉庫
明治維新後、東大医学部で四半世紀余り教鞭をとったドイツ人医師ベルツは、日本のエリート達が、祖国の過去を野蛮なものとして全否定するさまに強い違和感を覚えました。同様に夏目漱石も、「地道にのそりのそりと歩くのでなくって、やッと気合を懸けてはぴょいぴょいと飛んで行く」、「皮相上滑りの開化」(「現代日本の開化」)を痛烈に批判、その心理的影響に危惧を表明しました。著者は二人の大先輩に倣うかのように、西洋の価値基準を無批判に受け容れる日本人の危うさを指摘しています。
担当編集者のひとこと
つながりの師弟
福田首相が掲げるキャッチフレーズは「自立」と「共生」です。どちらも聞こえの良い言葉ですが、本書を読むと、この二つは心理的に深刻な矛盾を孕んでいることが分かります。「自律と独立」を重んじるアメリカ的倫理観と、「つながり」つまり集団として共に生きることを優先する日本の伝統的価値観を並べるところに、現代社会と政治の自家撞着が窺われるようです。
さて、つながりといえば、大井氏は話題作『医療の限界』(07年6月刊)の著者・小松秀樹氏の恩師にあたります。ともに医療を社会全体の中でとらえる視座を持っていますが、他方で大井氏は、一昨年91歳で他界した伝説的小説家・小島信夫氏の教え子でした。芥川賞を受賞した「アメリカン・スクール」は、敗戦後の日米関係を戯画化した傑作ですが、その小島さんの口癖だったのが「常に全体を見なさい」。医師として古稀を過ぎた現在も、ずっと頭に残っているそうです。
2008/01/25
著者プロフィール
大井玄
オオイ・ゲン
1935(昭和10)年生まれ。東京大学名誉教授。東大医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。東大医学部教授などを経て国立環境研究所所長を務めた。著書に『「痴呆老人」は何を見ているか』『人間の往生』『病から詩がうまれる』など。現在も終末期医療全般に取り組む。