向田邦子と昭和の東京
814円(税込)
発売日:2008/04/16
- 新書
- 電子書籍あり
現代は何を失ったのか――。言葉、家族、街並……新たな視点で読み直す。
敗戦から昭和三十年代にかけて、急速な経済成長の中で失われた様ざまな習慣、やさしく奥深い言葉の数々、変わりゆく家族のかたち、東京の町並……それらをいとおしみ、表現し、そして体現し続けた向田邦子。様変わりした現代において、今なお高い人気を誇る作品群をひもとき、早世の天才作家が大切に守り続けたものとは何かをつづる。
書誌情報
読み仮名 | ムコウダクニコトショウワノトウキョウ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 208ページ |
ISBN | 978-4-10-610259-2 |
C-CODE | 0223 |
整理番号 | 259 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 814円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/03/30 |
蘊蓄倉庫
繁栄の中のタヨリなさ
向田邦子の作品群を読み直して浮かび上がるのは、昭和30年代、東京オリンピックを境として急速に変容していく日本人の価値観と倫理観です。背景には安保闘争、高度成長という昭和史に特筆される社会事象があり、「第三の新人」として戦後文学を牽引した安岡章太郎氏も、こう振り返っています。「敗戦後十年あまりは激動期といっても、変ったり崩れたりしたのは主に外面的なもので、当時のわれわれの内面を覗いてみれば案外、戦前の日本人のメンタリティーがそのまま続いていたということが言える。だが、六〇年以降となると、われわれは心底から変って行きつつあるのではないか」(『戦後文学放浪記』)。繁栄する中での窮乏感覚を「タヨリなさ」という表現で捉えています。
掲載:2008年04月25日
担当編集者のひとこと
踏み破った女流作家
著者が指摘しているように、向田邦子は「歴史より記憶」を大切にする作家でした。けして大げさなことは言わず、食事の献立、着る物など身の回りのことごとを記しながら、読者をハッとさせる文章は「天才」とも称されました。
時代は少し遡りますが、昭和13年、川端康成は『文芸時評』の中で、女流作家について「身辺触目のくさぐさを、親身な実感で生かすことは、男は女にかなわないところがある(中略)これは無論、女の日常生活と生理のせいである。女が盲目と感傷とでだまされているわけでは決してなく、また小器用とでは片づけられず、文学の源でもある」としながらも、彼女たちには、作家として「踏み破るべきものがある」と条件を付しています。
死後明らかになった恋人「N氏」との死別や、自身のがん闘病の後、向田邦子が数々の名作を残した所以は、その辺りにあるのかもしれません。
2008/04/25
著者プロフィール
川本三郎
カワモト・サブロウ
1944年東京生まれ。文学、映画、漫画、東京、旅などを中心とした評論やエッセイなど幅広い執筆活動で知られる。著書に『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞・桑原武夫学芸賞)、『白秋望遠』(伊藤整文学賞)、『マイ・バック・ページ』『いまも、君を想う』『成瀬巳喜男 映画の面影』『老いの荷風』など多数。訳書にカポーティ『夜の樹』などがある。