知的余生の方法
836円(税込)
発売日:2010/11/17
- 新書
- 電子書籍あり
知的に生きることは、人生を何倍にも充実させる。あの名著『知的生活の方法』から34年。新しい発想と実践のすすめ。
知的な生活を心がければ、素晴らしい人生を取り戻せる。「知的余生」とは、年齢を重ねても頭脳を明晰化し、独自の発想にあふれた後半生のことである。健全な肉体を保ち、知恵や人徳を生む生活方式、終の住居の選択法、時間と財産の上手な使い方、先人の教えが身に付く読書法、恋愛や人間関係の実践的教訓など。あの名著『知的生活の方法』から三十四年後の今こそ、豊富な教養と体験から碩学が紡ぎ出す、人生の新しい極意。
書誌情報
読み仮名 | チテキヨセイノホウホウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610393-3 |
C-CODE | 0210 |
整理番号 | 393 |
ジャンル | 倫理学・道徳、教育・自己啓発、趣味・実用 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2011/05/20 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2010年12月号より 人生後半を充実させていく秘訣
かつてJ・スウィフトは『ガリバー旅行記』で、不老不死の国に行ったガリバーが見たのは、その国の老人が自由気ままに飲み食いするのに、食欲も味覚もなくなり、読書しても内容を即座に忘れ、病気を患っても死ねないという地獄であったことを描いている。
統計によると、日本人はこの六十年で約三十年も長寿になったという。第二の人生や人生後半を、希望もなく、つまらない毎日にするか、溌剌と楽しみに満ちた日々にしていくか、現代ほど問われる時代はないだろう。
私は一九七六年に『知的生活の方法』という本を出版した。当時、英文学の研究者のはしくれだった私が、自ら実践していることを書いたが、研究者や会社員から主婦まで大きな反響があった。
あれから三十四年を経て、長寿社会に深刻な疑問が出ている今、私は改めて『知的余生の方法』を著すことにした。私自身も傘寿を越えた経験からいえば、老いて死に近づいていくのは必ずしもネガティブな日々ではない。年齢を重ねても、知的な刺激に溢れた日々を送ることができ、幸せで充実した人生後半に変えられると思うのである。
『知的余生の方法』では、私自身の経験や知識をもとに、人生後半での年齢を重ねた故の発想や考え方、実践の方法を、私なりに示してみた。
実際に書いてみると、多岐の分野に言及することになった。働き盛りの頃からの準備法をはじめ、宗教の考え方、時間や財産の使い方、終の住居や書斎をどうつくるか、夫婦の絆をどう深め、真の友人をどう選ぶか、電子書籍が現れた現代でも有効な読書法などさまざまである。読者自身が興味の対象を早く発見し、そのコツや方策を弁え、知的に生きようと心がければ、身心が律せられ、安易な時間潰しや享楽に溺れることなく、人生が修正され、知的な刺激と楽しさに満ちた後半生に変わってくると思うのである。
英語研究の碩学、ケンブリッジ大学のW・W・スキートはこんなことを述べている。
――余暇のほぼ全てを、私はこの興味ある研究に捧げた。他人からはつまらぬと思えるような、同じことを毎日淡々と続けた。だが、その継続的な作業は、次第に人生の本当の楽しみになった――
そして、彼は歴史的大作『英語語源辞典』を完成させ、それは研究者のバイブルともなった。ここには「知的余生」のための一つの秘訣がある。
このたびの拙著も、読者の「知的余生」へのヒントになればと、心より願っている。
蘊蓄倉庫
渡部昇一氏が「知的余生」のために推薦されている本に、パスカル著『パンセ』やアレクシス・カレル著『人間――この未知なるもの』などがありますが、一方、現代のインターネットや電子書籍媒体も大いに使うべきとも説かれています。
200年以上の歴史を誇るブリタニカ百科事典が、もう新版を出さなくなっているのはネットの時代になったからだそうです。では、辞典で必要な情報はネットで得れば良いということなのでしょうか。
本書で、渡部氏は紙の書籍は食物で、電子書籍はサプリメントだと例えられています。
栄養を摂るだけならサプリメントで充分ですが、それだけで子どもが育つわけではない。きちんとした食材を料理して、バランス良く食べることで人間が成長するのです。
必要な情報や情報そのものを得るには電子書籍は便利で効率的ですが、紙の書籍では装幀を味わい、表紙を開け、古い書物なら世紀を隔てた匂いを嗅ぎ、1頁ずつめくりながら内容を楽しむことで、食物の摂取と同じに噛んで、味わい、栄養とすることができるそうなのです。
電子書籍時代にこそ、紙の書物から栄養を摂っていく方法は本書に示されています。
担当編集者のひとこと
「知的余生」を生み出す夢の書斎
都内でも自然が豊かで、閑静な住宅街にある渡部昇一氏のお宅をよく訪ねます。
門から鬱蒼たる木々を抜けると、大きな玄関があります。とても広い応接間や読書のための部屋などがたくさんあり、研究や仕事のための空間と日常生活のための空間に区分されている、とても素敵なお宅です。欧風のデザインの古くてもしっかりした机やソファなどが整然と置かれています。趣を感じる内装の落ち着いた部屋ばかりです。
最新エレベーターもパソコンもあるのですが、現代的な機器はその邸内の風景に溶け込み、まるで何か美術品のように見えるほどです。
中でも2階層にわたる奥行きもたいへん広い書斎が素晴らしく、渡部氏によると、15万冊以上を収納できるように設計され、ほとんど空きがなく、収納冊数をほぼ満たしているそうです。
この書斎は、読書好きな人や古書マニアには垂涎の場所でしょう。進化論で有名なダーウィンの『種の起源』の初版、中世に出版されたチョーサーの稀覯本、美術史研究と著作『知的生活』で名を馳せたP・G・ハマトンの自筆原稿など、もはや入手さえできないような貴重な文献を所有されています。「ブリタニカ百科事典」などは初版から全版を所有され、追加された単語や例文などから英語の変遷の研究を続けられています。
また、幸田露伴や夏目漱石など文豪の初版本、日本史研究のための第一次資料も揃えられており、戦前から戦中に刊行された講談本全巻や人気沸騰中の現代のコミックも全巻揃っています。
傘寿を迎えられた渡部氏ですが、精力的に書物を海外から取り寄せ、ご自身でも古書店やインターネットから情報を入手されています。また、電子書籍媒体などIT時代の読書も楽しまれています(「薀蓄倉庫」参照)。
この書斎は、「先人たちと対話する空間」と渡部氏が言われていますが、確かに古代から現代までの深い叡智と、さまざまな表現活動が満ちていることを感じます。
この約15万冊の蔵書を、ジャンル別や進められている仕事の順番に整理されています。書斎は渡部氏の「知的余生」の背景であり、20代からずっと持ち続けていた夢を、余生で実現したところだということです。
誰しも知的な生活を心がければ、余生での夢が叶うはずであるという渡部氏に、このたび『知的余生の方法』(2010年11月新刊)を著していただきました。人生後半を知的に充実させるための極意や人生のヒントがふんだんに示されています。
本書をぜひご一読いただきたいと思います。
2010/11/25
著者プロフィール
渡部昇一
ワタナベ・ショウイチ
1930(昭和5)年山形県生まれ。上智大文学部卒、同大学院西洋文化研究科修士課程修了。独ミュンスター大、英オックスフォード大に留学。上智大名誉教授。ミュンスター大Dr.Phil.、Dr.Phil.h.c.。専門書の他、『知的生活の方法』『アングロサクソンと日本人』など著作多数。