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ラー油とハイボール―時代の空気は「食」でつかむ―

子安大輔/著

748円(税込)

発売日:2011/05/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

仕事のヒントはいつも飲食店に転がっている。一読爽快。脳と舌を刺激するおもしろ美味しいビジネス書。

「食」に関する様々な現象を読み解くと、人々の心理的変化が見えてくる。ハイボールはなぜ大ヒットしたのか。「食べるラー油」を生み出した、「ずらし」の発想とは何か。飲み放題で店が儲かる仕組みとは――飲食業界のコンサルタントとして活躍する著者によるクリアーな分析から次々浮かび上がるのは、あらゆるビジネスに通じるロジックと発想法である。おいしくておもしろい、舌と脳に爽快な刺激を与える一冊。

目次
はじめに――リアルな息遣いを感じるために
第1章 「時代の空気」は「食」でつかむ
1 ハイボールがヒットした本当の理由
2 「奇跡のリンゴ」とAKB48の共通点とは
3 「言い訳」がスイーツを売る
4 夜に食べる「朝ごはん」とは
5 「売り切れです」が長所になるとき
第2章 「明日のビジネス」は食欲から生まれる
1 千葉県の名産品って何?
2 モロッコにあってタンザニアにないもの
3 紅茶専門のチェーン店が増えないのはなぜか
4 茶髪の「イケメンシェフ」は本物なのか
5 食べるラー油は「リミックス」の産物だ
第3章 飲食店のメカニズムを見抜く
1 飲み放題はなぜ儲かるのか
2 鍋は店にとってもおいしい
3 激安居酒屋は何をもたらすのか
4 スナックには未来がある
5 カフェはこだわりを捨てなさい
第4章 思考停止しないために
1 「食べながらダイエットできる」というウソ
2 コラーゲンで美肌という幻想
3 「究極」「天然」「無添加」という錯覚
4 「二極化」はどこまで本当か
おわりに――味噌と糠床が教えてくれるもの

書誌情報

読み仮名 ラーユトハイボールジダイノクウキハショクデツカム
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610418-3
C-CODE 0263
整理番号 418
ジャンル マーケティング・セールス
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2011/11/04

インタビュー/対談/エッセイ

波 2011年6月号より ラー油の向こうに見えるもの

子安大輔

時折訪れる蕎麦屋が「ご飯もの」として、最近ユニークなメニューを取り入れました。
その名も「エビ天いなり」。エビ天をいなりずしで包み込んでいるのですが、エビの尻尾が油揚げからピョンと飛び出している様には何とも言えない愛嬌があり、店でも人気のようです。
私にとっては初めて見かけた食べ物ですが、名古屋にはエビ天を具としたおにぎりである「天むす」がありますから、その派生形と捉えれば、あっても不思議ではないメニューと言えます。
発想自体は決して奇抜なわけではないものの、ほとんどの人は「いなりずし」と「エビ天」を組み合わせようとは、考えもしなかったはずです。
日経トレンディ誌は毎年「ヒット商品ベスト30」というランキングを発表していますが、昨年の順位を見てみると、「食」の領域では「プレミアムロールケーキ」、「午後の紅茶 エスプレッソティー」、「ミルミル」などがランクインしています。
それぞれ「ありそうでなかったコンビニ用のちょっとだけ贅沢なデザート」、「紅茶をコーヒーの製法で抽出した」、「ターゲットを子供から大人に切り替えた」というのがヒットの要因です。
こうして文字で解説すると、「たったそれだけのことか」と思われてしまうかもしれません。
ちなみにこれらをしのぐ昨年の一番のヒット商品としてランクインしたのが「食べるラー油」です。これも最初こそその意外性に驚いたかもしれませんが、ラー油に、揚げた玉ねぎやニンニクを加えただけと言ってしまえばそれまでです。
新しい商品やサービスの開発というと、特許を取るような画期的な技術や、天才的なクリエイターによる非凡なアイディアが必要だと思われがちです。けれども、そんなものはそれこそ万に一つの確率でしか誕生しません。
むしろ「ちょっとした視点の違い」や「ほんの少しの工夫」こそが、意外なヒットを生むことがあるのです。
私はそれを「ずらし」と呼んでいますが、既存の価値観からのわずかな「ずらし」をいかに生み出すことができるかが、今こそ問われています。
こうしたずらしを、「昔からある商品をアレンジしただけの小手先のものに過ぎない」と否定的に見るのか、「なるほど、ちょっとした切り替えで面白いものが生まれるものだ」と自らも楽しんで受け入れるのかで、その後の思考や発想の柔軟さはまったく違ってくるはずです。
本書『ラー油とハイボール』では食の世界で起きている事象を丁寧に読み解くことで、世の中の変化を感じ取ったり、新しいビジネスのヒントを探ったりしていくのが狙いです。
「うまい・まずい」や「高い・安い」というわかりやすい要素にとどまらず、食のトレンドの背景にじっと目を凝らすことで、今という時代が透けて見えてくるはずです。

(こやす・だいすけ 飲食プロデューサー)

蘊蓄倉庫

飲み放題はなぜ儲かるのか

 居酒屋でよくある「飲み放題コース」のサービス、酒飲みにはとてもありがたい話ですが、店側にはいかなるメリットがあるのでしょうか。『ラー油とハイボール―時代の空気は「食」でつかむ―』(子安大輔・著)によれば、一つには次のような事情があるそうです。飲み放題コースは、大抵、料理のコースとセット、という条件がついています。比較的カジュアルで1品500円くらいのつまみが多い店で仮に2500円の料理コースを頼むとします。4人ならば1万円=20品自動的に注文したのと同じことになります。しかし、実際には4人で20品もアラカルトでつまみを頼むことはあまりありません。つまりその分、お客は「頼みすぎ」ているのです。この「頼みすぎ」の部分が、店にとっての利益となる。だから飲み放題は、店にとってもおいしいシステムなのです。他にも事情があるのですが、そちらは本書で。『ラー油とハイボール』は、飲食業界の様々なトレンドや現象をクリアーに分析した、脳と舌に刺激を与えるビジネス書です。
掲載:2011年5月25日

担当編集者のひとこと

食べるラー油と「ずらし」の発想

 編集の仕事で、ありがたいなあとつくづく思うのは、担当している原稿を読みながら勉強ができることです。『ラー油とハイボール』で著者が提示しているさまざまな発想法、着眼点は、すべて飲食業界関連のものなのですが、すぐに自分の仕事に応用できるものばかりで、ありがたいなあと思いました。
 たとえば、「食べるラー油」を生み出した発想の背景には、「ずらし」の手法があった、と著者は分析しています。まず「ラー油」という商品の要素を書き出してみる。「赤い」「辛い」「垂らす」「ゴマ油」「餃子につきもの」「小瓶」……このうち「垂らす」を少しだけ「ずらし」て「食べる」に置き換えてみた。そこから生れたのが、あの大ヒット商品だった、という分析です。
 なるほど、新しいモノなんかもう出てこない、というのではなく、既存のモノを少しだけ「ずらし」てみると、意外な魅力を発揮しそうな気がします。だから、すぐに応用できる、と思ったのです。
 新書は「薄い」「軽い」「安価」「読みやすい」「マジメ」というのが、かつての常識でした。これの「マジメ」を少し「ずらし」たゆえに、新書ブームが生れた、という分析がかつてよく唱えられていました。しかし、もうそれが標準になったいま、また新しいことを考えなくてはいけないのかもしれません。しかし「分厚い」のもどうかと思うし、「重い」「高価」は論外。そうだいっそ「食べられる」はどうか、とひらめいたのは、きっといま疲れているからでしょう。

2011/05/25

著者プロフィール

子安大輔

コヤス・ダイスケ

1976(昭和51)年生まれ。東京大学経済学部卒業。博報堂勤務を経て2003年、飲食業界に転身。2005年、共同で株式会社カゲンを設立し、取締役就任。飲食業界のプロデュースやコンサルティングに広く携わる。著書に『「お通し」はなぜ必ず出るのか』がある。

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