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自衛する老後―介護崩壊を防げるか―
792円(税込)
発売日:2012/05/17
- 新書
- 電子書籍あり
医療と介護の最前線! 驚異のリハビリから理想の看取りまで。【現場からの最新報告】
精神論やお上頼みでは、もう乗り切れない。「される側」「する側」の双方にとって理想とはほど遠い介護の現実、特養入所待機者42万人の長い列、ガダルカナル戦にも喩えられる財政運営……二〇〇〇年にスタートした介護保険は超高齢化社会を迎え、医療、年金に続く「第三の崩壊」の危機にある。先進的リハビリと介護、認知症と看取りへの取り組みまで、介護と医療の現場から見えてくる、人生最終章を守るための選択肢とは――。
書誌情報
読み仮名 | ジエイスルロウゴカイゴホウカイヲフセゲルカ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610470-1 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 470 |
ジャンル | 社会学、福祉、介護 |
定価 | 792円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2012/11/09 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2012年6月号より 介護の総力戦が始まった
「とうとう『野たれ死に』ならぬ『家(や)たれ死に』の時代が来てしまった。80歳を超えた私は、こんな恐ろしい時代は見ないで済むと思っていたのに……。これから恐ろしい戦争が始まりますよ。介護は、本当に総力戦ですから」
「高齢社会をよくする女性の会」の樋口恵子理事長は最近のセミナーで、こう声を震わせた。ところが「総力戦」を戦い抜く武器であるはずの介護保険の先行きが危うくなっている。制度設計が右肩上がりの経済社会を前提に作られているから土台が崩れ始めているのだ。
『自衛する老後』では、危機の実像を分かりやすく描こうと心がけた。同時に、厚労省の誘導で通説化している「在宅介護はいいことだ」という常識を疑った。最後に、「国民共有・介護の家」という新しい介護サービスの創出を提案している。
危機はハードとソフトの両面にある。ハードは、言うまでもなく介護保険制度が直面している財政問題である。毎年、数千億円のオーダーで増加し続ける介護給付支払いに、ロジスティックス(補給線)が付いて行けない。12年前、月額2000円台で始まった1号被保険者の介護保険料は今年、ほとんどの自治体で5000円を超えた。消費増税も介護保険維持の“援軍”になりそうもない。政府は5%税率アップ(13・7兆円増収見込み)の使い道を社会保障の機能強化(2・7兆円)、基礎年金の国庫負担引き上げ分(2・9兆円)、地方分(2・7兆円)、高齢化に伴う自然増(2015年までに3兆円)、引き上げに伴うコスト増(0・8兆円)としている。残り1・4兆円が財政赤字補てん分である。
「全くのウソ」と言うのは、学習院大学の鈴木亘教授である。年金開始年齢の引き上げ、70歳以上の高齢者の医療費自己負担引き上げが見送られ、消費税の地方配分を1・5兆円も増やしたため、最初から所要額を3・5兆円も下回っているというのだ。
ソフト面はどうか。確かに「家で暮らしたい、家で死にたい」は高齢者の願いだろう。そのためには介護に当たる家族の負担を可能な限り軽減する努力、終の場としての施設の充実が不可欠なはず。ところが国は、「カネがかかる」として施設整備に厳しいたがをはめている。他方、東京での1世帯当たり人数は2人を割った。一体、どこから家族介護力が生まれて来るというのだろう。
結局、有料老人ホームから低所得者向けの養護老人ホームまで複雑多岐に混在する介護サービスをシンプルに再編成する必要がある。思い切って税を投入して、国民年金の範囲内で安心して暮らせる「国民共有・介護の家」を創設するしかない。政府は増税の前に、老後のグランド・ビジョンを提示すべきだった。
担当編集者のひとこと
アンチエイジングや精神論では乗り切れない
日本人の平均寿命は男女平均で82歳を超え、1984年以来、世界一の長寿国となっています。しかし、誰もがピンピン・コロリと大往生できるわけではありません。別の指標「健康寿命」は75歳、考えたくはないことですが、人生最後の7年間ぐらいは重い病気を抱え、寝たきりや認知症になる可能性が高いのです。
先ごろ、東京の平均世帯人数が1957年の調査開始以来、初めて2人を割ったことがニュースになりました。家族介護もあてにできない時代、人生最終章をまっとうするために必要なのは、アンチエイジングや老いの精神論だけではありません。
著者は、驚異のリハビリから理想の看取りまで、医療と介護の最前線を訪ね歩きながら、崩壊の危機にある介護保険制度の問題を浮き彫りにしていきます。現実を知ることこそが、「想定外」に備える第一歩となるはずです。
2012/05/25
著者プロフィール
河内孝
カワチ・タカシ
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶応大学法学部卒業。元毎日新聞常務。全国老人福祉施設協議会および国際厚生事業団の理事を務める。著書に『新聞社―破綻したビジネスモデル―』『次に来るメディアは何か』『血の政治―青嵐会という物語―』など。