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さもしい人間―正義をさがす哲学―

伊藤恭彦/著

792円(税込)

発売日:2012/07/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

激安志向はさもしい? 先進国はさもしい? 生活保護はさもしい? 正義と公正を「低空飛行の哲学」で考える。

現代人は「人類史上最もさもしい人々」かもしれない。次々現れる新しい機器、膨大な消費電力、捨てるほどの食料……その陰にある犠牲に目をつぶりながら、快楽を貪欲に追求し続けている。この「さもしさ」から私たちは逃れられないのか? アンパンマンが実現している正義を現実のものにはできないのか? 政治哲学の大きな問題について、ユーモアを交えた低空飛行の視点で考える。あえて「青臭い議論」に挑んだ意欲作。

目次
プロローグ──「さもしさ」の話を始めよう
パソコンはどこまで進化すればいいのか/欲望追求はさもしいか?/人類史上最もさもしい人々/原発事故とさもしさ/この本で考えてみたいこと
第1章 日常にひそむ「さもしさ」の光景
ファストフード店で/激安弁当と激安居酒屋/エコ商品ブーム/激安ガソリン/私たちの生活は「さもしい」か/道徳的ロンダリング/ダーウィンの悪夢/道徳的に問題のない生活とは/地球社会の格差/もやもやした気持ち
第2章 「分」を守るということ
酒池肉林星の人々/アリストテレスの定義/「分」を守る/正しさの基準/ジョージ・クルーニーと伊藤恭彦/自己責任と正しい「分」/「学歴は親次第」は許されるか/貧困国に生まれたら/「分」と運命
第3章 市場はけっこう残酷だ
「お疲れ様」と「お互い様」/共同体社会の醜さ/市場競争からは逃れられない/大富豪イコール悪ではない/「お互い様」の制度/お互い様の倫理と正義/制度があって生活は成り立つ/制度を考える/政府は税金泥棒か?/風が吹いて儲かるのは桶屋だけ/制度が欲望を支える/個人の「さもしさ」と制度の「さもしさ」
第4章 地球から「さもしさ」を消せるか
簡単にまたげない国境/坊主丸儲け資本主義/制度がないゆえの「おいしい生活」/血まみれのダイヤ/他人を食い物にしてはならない義務/募金の上限/正義と私たちの利益/毒入りギョーザ事件/メタボと飢餓/地球規模の制度をつくる/援助の罠/ウルトラマンとアンパンマン/国境を越える正義/冷静な正義と正義の心
エピローグ──公憤と正義
破壊型政治の問題点/護送船団の意味/恐怖のボートレース/私憤から興奮ではなく、公憤へ/グローバル社会の正義/正義を語る不幸/正義にかなう制度がすべてか?/二つの心のバランスを
あとがき
主要参考文献とブックガイド

書誌情報

読み仮名 サモシイニンゲンセイギヲサガステツガク
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610478-7
C-CODE 0210
整理番号 478
ジャンル 哲学・思想、思想・社会
定価 792円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2013/01/18

蘊蓄倉庫

世界の格差について

『さもしい人間』で紹介している世界の格差に関するデータです。地球上の豊かな2割の人が、世界の肉と魚の45%、総エネルギーの58%、紙の84%を使っている。一方、最も貧しい2割の人は、肉と魚の5%、総エネルギーの4%、紙の1.1%を使っているにすぎない。……こういう状況で、豊かな私たちはどうすれば、「さもしく」ない、「公正」な生き方ができるのか。この大きな問題に挑んだのが『さもしい人間―正義をさがす哲学―』(伊藤恭彦・著)です。テーマは真面目ですが、文章はユーモアに満ちた「低空飛行の哲学」なのでご安心ください。
掲載:2012年7月25日

担当編集者のひとこと

後ろ指を指されないにはどうすればいいのか

 ニック・ロウが書いて、エルヴィス・コステロが有名にした名曲「(What’s so funny ’bout) Peace,Love and Understanding」は、邪悪さと狂気に満ちた世界に絶望した男の独白という形式の歌詞です。歌の中では何度も「平和と愛と理解の何がおかしいというのか」というタイトルのフレーズが繰り返されます。
 普段はそんなこと考えず、自分と周囲20メートルくらいのことしか眼中にない私でも、この歌を聴いたり、テレビでアフリカの貧しい人を見たり、街中で募金活動に遭遇したりすると、ちょっと考えてしまいます。金持ちではないにしても、大した不自由もなく、ご飯が食べられ、電気が使える身分。そこに、どこか後ろめたい感じがしてしまうのです。
 しかし、だからといって、自分の給料をどんどんアフリカに送り込む気にもなれません。平和と愛と理解のために、どうすればいいのか。どうもしないのは罪深いことなのか。
 何となく私たちがかかえる「もやもや感」を「さもしさ」というキーワードを用いて考えたのが、『さもしい人間』です。著者は、この問題を考えるうえで、政治哲学という学問を手引きに話を進めます。
 哲学というと、高尚とか難解と思われるかもしれませんが、心配は無用。本書では、哲学的思考を思いきり「低空飛行」させる、と著者が最初に宣言しており、その通りに、高校生、いや中学生でも読めるタッチで、とても大きくてシリアスな問題を考えていきます。
 読んだあとに、「もやもや感」が軽減することは保証いたします。

2012/07/25

著者プロフィール

伊藤恭彦

イトウ・ヤスヒコ

1961(昭和36)年名古屋市生まれ。大阪市立大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得。博士(法学)。現在、名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授。専門は現代政治哲学。著作に『多元的世界の政治哲学』『貧困の放置は罪なのか』(2011年日本公共政策学会賞受賞)など。

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