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巧い。ズルい。しぶとい。局面を変える12の戦術。

外交プロに学ぶ 修羅場の交渉術

伊奈久喜/著

734円(税込)

本の仕様

発売日:2012/11/16

読み仮名 ガイコウプロニマナブシュラバノコウショウジュツ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 191ページ
ISBN 978-4-10-610494-7
C-CODE 0231
整理番号 494
ジャンル 政治
定価 734円
電子書籍 価格 648円
電子書籍 配信開始日 2013/05/24

外交のプロたちは、交渉に臨むビジネスマンにとって最高の教師である。要求を突きつけ、相手を説き伏せ、国益を守る彼らは、熾烈な戦いに勝つためのテクニックや戦略、言葉を持っている。説得力を失うNGワード、非常識な相手との付き合い方、ナメられる交渉者の特徴、「交渉決裂」をどう表現するか……。日経新聞で長年外交・安全保障を担当してきた記者が、巧妙で周到な「プロの交渉術」を紹介する。

著者プロフィール

伊奈久喜 イナ・ヒサヨシ

(1953-2016)1953(昭和28)年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、日本経済新聞社入社。政治部編集委員、論説委員、論説副委員長などを経て、特別編集委員(外交・安全保障担当)。同志社大学大学院等で国際政治論を教える。1998年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。2016年没。

目次

まえがき
1. 交渉人は「べき」を使うな――北朝鮮を説得するには
「主観」で相手を説得できない/「唯一の選択肢となる」と言えるか/「良い警官と悪い警官」で揺さぶる/相手になめられる交渉者とは/「明確すぎる約束」の功罪/「ダメなものはダメ」と訴える
2. 危機管理の基本は「フルテキスト」――菅直人はなぜ批判されたのか
「全文を見てから……」という原則/「二重のメッセージ」を発信する/吉田茂の本音の隠し方/交渉者の「揺れ」は細部に宿る
3. 「二本線」で問題を整理する――「角福戦争」はいつまで続いたか
「対立軸」と「立ち位置」/多様なアイディアを引き出すには/「ヒトラーかスターリンか」の選び方/小泉総理と田中眞紀子は「不和の運命」
4. たった「一文字」が命とり――「小泉発言」はなぜ問題になったのか
外交官は「もの書き」のプロ/「てにをは」には本音が表れる/誤読が生んだ「非戦闘地域」問題/「外で通じない言葉」を使うな
5. 「距離の専制」を利用せよ――なぜホワイトハウスで働きたがるのか
世界は「密約」にあふれている/「秘密の不合意」の難しさ/接触時間の長さと「以心伝心」/「権力者への挨拶」はクレムリンの常識/意思決定者の物理的「側近」になれ/富士山は「近く」から見よ
6. たとえ話をうまく使おう――小沢一郎をどう捉えるか
「敗軍の将」の共通点を探せ/「法律家・道徳家」の戦法/強い個性は「アンチ」を生む/「うまいたとえ」でセンスを磨く/固定観念や紋切型に陥らない
7. あえて「逆説」を持ち出そう――アメリカは日本をどう説得したか
「通説」をかたっぱしから否定する/マイナスからプラスへの言い換え/「逆説の元祖」キリストの説得力/ODAの衝突は「訳語」の違いから/「顔の見える援助論」まで疑え/少数派に立つリスクを知る
8. 交渉決裂でも「合意」と言う――トウ小平は尖閣問題をどうかわしたか
苦戦を隠す絶妙なレトリック/「結論先送り」を前向きに言うと/「対話チャネル」は常に開いておく/「翻訳の妙」で戦争を終わらせた官僚
9. 「用心深い楽観論」は万能である――専門家は中国をどう見ているか
「反対論」をうまく伝えるには/中国の将来を読み解くヒント/「世界三層論」で未来を見通す/「水っぽい酒」と「酒っぽい水」の違い
10. 「歳の差」をわきまえて付き合う――アジア諸国は何歳か
金正日の立場に立ってみる/民主主義国家には「年差」がある/中国にイライラしない思考法/信頼関係と「囚人のジレンマ」
11. 時には荒っぽいやり方も――ソ連は会議に何を連れてきたか
「象」でも交渉の材料にしよう/「聖域化」という名の先制攻撃/「法の支配」を念頭に置く/「前さばき」のうまさと政治家の手腕
12. 真理は中間にあり――ゴルバチョフは信用できたのか
ソ連の「改革」を信用できるか/異議にも意義がある/サミットの「終わりの始まり」/両方正しく、両方間違っている/大きな流れの中で捉える
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

波 2012年12月号より 「サファイアの手法」の汎用性

伊奈久喜

二〇〇九年に亡くなった米国のコラムニスト、ウィリアム・サファイアは、ニクソン大統領のスピーチライターを務めた保守派でありながら、リベラルなニューヨークタイムズ紙に三十年間、コラムを書き続けた。これを可能としたのは、ニューヨークタイムズ社の雅量に加え、彼のコラムがユニークで良質だったからである。
サファイアは言葉を大事にした記者であり、ニューヨークタイムズ・マガジンに書き続けたコラムのテーマも「On Language(言葉について)」だった。そしてオックスフォード出版から「Safire's Political Dictionary(サファイアの政治辞書)」という、八百六十二ページもある辞書まで出版した。
辞書に立ち戻って言葉を正しく使えば、説得力のある主張に近づける。ステレオタイプ化、マンネリ化した表現が言論空間を支配していれば、そうでない記事はユニークに映り、説得力を持ちうる。彼のコラムはそれを教えてくれた。
この手法には汎用性がある。言葉で目の前の相手を説得するのは、すべてのビジネスパーソンの日常活動そのものである。
それを交渉と呼ぶとすれば、その国の利益を背負った古今東西の外交官たちこそ、その道のプロと言える。彼らの使う言葉やテクニックを紹介し、それをサファイアの手法などで解説すれば、実用性のあるビジネスパーソン向けの書になるのではないか。そう考えながら、頭を整理し、指を動かした結果が小さな本になり、刊行の運びとなった。
本書の執筆は、私の生業であるジャーナリズムについても再考するきっかけとなった。
「ジャーナリズムの反対語はマンネリズム」といったのは大宅壮一である。米国のジャーナリスト、ウォルター・リップマンも、「人はステレオタイプで物を見た方が楽だ」と説いた。
偉大なふたりのジャーナリストが警告したように、ジャーナリズムには絶えずマンネリ化の危険がある。固定観念を破壊するのが本来のジャーナリズムなのに、なぜなのか。
マンネリズムは座りがいいからだ。テレビの「水戸黄門」が四十年以上続いたのも、偉大なるマンネリズムが視聴者の安心と支持を得たからだった。
が、それも終わった。娯楽番組ですら、常に自己革新を意識していかなければ、見捨てられる。
そして、現在のジャーナリズムもマンネリズムに陥っている。「いまこそ首相の指導力が問われている」式の座りのいい言論がはびこり、独り善がりに陥り、説得力のない主張をしている。
マンネリという、ジャーナリズムに内在するジレンマから抜けだし、ユニークだが説得力ある言論を展開するには何が要るか。
正確で豊富な情報を前提にするのは当然だが、言葉を大事にし、辞書を引きながら書く。そんな作業が重要だ。
ビジネスマンもジャーナリストも、説得力、言語力が物を言う。本書がその一助となればと思う。

(いな・ひさよし 日本経済新聞特別編集委員)

担当編集者のひとこと

「なめられる交渉者」にならないために

 編集者の仕事の中にも、「交渉」が実はたくさんあります。
 意中の人に執筆を頼みにいくとき、著者と編集者の考えが食い違ったとき、社内で企画を通すとき……。自分の希望が通るよう説得しつつ、相手の要望ともすりあわせ、現実的な落とし所を探っていく作業は、まさに「交渉」の一つです。
 でも、私はこの「交渉」がどうも苦手。相手に押し切られてしまったり、なんとかこちらの意向を通そうと焦ってしまったり。そんなとき、本書の一節、「相手になめられる交渉者とは」を思い出します。
 多くの外交交渉を取材してきた著者は、「『この交渉がまとまれば自分の手柄になる』『この条件をのませればこちらの有利になる』ということが顔に出てしまう人はなめられる」と言います。交渉はあくまで「双方の合意を見つける場」という建前。そこで「自分の利益を拡大する場」だと露呈させては、まとまるものもまとまりません。
 だから、自分の希望や要求を通す際には、「あなたにとってプラスになる」と言って説得する。ちなみに外務省のエース外交官は「あなたの国のためにも、アジアのためにも、世界全体のためにもなる」というフレーズが口癖とのことです。
 本書にはこのように、プロフェッショナルが用いる実践的な外交術が沢山詰まっています。みなさんのお仕事にも、ぜひお役立てください。

2012/11/22

蘊蓄倉庫

交渉決裂を何と言う?

 外交交渉は時に「物別れ」に終わることもあります。しかし、「交渉決裂」などと発表すれば、対外的に悪い印象を与え、互いのメンツも潰しかねない。
 そこで外交のプロたちは、こうした状況を「潜在的合意」と表現します。「合意の素地はできているのだけれど、具体的な合意事項はこれからだ」とするのです。こうすれば、対外的には交渉が前に進んでいることをアピールできますし、なおかつ今後の交渉にも取り掛かりやすい。
 冷戦時代の「中距離核戦力全廃条約」も、米ソ首脳会談の交渉決裂を「潜在的合意」だと説明しながら、苦労の末に調印にこぎつけました。
掲載:2012年11月22日

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