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明治めちゃくちゃ物語 維新の後始末

野口武彦/著

814円(税込)

発売日:2013/12/14

  • 新書
  • 電子書籍あり

たった十年で「日本」を作った。サムライと新政府の知られざる闘い。

倒幕果たせど、維新の道険し――「一人前の国家」を目指す日本の前には、未知なる難題が山積み。失業した侍をどう処するか? 国の借金をどう返すか? 国防を誰に任せるのか? 首都の都市計画をどうするか? 人道的な裁判や刑罰とは? 表現の自由は認めるのか? 西郷隆盛ら反対派をどう収めるか? 明治初期、無我夢中で国作りに励んだ男達の悪戦苦闘を描きながら、近代国家「日本」の原点を探る。

目次
はしがき
第一部 明治夢幻録
その一 明治維新は革命か 〈革命の三条件と三つの謎〉
その二 桑と茶 〈失業と貧窮の首都〉
その三 大村益次郎暗殺 〈破格な登用は命取り〉
その四 奇兵隊反乱 〈民間兵の失業と解体〉
その五 浦上四番崩れ 〈新たな宗教思想の模索〉
その六 人力車の時代 〈没落士族と奉公人の失業問題〉
その七 あぐら鍋 〈文明開化と肉食ブーム〉
その八 絞首刑の採用 〈近代的な死刑の追求〉
その九 海棠 〈ある東北藩士の慷慨〉
その十 広沢真臣暗殺 〈新政府がおった負債と賠償〉
その十一 普仏戦争と日本人 〈近代日本のモデルとなった国〉
その十二 版籍奉還 〈武士の財産は回収できるか〉
その十三 岩倉使節団 〈西欧社会で見た「近代」の風〉
その十四 円の誕生 〈財政と貨幣制度の一元化〉
その十五 尾去沢鉱山事件 〈巨大化する大蔵省の権限〉
その十六 マリア・ルス号事件 〈万国公法と国際世論のあいだで〉
その十七 銀座煉瓦街 〈公共事業をめぐる利権争い〉
その十八 鉄道開設 〈交通網整備と資金調達の壁〉
その十九 徴兵令 〈国のために血を流すのは誰か〉
その二十 山城屋和助憤死事件 〈大臣の口利きと成金商人〉
その二十一 敵討禁止令 〈武断統治から法治国家への移行〉
その二十二 征韓論 〈東洋的秩序との軋轢〉
第二部 明治反乱録
その一 ざんぎり頭 〈頭髪は時代を映す〉
その二 秩禄処分 〈職業としての武士を潰すまで〉
その三 明治六年政変 〈外征派と内治派の争い〉
その四 東京新繁昌記 〈活字が描いた新風俗〉
その五 地租改正 〈米から金へと変わった租税制度〉
その六 岩倉具視暗殺未遂 〈反政府勢力の二極化と後遺症〉
その七 警視庁創設 〈行政執行力としての警察〉
その八 樺太・千島交換条約 〈領土帝国主義から国境を守るには〉
その九 佐賀の乱 〈士族反乱の蜂起と鎮圧〉
その十 台湾出兵 〈新生国家初の海外派兵〉
その十一 島津久光ごねる 〈旧藩体制と新中央政府の確執〉
その十二 小野組の没落 〈ある大商人の先見性と没落〉
その十三 三井と三菱 〈財閥という大企業連合の誕生〉
その十四 讒謗律 〈反政府的言論の封殺〉
その十五 江華島事件 〈弱肉強食こそ外交の国是〉
その十六 廃刀令 〈郷愁なき武装解除の受容〉
その十七 神風連の乱 〈新しい時代を拒絶した士族〉
その十八 萩の乱 〈不平士族反乱の連鎖〉
その十九 西郷隆盛暗殺計画 〈文明開化か「第二の維新」か〉
その二十 西南戦争 〈最後にして最大の士族反乱〉
その二十一 西郷星 〈西郷は政敵か英雄か〉
その二十二 紀尾井坂の変 〈明治維新激動期の完結〉
あとがき

書誌情報

読み仮名 メイジメチャクチャモノガタリイシンノアトシマツ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-610548-7
C-CODE 0221
整理番号 548
ジャンル 日本史
定価 814円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2014/06/20

インタビュー/対談/エッセイ

波 2014年1月号より 「歴史好き」という社会現象

野口武彦

近頃、「歴史好き」を自称する手合いが多くなっているそうである。「歴史ファン」「歴史マニア」などはまあ尋常の部類として、「歴女」という新造語や動詞「レキシズル」の出現となるともう立派な社会現象だ。
これらが、一昔前の受験教育で詰め込み・丸暗記専門だった「歴史」科目への反発に根ざしていることは、容易に察しがつく。ただ史実と年代だけが際限なく羅列され、みんな「退屈死」寸前まで眠気と戦った、あの責め苦を思い起こすのは決して一人や二人ではあるまい。
だが様子を探ってみると、「歴史好き」のいわれは、たんに成長期に受けた歴史教育の反動だけではなさそうだ。人間を「歴史」に引き合わせる媒体が、昔とは違うのだ。歴史小説が愛好されているからというのも違う。もはや活字ではないのである。
今日の媒体はテレビドラマの動く画像である。いわゆる大河ドラマのキャラクターや、劇画の主人公たちが直接人々の視覚に訴える。いま「歴史好き」たちの感興をそそっているのはもっぱら視覚媒体であるといえそうだ。
何事にも良い面と悪い面がある。「歴史好き」隆盛のメリットは、先行世代が不幸にも背負い込んだ「歴史意識」へのしがらみを一切持たずに済んでいることだ。この世代は、たがいに相手をやれ「自虐史観」だの、それ「自己満足史観」だのと罵り合う、不毛な対立から一切自由である。爺さんたちの争いにはもうカンケイないのだ。
デメリットの方は、ちょうどそれの裏返しである。この世代は自分たちがまだ手を汚していないが故に、というより、手を汚したという自覚がないままに、歴史をイイトコドリして「歴史ロマン」とか「歴史を自由に楽しむ」とか太平楽をいっていられるのだ。まさしく「無知は力なり」(ジョージ・オーウェル)なのである。
「暮らしの垢」という言葉がある。誰でも人間として生活をしている間には、小汚さとか小さな悪に目をつぶる処世術とか、ちょっとした家族エゴイズムとかで、そうそう純潔無垢ではいられないという意味だ。同じように《歴史の垢》ということが考えられないか。一国が生きのびるためには相当エゲツナイこともやらなければならないが、おおむねその方面には目をつぶってしまうような自己免罪のメカニズムが体内に仕込まれているかのような具合である。
歴史は見世物ではない。世の中のすべてが「劇場型」化した昨今であるが、人間はいつまでもノーテンキな見物人ではいられない。いつか見物席と思っていた場所が歴史の現場と化して、新撰組の立場か維新の志士の側に立つかは成り行き次第だが、「歴史好き」の面々が現場に動員される日が来るだろう。歴史への強制徴用には容赦がない。
その日に備えるために「大江戸曲者列伝」「幕末バトル・ロワイヤル」「明治めちゃくちゃ物語」の連作シリーズを書いたつもりである。

(のぐち・たけひこ 文芸評論家)

著者プロフィール

野口武彦

ノグチ・タケヒコ

1937(昭和12)年東京生まれ。文芸評論家。早稲田大学文学部卒業。東京大学大学院博士課程中退。神戸大学文学部教授を退官後、著述に専念する。日本文学・日本思想史専攻。著書に『大江戸曲者列伝』『幕末バトル・ロワイヤル』『幕末気分』『幕府歩兵隊』など。

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