経団連―落日の財界総本山―
792円(税込)
発売日:2014/05/16
- 新書
- 電子書籍あり
造船疑獄、狂乱物価、構造汚職、リクルート事件……政治と向き合い続けてきた財界人たちの戦後70年。
財界総理──。経団連会長がそう呼ばれていた時代があった。財界の意を体して政治と対峙した第2代会長・石坂泰三、政治献金の問題にスジ論で向き合った第4代会長・土光敏夫……。しかし今、そのポストに2代続けて「副会長OB」を起用せねばならぬほど、財界の人材は枯渇している。新興企業はそっぽを向き、中核の老舗企業群も余裕を失う中、「財界総本山」に明日はあるのか。一線の経済記者が肉薄する。
第1章 「財界人」の枯渇
書誌情報
読み仮名 | ケイダンレンラクジツノザイカイソウホンザン |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610570-8 |
C-CODE | 0234 |
整理番号 | 570 |
定価 | 792円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2014/11/21 |
蘊蓄倉庫
ソニーの創業者・盛田昭夫は戦後の財界人の中で際立った個性の持ち主でしたが、経団連会長を目前にして病に倒れました。この盛田の例に限らず、「スター経営者は経団連会長になれない」とのジンクスがささやかれることがあります。
経団連会長になれなかった戦後のスター経営者をもう一人挙げると、新日鉄の会長を務めた永野重雄という人物がいます。新日鉄は今までに、稲山嘉寛、斎藤英四郎、今井敬と三人の経団連会長を出した「財界の名門」ですが、彼ら三人に比べても圧倒的にカリスマ性があった永野は経団連と縁がありませんでした。
「怪物」とのあだ名があり、喧嘩っ早いことでも有名だった永野には、銀座のクラブで白洲次郎を投げ飛ばしたとの真偽不明の逸話もあります。
担当編集者のひとこと
昔の財界人は面白かった
今年6月、榊原定征(さだゆき)・東レ会長が新しい経団連会長として就任します。会長は従来、現役の副会長から選ばれていましたが、榊原氏は経団連副会長のOB。前任の米倉弘昌会長も副会長OBからの起用でしたから、二代続けて「副会長OB」からの起用という不測の事態となりました。
付け加えていえば、経団連会長には「財閥系でない、製造業のサラリーマン経営者を選ぶ」という慣例もありますが、住友グループ出身の前任の会長に続き、三井グループの東レからの次期会長就任によって、この慣例も有名無実化しています。会長出身企業の売上げ規模も、トヨタ→キヤノン→住友化学→東レと、近年は徐々に縮小。要するに「社格」にこだわっていては、「財界」なるものが成り立たない時代になってきたわけです。
経団連は、いかにして現在あるような存在となったのか。本書は、直近の経団連会長の交代劇を枕に、戦後の経団連の歴史をたどりながら、経団連が抱える問題の「起源」を探っていく試みです。
教養新書の定番とも言える「組織研究」の本ながら、歴史の描写に主眼を置いたのは、「経団連とは何か」「財界とはどんな存在なのか」を考える際に、実際の財界人たちの姿をよく見てみる以上に有益な視点はないからです。しかも、時代のしからしむるところもありますが、今の財界人よりも昔の財界人たちの方が圧倒的に面白い。「財界総理」の名を恣(ほしいまま)にした第二代会長・石坂泰三や、「メザシの土光さん」こと第四代会長の土光敏夫の姿には、今の財界人からは失われた強烈な存在感があります。組織研究の本というより、財界の側面から描いた戦後史の本としてお読み頂ければと思います。ぜひご一読を。
2014/05/23
著者プロフィール
安西巧
アンザイ・タクミ
1959年福岡県北九州市生まれ。日本経済新聞編集委員。早稲田大学政治経済学部を卒業後、日経に入社し、主に企業取材の第一線で活躍。広島支局長などを経て現職。著書に『経団連 落日の財界総本山』『広島はすごい』『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想』など。