60歳からの生き方再設計
770円(税込)
発売日:2014/08/11
- 新書
- 電子書籍あり
つながり、生きがい、定年後の仕事、愛と性……うまくやっている人はどこが違うのか。
人生80年。定年後の残り20年は、漫然と過ごすのには長すぎる。シニアとして見事な人生を送っている人たちはどこが違うのか。「定年後の明確なビジョンを持つ」「現役時代のメンツにこだわらない」「愛やセックスに対しても開放的」などいくつかの共通項がある。せっかく義務と責任から解放されたのだから、自由に生き方を考え直してみよう。自身も還暦を迎えた著者が足で調べた「第二の人生」の再設計法。
書誌情報
読み仮名 | ロクジュッサイカラノイキカタサイセッケイ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610584-5 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 584 |
ジャンル | 倫理学・道徳、教育・自己啓発、趣味・実用 |
定価 | 770円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2015/02/20 |
インタビュー/対談/エッセイ
波 2014年9月号より 準備はできるだけ早めに
定年退職した男の寂しい心理を描いた『孤舟』(渡辺淳一著)の主人公は、毎日起きてもやることがない。予定のない空き時間が延々と続くことが苦痛となり、「これは予想もしていなかった異常事態だ」とまで言い切っている。
また、最近放送されたNHK土曜ドラマ「55歳からのハローライフ」(村上龍・原作)では、58歳で早期退職した男性がキャンピングカーを買って旅に出る計画を立てたが、妻に拒否されてしまう。そこで仕方なく、再就職先を探すことにしたが、相談した元取引先の社長からは相手にされず、若い就職カウンセラーからも無能さを指摘され、心身のバランスを崩してしまった。
実は、定年後というのはうつ病になりやすい条件がそろっている。現役時代はどんなに忙しくて大変でも、仕事をやり遂げた時の達成感や充実感、誰かに必要とされている実感などを得ながら生きていた。でも、退職したとたんにそれがなくなり、飲み会やゴルフなどの誘いもぴたりとこなくなる。仕事だけでなく、職場の人間関係も同時に失ってしまうからだ。
毎日家にいて、妻に口出しばかりしていると、夫婦関係も悪化してくる。定年になれば一緒にいる時間が増えるので妻は喜ぶだろう、などと考えている男性はとんだ思い違いをしている。それまで妻は一日のほとんどを自分の好きなように過ごしていたが、夫が家にいるとそれがしにくくなり、ストレスになってしまう。最近、定年夫の昼食を作るたびに離婚を考える妻や、「主人在宅ストレス症候群」などを訴える妻が増えているという。だからこそ、「60歳からの生き方再設計」が大切になってくるのである。
本書では、実際に定年後の喪失感や空虚感などを経験し、試行錯誤しながら新しい生きがい、社会とのつながり、ワクワク感などを見出した人たちの話も交えながら、楽しいリタイア生活を送るための秘訣について考える。
シニアとして見事な人生を送っている人たちにはいくつかの共通項がある。定年後の明確なビジョンをもってできるだけ早めに準備する、現役時代のメンツにこだわらず肩書きのない自分を楽しむようにする、性とロマンスに対しても積極的であり続けるようにする、などである。
60歳からの人生は何が起こるかわからないし、不安も尽きないだろう。しかし、それまでの考え方や生き方を少し変えてみれば、まったく新しい人生を楽しむことができるかもしれない。定年になれば仕事や肩書きを失うが、一方で時間やゆとりなど得るものもたくさんある。せっかく義務や責任から解放され、自由な時間がもてるのだから、「第二の人生」を思いっきり楽しんでみてはどうだろうか。
蘊蓄倉庫
2005年度にOECDによって行われた社会的孤立度に関する国際比較調査によると、日本の社会的孤立度は先進国最悪レベルです。「家族以外の人と交流がない」人の割合は、調査対象20カ国の中で最も多い15.3%。「所属している社交団体の数」でも、トップのアメリカの3.3に対して日本は0.8と、先進国で最も低い水準でした。
この数字は、実質的に職場以外に属する集団がない平均的な日本人の姿を映したものと解釈できるでしょう。「会社以外での人とのつながり」をどうやってつくるか。そこに引退後シニアの生活の充実もかかっています。
担当編集者のひとこと
定年後の準備はお早めに
人生80年時代。仮に60歳で現役を退くとして、残りの20年は、漫然と過ごしてしまうには少々長すぎる時間です。
シニアとして見事な人生を送っている人たちは、どこが違うのか? 今年還暦を迎えたジャーナリストの著者が、そんな問いを胸に、日米でたくさんの高齢者に会ってきました。ボランティアを生き甲斐にしている人あり、定年後の「社会貢献」的な仕事を楽しんでいる人あり、地域社会の再生に情熱を傾けている人あり、その生き方は様々です。
ただ、うまくやっている人には明確な共通点がいくつかありました。「現役時代のメンツにこだわらない」「新しいことに対して開かれている」「家族以外とも積極的につきあう」などです。現役を退くということは「義務と責任から解放される」ことも意味しますから、それをポジティブに捉えられる人は早くから「シニアになったら自分のやりたいことをしよう」と明確なビジョンを描きますし、実際に生活も楽しめています。逆に、現役時代のメンツにしばられたままの人は、孤立を深めていかざるを得ません。
この本でもう一つ注目すべきは、「高齢者の愛とセックス」についても真正面から考えていることです。
アメリカでは、オンラインデーティングを使ってパートナーを見つける高齢者がたくさんいます。当然、身体は衰えてきていますが、挿入を伴わない「エモーショナルセックス」を楽しんでいる人が多いそうです。また本書には、何度か結婚と別離を繰り返し人生の最晩年になって最高のパートナーに出会った人も登場すれば、78歳の女性と31歳の男性のカップルも登場します。愛とセックスを巡る人間関係のパターンはさまざまですが、人生の最晩年に至っても、彼らは実に積極的です。実は「高齢者のセックスは心身の健康に良い」だけでなく、科学的に確定はしていないものの「認知症にもなりにくくなる」との推測もあるそうです。
「愛とセックスに対して開かれていること」も、シニア生活を成功させるための要素の一つなのです。
現役引退後の備えは早めにしておくに越したことはありません。まだ現役の中高年読者にこそ、おすすめしたい本です。
2014/08/25
著者プロフィール
矢部武
ヤベ・タケシ
1954(昭和29)年埼玉県生まれ。1970年代の渡米以降、日米の両国を行き来し、取材・執筆活動を続けている。米ロサンゼルスタイムス紙東京支局記者を経てフリーに。著書に『アメリカ病』『ひとりで死んでも孤独じゃない―「自立死」先進国アメリカ―』などがある。