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呆けたカントに「理性」はあるか

大井玄/著

770円(税込)

発売日:2015/05/18

  • 新書
  • 電子書籍あり

「認知症五〇〇万人時代」の必読書。終末期、胃ろうをめぐる根本的誤解とは――。

「あなたは胃ろうを受けいれますか?」。そう問われた際、ボケて認知能力が低下した高齢者でも、健常者と同じく八割が「NO」と答える。いったい、なぜなのか――臨床観察と近代哲学の両面から、人間の判断の構造をひもとくうちに見えてくる、理性と情動の関係、意識と無意識の働き、三八億年の生命史をさかのぼる「好き・嫌い」の直感的意思表示の意味……。認知症五〇〇万人時代を迎える現代人必読の論考。

目次
はじめに――認知症高齢者に耳傾けるわけ
第一章 胃ろうの選択を前にして
ただただ生きながらえて幸せか
胃ろう(PEG)が始められたわけ
急性期病院の医師が勧める理由
第二章 延命と生存の質(QOL)から考える
きちんとした評価が難しいわけ
日本ではどう評価されているか
海外ではどう評価されているか
誤嚥性肺炎を防げない理由
食べられないから餓死なのか
第三章 認知症高齢者に是非をたずねる
訊かれない認知症高齢者の意向
なぜ本人の意向を訊くべきか
最初のパイロット・スタディから
普通の高齢者と同じ回答分布
第四章 「好き」「嫌い」の情動をさかのぼる
生物個体の内部に生じる感覚
三八億年の生命史から考える
原生動物や粘菌の情動反応
情動(emotion)と感情(feeling)
ヒトの社会的情動――「恥の文化」「罪の文化」
第五章 パイロット・スタディに寄せられた二つの疑問
その一:「理性」を使えないのでは?
理性とは何か――一つの解釈
その二:言うことが変わりやすいのでは?
選択が変わるのではなく答えられなくなる
第六章 理性は情動より大切か
デカルトが尊重した理性的精神
カントが尊重した「行為の道徳法則」
見逃された心の身体化と無意識
理性的であるという幻想の極北
アーリア人の純粋性という口実――ユダヤ人虐殺
早期戦争終結という口実――原爆投下
コトバでレッテルを貼る心理操作――七三一部隊
憎悪の底には実存的不安がある
愛は憎しみよりも自然な情である
第七章 理性はヒトに固有の能力か
理性とは何か――もう一つの解釈
デイヴィド・ヒュームの理性観
想像力――ヒトの情動と理性の源
ヒト以外の動物も意思決定している
ハチクイ鳥に見る「理性」の行使
「人間と動物」か「人間と他の動物」か
生物進化から考える理性とは何か
枝を幹と考える含意
心理的抵抗の少ない物語を創る能力
他種のいのちに対する態度
第八章 理性と情動を「いのちの営み」から考える
ドイツ観念論とイギリス経験論
理性を制御するのは情動――脳科学者の観察
中絶にみる「いのち」対「いのち」
情動は食行動を変える
人を殺してなぜ悪いかという問い
分かちようなく一体化した「いのち」
第九章 意識と無意識の働き
意識経験は無意識のおぜん立てによる
認知的無意識――コルサコフ症候群の観察から
根本煩悩の働き――唯識の理論から
第十章 身体的判断は理性的意思決定に先行する
身体的判断が正しい理由
凡人にはできない「理性的意思決定」
胃ろうについての意思決定はどうなされるか
第十一章 認知症高齢者に耳傾ける倫理
環境刺激・情報の意味は本人しか体感し得ない
直感的判断の生物進化的有効性
利益不利益のはっきりしない医療行為を選択する権利
認知症高齢者でも「理性的思考」をする
本人の意向を聞かない家族の精神的負担
意思表示が家族を安堵させる
認知症高齢者に耳傾けよ
おわりに――カントの終末期への考察

注記・参考文献

書誌情報

読み仮名 ボケタカントニリセイハアルカ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610620-0
C-CODE 0210
整理番号 620
ジャンル 家庭医学・健康
定価 770円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2015/11/13

著者プロフィール

大井玄

オオイ・ゲン

1935(昭和10)年生まれ。東京大学名誉教授。東大医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。東大医学部教授などを経て国立環境研究所所長を務めた。著書に『「痴呆老人」は何を見ているか』『人間の往生』『病から詩がうまれる』など。現在も終末期医療全般に取り組む。

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