常識外の一手
770円(税込)
発売日:2015/06/17
- 新書
- 電子書籍あり
「本筋」から、外れてこそ「一流」。達人が明かす勝ち抜くための思考法。「将棋電王戦」など最新の話題も満載!
常識をわきまえぬ者は、「プロ」になれない。しかし、常識に囚われている者は、「一流」になれない──。数々の栄冠に輝いてきた棋界の第一人者が、電王戦で話題になったプロ棋士対コンピュータの戦いなどを題材に、常識のその先へ行くための思考法、技と知恵のあり方を伝授。あわせて、棋士たちの頭脳の使い方、年齢の壁を越える戦い方、連盟会長という仕事など、棋界の秘話を交えて、勝負の世界の機微を縦横に綴る。
書誌情報
読み仮名 | ジョウシキガイノイッテ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610621-7 |
C-CODE | 0276 |
整理番号 | 621 |
ジャンル | 将棋 |
定価 | 770円 |
電子書籍 価格 | 660円 |
電子書籍 配信開始日 | 2015/12/11 |
蘊蓄倉庫
ここ数年、コンピュータが指す将棋が、プロ棋士を苦しめるほどの進歩を見せて話題になっています。しかし、コンピュータの繰り出す一手には、好手、悪手にかかわらず、まだコンピュータ独特の、言い方をかえれば「プロ棋士ならまず指さない手」がかなり見られるとのことです。
この差こそ、「常識」の有無によるものでしょう。つまり、コンピュータは数値評価によってまさしく「機械的」に手を指すだけですが、人間は「こうした局面ではこう指すべき」あるいは「指すべきでない」と、長年にわたって培ってきた「常識」が判断を左右します。これが悪くすれば「先入観」ともなるわけですが、その世界の豊かな知恵や経験の集積である「常識」を無視しても、それはただの非常識になってしまいます。
そうではなく、十分に常識をわきまえた上で、あえて「常識の外」へ、何時、如何にして出ていくか、それが一番大事なことのようです。そうした、人間にしか判断できない知恵と技の有り方を、棋界の第一人者である達人が指南してくれるのが本書です。
担当編集者のひとこと
将棋の境地を解説しながら、じつは静かに熱い一冊
中学生でプロ棋士となり、二十一歳の最年少で名人になるなど、数々の栄冠に輝いてきた谷川浩司さんも、今や五十三歳。若き日から、その高い実力だけでなく、温容で驕らない人柄もあって将棋界内外の人望を集めてきた現代の名棋士は、2012年末から日本将棋連盟の会長に就き、現役棋士との二足のわらじをはいています。
連盟会長などというと、単なる名誉職のように思われるかもしれませんが、現役棋士が中心になって運営している将棋界は、プロ野球やJリーグのように大きなマネジメント組織を持っているわけでもなく、私たちの想像以上に小所帯です。
そして、関西棋士で神戸にご自宅のある谷川さんは、毎週のように東西を行き来し、しばしば地方へも出かけ、会議に、式典に、イベントに、挨拶回りに、そして現役棋士として対局に、と八面六臂のお仕事ぶりです。
本書は、棋界の第一人者である谷川さんが、今もなお追い求めてやまない「常識外の一手」という将棋の境地を中心に、他の分野にも通じる知恵や技の有り方を執筆されたものですが、じつは、五十代になったばかりで大役を引き受けざるを得なかった一人の人物の奮闘記としても読んでいただけます。
たとえば、人間対コンピュータの対決で非常に話題となった「将棋電王戦」について、「常識外の一手」を考える題材としてかなりの紙幅を割いているのですが、その開催の経緯などは、そのまま連盟会長としての仕事とも関わってきます。そして、将棋界とはいかなるところか、棋士とはいかなる人々か、といったことまでが分かる、「連盟会長みずからによる棋界案内」という形にもなっています。
現役棋士として年齢の壁と戦い、一方で連盟の若きリーダーとして模索し、「五十代の試練」を受けつづける谷川さんの筆致は、つねに穏やかそのもの。けっして衒うところもないのに、しかし、いつのまにか声援をおくりたくなってきます。
本書は、そんな「静かに熱い一冊」です。
2015/06/25
著者プロフィール
谷川浩司
タニガワ・コウジ
1962(昭和37)年、神戸生まれ。将棋棋士。11歳で若松政和7段に入門し、14歳でプロ棋士、21歳で史上最年少の名人となる。以後、数多くの栄冠に輝き、棋界の第一人者として活躍。2012年、日本将棋連盟の会長に就任し、現役棋士との二足のわらじをはく。