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戦犯を救え―BC級「横浜裁判」秘録―

清永聡/著

836円(税込)

発売日:2015/08/12

  • 新書

「勝者の横暴」に立ち上がった男たちがいた――感動の戦後史秘話。

国に見放された戦犯を救え。敗戦から四ヶ月、日本国内初となる戦犯裁判で横浜の弁護士たちは闘いを開始した。圧倒的に不利な状況下、「敗者」が裁かれる法廷で、法律家は何を懸命に求め、何に敗れたか。わずかな報酬、英語の壁、傍若無人な記者、乱発される死刑判決……。“隠された”膨大なBC級戦犯文書と元被告の貴重な証言から、知られざる献身の物語を鮮やかに描き出した戦後史秘録。

目次
まえがき――知られざる九百八十四の死刑判決
第一章 第一号事件
開廷はわずか三日後。横浜弁護士会が引き受けたのは国内初となる戦犯裁判の弁護だった。初公判から死刑が「求刑」、思いもよらぬ障壁も立ちはだかる。
第二章 外務省の冷淡
日本政府は元兵士たちに冷たかった。外務省に背を向けられ、“汚辱”とすら報じられた戦犯たち。だがハマの弁護士は全会一致である決議を行った。
第三章 “隠された”証言録
アメリカ人弁護士は法廷内で、日本人弁護士は法廷の外から――奔走する両者は次第に交流を深める。こうした貴重な記録を、国はなぜ“死蔵”したのか。
第四章 百五歳と九十四歳、「元被告」たちの証言
戦争犯罪を担ったとして裁かれる立場になった法律家、捕虜収容所で東條英機の背中を流すことになった元兵士。二人の生き証人があの裁判を語る。
第五章 老弁護士の悔悟
「もう忘れた」と口を閉ざしてきた弁護士――彼は密かにある資料を保管していた。大空襲の翌日、米兵が大量処刑された「西部軍事件」はいかに裁かれたか。
終章 ある詩
あとがき
主要参考資料一覧

書誌情報

読み仮名 センパンヲスクエビーシーキュウヨコハマサイバンヒロク
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-610631-6
C-CODE 0221
整理番号 631
ジャンル 日本史
定価 836円

担当編集者のひとこと

弁護士の名誉にかけて

 いくら戦後すぐの混乱期のことと言っても、驚いてしまいました。
 BC級戦犯を裁いた「横浜裁判」で、日本人弁護士がついたのは開廷わずか3日前だったというのです。その弁護依頼というのも、横浜弁護士会へ東京の弁護士が来てこう言ったものでした。
「引き受けなければ、今後日本の戦犯裁判から、日本人弁護士は永久に締め出しを食うかもしれない」
 ちなみに東京ではこの半年後にA級戦犯裁判が予定されていました。彼らはそちらで手いっぱいだったのです。
 ハマの弁護士たちは、脅すかのようなこの言葉にも、依頼の内容にも、大いに迷ったに違いありません。被告が誰かも、どんな罪に問われているかも分かりません。アメリカによる戦犯法廷には英語の壁があり、さらに報酬も評価も期待できませんでした。当時、GHQの意図的な宣伝もあって、BC級戦犯は残虐な極悪人とされていたのです。
 しかし横浜弁護士会はこの弁護を引き受け、のちに会員に戦犯の弁護を義務化します。もちろん全国で唯一の決定でした。
「申し上げるまでもなく、この戦犯裁判の弁護は、当弁護士会ひいては全日本弁護士の名誉にかけて遂行すべき大事業につき、何とぞふるってご担当のほど、切望します」(昭和22年2月、同会会長名で記された決議文より。本書92頁掲載)
 会長はのちに「とにかく、被告たちが気の毒だった」と回想しています。また著者もその心情を「おそらく、弁護士がいない、という単純な理由だけではなかったのだろう。彼らは、被告たちが過重な戦争責任を背負わされる場面に立ち会っていた。それだけに、被告のために、救いの手を差し伸べずには、いられなかった」と推測しています。
 しかし弁護士たちの尽力と献身があっても、死刑判決は次々に下っていきました。法律のプロたちはそこで何を求めて闘い、何に敗れたのでしょうか。知られざる戦犯裁判の真相を、ぜひご一読ください。

2015/08/25

著者プロフィール

清永聡

キヨナガ・サトシ

1970(昭和45)年福岡県生まれ。NHK記者。1993年広島大学文学部独語科卒。NHK報道局社会部記者として気象庁や司法クラブなどを担当。大分放送局デスク、司法クラブキャップを経て社会部副部長。著書に『気骨の判決』(新潮新書)、『戦時司法の諸相』(共著)。

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