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個人を幸福にしない日本の組織

太田肇/著

814円(税込)

発売日:2016/02/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

「職場」「人事」「大学入試」「PTA」……。報われないのはワケがある。

昔ながらの「日本の組織」はもはや限界である。強い同調圧力や過剰なコンプライアンスゆえに、組織に属す個人の人格や個性を抹殺し、ストレスを増しているのだ。〈組織はバラバラなくらいがよい〉〈厳選された人材は伸びない〉〈大学入試に抽選を取り入れよ〉〈PTAや町内会は自由参加でよい〉……従来の組織論の間違いや欠点を徹底的に追及。個人を尊重する仕組みに変える画期的提言を示す。

目次
まえがき
第一章 組織はバラバラなくらいがよい
一 なぜ、「見せかけの勤勉」がはびこるのか
心に響かない経営理念/釣った魚にエサはやらない/微笑んでいても目が笑っていない日本人、そのわけは?/見かけの勤勉さと低い満足度は何を意味するか/「強い帰属意識」の勘違い/会社の業績好調は、社員にとっては迷惑?/日本企業こそ「個人尊重」を理念に掲げよ
二 こんなチームワークはいらない
崩れるチームワーク神話/共同体とチームの違い/共同体型では通用しなくなった/統合より分化が必要な時代/復活した運動会、社員旅行/「異分子」が、助け合うチームに変えた
第二章 年功制が脳を「老化」させる
一 「35歳限界説」を捏造した真犯人
日本人は欧米人と頭が違うのか?/頭脳は使い続けるかぎり、いくつになっても発達する/「限界」は組織によってつくられる/年功制を廃止すれば能力は衰えない
二 パラサイト・ミドルを救え!
「分厚いミドル層」は日本企業の強みか/既得権を守る方便?/ミドルは「加害者」か、それとも「被害者」か?/エースこそ管理職から外せ/「分厚いミドル層」をなくせば生産性は四倍に上がる/年功制は中高年に厳しい
第三章 管理強化が不祥事を増やす
一 過剰管理こそ不祥事の温床
杓子定規になった役所の窓口対応/管理を強化しても続発する不祥事/タイプによって異なる抑止効果/「組織エゴ型」や「ゴマすり型」には逆効果/罰則への意外な「適応」/賃金カットの波紋/自尊心を奪うことの恐さ
二 管理と依存の悪循環を断つには
露呈されたモチベーションの低さ/鶏が先か、卵が先か/特効薬は、従業員を「プロ集団」に変えること/どうすれば、プロ集団に変わるか/名を出すことは一石二鳥
第四章 厳選された人材は伸びない
一 公募で逸材が採れないわけ
美少女コンテストのグランプリは活躍しない/ますます選別が厳しくなった/「選んでもハズレる」時代/そして、「選んだらハズレる」時代へ/避けられない既視感/新奇性、意外性こそが命に/競争率が上がると逸材が採れない、もう一つの理由
二 「選ばない」という見識
人権問題に発展するおそれも/ますます問われる説明責任/「恣意」を前提にした採用方法も
第五章 大学入試に抽選を取り入れよ
一 競争試験はなぜダメか
偏差値アップの落とし穴/入試とは何か?/選抜が自己目的化/中教審答申への不満/「受験必要論」を糺す!/「努力が必ず報われる」のはよい社会か?
二 入学者選抜に抽選を取り入れる
ボーダーラインは抽選で/人は三段階にしか判別できない/あいまいな評価が部下を萎縮させる
三 大学は組織でなく、インフラに
変わる大学の役割/「入りやすく、出やすく」すればどうなるか?/「インフラとしての大学」像
第六章 地方分権でトクをするのはだれか?
一 地方創生の死角
なぜ、地方分権を論じるのか?/「地方」はそれほどすばらしいのか/サービスの格差は、命の格差/拡大する格差/同性カップル尊重はなぜ渋谷だけ?/「夕張」はだれの責任か/「地方は魅力を競い、人々は魅力的なところへ移り住めばよい」という暴論
二 トクをするのはだれか?
東京一極集中こそ分権のひずみ/分権は強者の論理/首長のお為ごかし/サッカー少年だけが幸せなまち/「個性あるまちづくり」が住民の個性を奪う/新たな「ナショナル・ミニマム」を/地方自治はどこまで必要か
第七章 PTAや町内会は自由参加でよい
一 人々を遠ざける無用な壁
PTAと町内会はなぜ、これほど似るのか?/PTAには七割がマイナス・イメージ/一方では、貴重な参加・交流の機会を提供/ビフォア・アフターの意識差は何を意味するか/「全」か「無」かはもう古い
二 民主化の三原則
問題の本質はどこにあるのか/(1) 自由参加の原則/町内会のない自治体――/武蔵野市のケース/(2) 最小負担の原則/(3) 選択の原則
三 意欲に応じた参加のモデル
意欲と活動のタイプ分け/タイプごとのかかわり方/出不足金の妥当な金額をどう決めるか/「やらされ」感から、「やりたい」感へ
むすび  組織と社会の構造改革を!
規制緩和の陰で肥大化した組織/「小さな政府」より「小さな組織」を/「中抜き」社会こそ政府の出番
あとがき
引用文献

書誌情報

読み仮名 コジンヲコウフクニシナイニホンノソシキ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610656-9
C-CODE 0234
整理番号 656
ジャンル 社会学
定価 814円
電子書籍 価格 814円
電子書籍 配信開始日 2016/05/27

蘊蓄倉庫

御社の不祥事を防ぐには

 太田肇氏は、役所や会社で発生する「不祥事」を、以下のような6つに分類しています。

[粗暴型] 暴行、傷害、わいせつ、セクハラ、パワハラなど。
[たるみ型] 不注意による事故、飲酒運転、無断欠勤、職務専念義務違反など。
[私益追求型] 収賄、横領、不正受験、情実人事など。
[未熟型] 単純ミス、事故など。
[組織エゴ型] データや数値の改ざん、捏造、情報の隠蔽など。
[ゴマすり型] 同上。

 これらのうち「粗暴型」「たるみ型」「私益追求型」は、管理強化や服務規律の徹底、厳罰化の抑止力によって抑制できるかもしれないのですが、あくまで「短期的」なのだそうです。
「未熟型」には管理強化や厳罰化は全く効果がなく、逆にミスを隠そうとして、重大な不祥事を引き起こす可能性があるそうです。一例は、2005年に起きたJR福知山線の脱線事故です。
「組織エゴ型」や「ゴマすり型」は、管理強化が逆効果になることが多いそうです。このタイプは、組織や上司に対して忠実な組織人が引き起こす不祥事だからだそうです。こうした例では、2009年の大阪地検特捜部の証拠改ざんや2015年の東芝の不適切な会計処理問題が挙げられています。
 こうした不祥事を抑制するには、管理強化や厳罰化よりも、組織で個人の「職業的自尊心」を認めることが重要で、世間から尊敬されたり上司から認められたりして自分の職業や職責にプライドを持てれば、不祥事は減るのだそうです。
 その具体的な方策については本書の第三章に詳述されています。
掲載:2016年2月25日

担当編集者のひとこと

個人を抹殺する組織、個人を尊重する組織

 太田肇氏は、組織論を専門にする学者です。特に、個人を大切にし、個人を生かす組織や社会を追究されています。
 理論や実証だけでなく、数多く現場を踏まれ、取材、体験した皮膚感覚も研究に生かされています。これまでに訪れた企業は、家族経営の零細企業から巨大企業まで、国内外で延べ1000社以上になるそうです。
 また、研究者になる前に公的機関でも10年あまり働かれた経験があり、今では自治体のコンプライアンス委員なども務め、さらにPTAや町内会の運営にも携わられています。
 こうしたキャリアの中で、痛感されたのが、「『組織の論理』が強すぎる」ことです。そのため、個人が生かされていないのだそうです。
 日本の「組織の論理」はもう限界にきており、「個人を幸福にしない」病巣がここにあるというのです。
 本書は、職場、人事、入試、自治体、PTA、町内会など、生きるうえで否応なしにかかわらざるをえない組織の奥底から病巣をえぐり出し、「組織の論理」の間違いやウソ、偽善を次々に明らかにしています。さらに、個人が尊重され、円滑に機能し、成果があがる新しい仕組みへの改善策や斬新な提言をまとめています。

 以下はその一例です。

*****

「なぜ、『見せかけの勤勉』がはびこるのか」
「こんなチームワークはいらない」
「過剰管理こそ不祥事の温床」
「どうすれば、プロ集団に変わるか」
「厳選された人材は伸びない」
「公募で逸材が採れないわけ」
「入学者選抜に抽選を取り入れる」
「地方分権でトクをするのはだれか?」
「PTAや町内会は自由参加でよい」 etc.

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 組織内で、報われない……と感じている方も、いまの組織にいるのが楽しいという方も、本書をぜひご一読ください。

2016/02/25

著者プロフィール

太田肇

オオタ・ハジメ

1954年兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授(大学院総合政策科学研究科教授を兼任)。経済学博士。専門は組織論、人事管理論、モチベーション論。個人を生かす組織・社会について研究。著作に『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)『同調圧力の正体』(PHP新書)など。

太田肇・公式ホームページ (外部リンク)

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