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違和感の正体

先崎彰容/著

858円(税込)

発売日:2016/05/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

国会前デモ、反知性主義批判、道徳教育、安心・安全――。「正義」のカラ騒ぎ! 瞠目の本格社会評論。

メディアや知識人によって語られる今どきの「正義」、何かがおかしい。どうも共感できない。デモ、教育、時代閉塞、平和、震災など、現代日本のトピックスをめぐり、偉大な思想家たち――網野善彦、福澤諭吉、吉本隆明、高坂正堯、江藤淳――らの考察をテコに、そんな「違和感」の正体を解き明かす。善悪判断の基準となる「ものさし不在」で、騒々しいばかりに「処方箋を焦る社会」へ、憂国の論考。

目次
はじめに――ものさし不在の時代に
デモ論――「知識人」はなぜ舐められるのか
奇妙な矛盾/相対主義の時代/正義と「敵」の発見/カール・シュミットの「政治」定義/現代日本のドン・キホーテたち/ことばを放りだした凡庸な学者/ネット右翼とデモ左翼
差別論――何が「自由」を衰弱させるか
入れ墨とプライバシー/「橋本現象」と「社会的差別」/屈折した自己表現/毛羽立ったことばと行動/網野史観と差別の表象/「差別」のもつ摩擦熱/「自由」とは何か/衰弱した自己と微温的自由
教育論――「権威とサービス」は両立するか
道徳教育に昂奮する人びと/戦後教育をめぐる二項対立/「自由」という名のイデオロギー/教師は聖職かシッターか/福澤諭吉の教育論/権威の残り香/権威を引き摺り下ろす社会/手段が目的化したニヒリズム
時代閉塞論――「新しいこと」などあるものか
スローライフ、スキゾ、ノマド/「不確実性」の二側面/石川啄木と時代閉塞/競争原理の都市遊民/性急な理想家/富国の価値観、遊民の熱狂/グローバル時代の鬱屈/百年前から宙づり状態
近代化論――「反知性主義」を批判できるか
「反知性主義」というレッテル/アメリカ的現象の特殊例/契約意識、楽天主義、集団的熱狂/日本の議論はことば遊びか/エマソンから北村透谷へ/信仰なき生命賛歌の限界/宙づりに悩む自己
平和論――「勢力均衡の崩壊」にどう向き合うか
安らぎなき国際関係/『鎖国論』と内向的平和主義/非武装中立の限界/高坂正堯の異様な現実主義/エゴイズム貫徹と自省的倫理/現代にもつうじる三類型/冒険主義への嗅覚を
沖縄問題論――「弱者」への同情は正義なのか
新聞によって異なる「現実」/古くて新しい沖縄問題への論点/吉本隆明の沖縄論/憂国の文学者たちの誤謬/沖縄への本質的激励/戦争体験から掴み出した思想の迫力/言論の大空位時代に
震災論――「自己崩壊の危機」をどう生き抜くか
あの日、福島にて/「躓くこと」と「躊躇うこと」/崩壊と危機対応の問題意識/アメリカ流の適者生存の論理/危機を生き抜くための「文学」/散文的生活における確信/間断なき秩序維持
おわりに――処方箋を焦る社会へ
後序/主要参考文献

書誌情報

読み仮名 イワカンノショウタイ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610667-5
C-CODE 0210
整理番号 667
ジャンル 社会学、ノンフィクション
定価 858円
電子書籍 価格 792円
電子書籍 配信開始日 2016/06/17

蘊蓄倉庫

非常時でも平時の秩序を

 本書の結びに、「人は秩序を取り戻そうとする生き物」という言葉があります。5年前の大震災を思い起こせば、家庭も職場も社会も、大なり小なりその通りでした。戦後日本に大きな影響を与えた政治学者・丸山眞男は、一九一七年のロシア革命が成功したのは、水道や電気、交通など社会インフラが普及していなかったからで、革命であれ戦争や災害であれ、平時を持続させたいという文明人の欲望はもはやとどめようがない、と説いています(片山杜秀『国の死に方』より)。災害のたびに繰り返される被災関連のニュースが、非常時からたちまち平時を基準とした内容になるのも、その一端なのかもしれません。
掲載:2016年5月25日

担当編集者のひとこと

批評の復権

 平和を守れ、安心・安全な社会を――こうしたスローガンに異を唱えるのは難しいものです。しかし問題は、戦争も天災も人間社会から消え去ったことがないという現実です。だからこそ、誰も否定しようのない「正義」を叫ぶのではなく、「できることなら」という前提から、様々な現実とどう向き合えばいいかを考え抜く。それが本書の目的です。
 著者はかつて福島第一原発の事故を受け、避難生活を余儀なくされました。喪失感を抱きながらも、秩序を取り戻そうとする生活と思索から紡ぎ出された8編の論考は、いずれも議論の本質を突く迫力にあふれています。自らの「違和感」に躓きながら、先人の思想をひもとき、時代への処方箋を見出そうとする批評家の登場です。

2016/05/25

著者プロフィール

先崎彰容

センザキ・アキナカ

1975年、東京都生まれ。東京大学文学部倫理学科卒。東北大学大学院文学研究科博士課程を修了、フランス社会科学高等研究院に留学。2024年5月現在、日本大学危機管理学部教授。専門は倫理学、思想史。主な著書に『ナショナリズムの復権』『違和感の正体』『未完の西郷隆盛』『維新と敗戦』『バッシング論』『国家の尊厳』などがある。

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