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日本人と象徴天皇

「NHKスペシャル」取材班/著

792円(税込)

発売日:2017/12/15

  • 新書
  • 電子書籍あり

なぜ「象徴」なのか? 秘蔵資料で物語る戦後70年史。

日本人が今では当たり前の存在として受け入れている「象徴天皇」。それは、「戦犯」と「現人神」の間で揺れ動いていた天皇の存在を、戦後社会の中に正しく位置づけるべく、関係者が苦心して「血肉化」した結果だった。戦後巡幸、欧米歴訪、沖縄への関与、そして続く鎮魂の旅──。これまで明かされなかった秘蔵資料と独自取材によって、二代の天皇と日本社会の関わりを描いた戦後70年史。

目次
まえがき
第1章 象徴天皇はこうして生まれた
親子それぞれの8月15日/天皇処罰を求める米国世論と退位論/天皇・マッカーサー会見で話されたこと/「天皇様もいらねえ」/保管されていた昭和天皇最後の軍服/「現人神」からの脱却/吉田茂が語った憲法制定の裏事情/象徴って何? 揺れる枢密院での議論/女系天皇を巡ってぶつかった日本とGHQ/天皇は訴追せず
第2章 国民との距離を縮めた戦後巡幸
象徴を実体化するムーブメント/戸惑いから熱狂へ/高まるGHQの危機感/巡幸中止と退位論の盛り上がり
第3章 新憲法下の“天皇外交”
「アメリカと同調すべき」と明言/「天皇は、アメリカが沖縄を占領し続けることを希望している」/吉田と天皇の「二重外交」/「象徴」となっても持ち続けた国家元首意識
第4章 新時代の象徴・皇太子のデビュー
新生日本の“象徴”として/日系カナダ人の苦労に耳を傾ける/皇太子のもう一人の家庭教師/改憲論の台頭/アラカンが明治天皇を演じて大ヒット/ミッチーブームで進んだ皇室の大衆化
第5章 冷戦、安全保障、そして沖縄
東京オリンピックの最中に中国が核実験/アジア情勢分析にうかがえるリアリズム/佐藤栄作がアメリカに伝えた「天皇の懸念」/本土復帰の理想と現実/沖縄に並々ならぬ関心を寄せた皇太子夫妻/投げつけられた火炎瓶
第6章 戦争の記憶を背負い続けて
訪欧で突きつけられた苦い記憶/周到に準備された天皇訪米/アジア諸国との関係改善と靖国問題/沖縄「日の丸焼き捨て」事件/果たせなかった沖縄訪問
第7章 そして続く“象徴”の模索
日本国憲法の申し子/尊敬から親しみへ/激変した中国人の対天皇感情/慰霊の旅、そして沖縄/歴史に向き合って
あとがき
参考・引用文献

書誌情報

読み仮名 ニホンジントショウチョウテンノウ 
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610744-3
C-CODE 0221
整理番号 744
ジャンル 歴史・地理
定価 792円
電子書籍 価格 792円
電子書籍 配信開始日 2017/12/22

薀蓄倉庫

ミッチーブームの前触れ

 戦後の皇室大衆化に決定的な役割を果たしたのは、1958年に発表された皇太子と正田美智子さんの婚約(いわゆる「ミッチーブーム」)ですが、実はその前触れとでもいうべき現象が前年に観測されています。映画「明治天皇と日露大戦争」の大ヒットです。この映画では、アラカンこと嵐寛寿郎が明治天皇の役を演じました。戦時中なら、現人神の天皇を演じることなど「不敬罪」になりかねませんが、そのタブー意識が破られたわけです。
 アラカンが明治天皇を演じた映画はその後も「天皇・皇后と日清戦争」「明治大帝と乃木将軍」と続きますが、この「天皇三部作」は、天皇が映画という大衆娯楽の場に登場し、人々もそれを娯楽として消費するという、「皇室大衆化時代」の訪れを告げる契機でもあったのです。

掲載:2017年12月25日

担当編集者のひとこと

「君主」の父、「民主」の子

 本書は、2015年4月に放映され、大きな反響を呼んだNHKスペシャル「戦後70年 ニッポンの肖像─日本人と象徴天皇─」(全2回)を書籍化したものです。放送当時、番組は「戦後70年」という区切りにNHKが製作する大型企画の1本として作られましたが、その後に今上天皇が退位を表明したこともあり、期せずして「昭和と平成の二代の象徴天皇から見た戦後史」となりました。
 
 独自取材と秘蔵資料の渉猟によって描き出された2人の天皇の姿には、彼らの「肉声」が聞こえてくるような臨場感がありますが、編集していて私が特に印象に残ったのが、戦後も「内奏」を要求し、政治家に対してもマッカーサーに対しても自らの政治的意見を伝え続けていた昭和天皇の言動です。
 日米安保体制への支持を表明し、沖縄への米軍駐留を望み、中国の核兵器に懸念を示しつつ、A級戦犯を合祀した後の靖国神社へは足を運ばなくなる。そこに見えるのは、敗戦国として東京裁判を受け入れ、冷戦の現実を理解し、その状況の中での日本の立ち位置を明確に認識している「君主」としての姿です。晩年の好々爺然としたイメージ、政治から超然としていた生物学者のイメージとはだいぶ異なる姿が描かれています。

 一方、今上天皇の関心は別のところにありました。沖縄への並々ならぬ関心、戦争の記憶を背負いながら続ける内外への鎮魂の旅、自然災害の被害者などに寄り添い続ける姿勢。「君主」というより「民主」の中での自身の役割を模索していた様子がはっきりと見えます。

 番組に出演し、本書にもコメントを寄せている保阪正康さんによると、「象徴」という言葉はそもそも、近代の日本語にとってなじみのある言葉ではなかったそうです。日本人は、日本国憲法に「天皇は日本国の象徴である」と規定されたことで、この「象徴」という言葉を使うようになった。その意味で、「象徴」という言葉が先にあったというより、2人の「象徴天皇」の行為によって、象徴という言葉が血肉化されていった、とも言えます。
 もちろん、あえて「なじみのない言葉」を使って天皇の存在を位置づけたところが、戦後体制の一つの肝でもあったわけですが。

 この本はNスペのスタッフ5人の共著ですが、実は元々のNスペの番組を発案したプロデューサーは、NHKを退職された直後の2017年7月に亡くなってしまいました。NHKの大型企画開発センターのエグゼクティブ・プロデューサーだった故・林新さん。ドキュメンタリー制作者として「北極圏」、「ドキュメント太平洋戦争」シリーズ(「責任なき戦場 ビルマ・インパール」他)、「世紀を越えて」などのNHKスペシャルや大型シリーズを担当された方です。

 本書の「あとがき」は、この林さんが病床で口述した言葉を、妻で「新潮ドキュメント賞」を受賞したノンフィクション作家でもある堀川惠子さんが筆記したものです。そこには、当初は「天皇制」を否定していた林さんが、ドキュメンタリー制作者として歴史や事象を掘り起こす中で、次第に天皇制が日本にもたらすメリットと有用性に気づいていった軌跡が簡潔な言葉で記されています。

 私はその「あとがき」を、最初はなんだか分からなかった「象徴天皇」の存在を、日本人が理解し受け入れるようになっていく精神的軌跡の一つの物語として読みました。言ってみれば、本文で語られた戦後日本社会の軌跡を、あとがきで「ギュッ!」と凝縮させて繰り返してみせたような感じになっています。

「あとがき」の最後に、林さんはこう記しています。

「今後、日本が平和国家として世界で生きていけるかは、3代目の象徴天皇に、二人の天皇のような役割がしっかりと果たせるかにかかっています。政治や国民がその足を引っ張るのではなく、支え、ともに歩み、この国の未来を築いていかなくてはならないと今、強く感じてています」

「3代目」の登場が目前の今こそ、読む価値のある本だと信じておりますので、どうぞよろしくお願いします。

2017/12/25

著者プロフィール

「NHKスペシャル」取材班

エヌエイチケイスペシャルシュザイハン

2015年4月に放映されたNHKスペシャル「戦後70年 ニッポンの肖像 ─日本人と象徴天皇─」(全2回)の取材チーム(天野直幸、林新、東野真、細田直樹、松木秀文)。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

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