発達障害と少年犯罪
924円(税込)
発売日:2018/05/17
- 新書
大反響を呼んだギャラクシー賞受賞番組を書籍化。
現代社会のタブーに正面から切り込んだ問題作。
発達障害と犯罪に直接の関係はない。しかし、発達障害をもつ子どもの特性が、彼らを犯罪の世界に引き込んでしまう傾向があることは否めない。そんな負の連鎖を断ち切るためには何が必要なのか。矯正施設、加害者になってしまった少年たち、彼らを支援する精神科医、特別支援教育の現場など、関係者を徹底取材。敢えてタブーに切り込み、「見たくない事実」を正面から見据えて問題解決の方策を提示する。
書誌情報
読み仮名 | ハッタツショウガイトショウネンハンザイ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-610766-5 |
C-CODE | 0236 |
整理番号 | 766 |
ジャンル | 政治・社会 |
定価 | 924円 |
作家自作を語る
薀蓄倉庫
ストーカーは自閉症スペクトラム障害?
本書の著者・田淵俊彦氏は以前にストーカー加害者を取材して本にしたことがありますが、今回の取材を通じ、実はストーカー加害者は「自閉症スペクトラム障害」なのではないか、と強く感じているそうです。自閉症スペクトラム障害の特徴として、特定の何かを集めたがる「コレクション」がありますが、ストーカー加害者は被害者を「僕のコレクションにしておきたかった」と犯行動機を説明するケースがあるそうです。
掲載:2018年5月25日
担当編集者のひとこと
それでも希望はある
本書は、2016年5月15日に放映されて関係者の間で大反響を呼んだNNNドキュメント「障害プラスα~自閉症スペクトラムと少年事件の間に~」の取材を元に構成されたものです。
発達障害と少年犯罪の間には何らかの相関がありそうだ、ということは直感的に気付いている方も多いと思います。でも、下手なことを言ったら炎上しそうだから黙っておくにこしたことはない、とも。こうして発達障害と少年犯罪の関係が、軽々に扱うことのできない「タブー」と化してしまうのはやむを得ないところがあります。
「一般人の理解を超えた少年犯罪」ということでは、1997年の神戸連続児童殺傷事件が嚆矢でしょう。加害者が14歳の少年だったこと、彼が奇妙な言葉使いの「犯行声明」を記していたことなどから、当時は「心の闇」という言葉が使われましたが、いま事件を振り返ると、犯人の「少年A」の言動には発達障害(その中でも特に「自閉症スペクトラム障害」)の特性と思われるものがはっきりとうかがえます。
同級生を殺した佐世保の女子高生や、名古屋大学のタリウム女子大生も同様です。言い換えると、一般人には理解できない犯罪の多くのケースで、加害者に発達障害が疑われる、と言えるわけです。
こう記すと、「発達障害=犯罪者のレッテルを貼っているのか」との批判を呼びそうですが、もちろんそうではありません。発達障害と犯罪に、直接の関係はない。
しかし、発達障害ゆえの特性──コミュニケーションのとりにくさ、こだわりの強さ、他人の気持ちへの理解の乏しさなど──が理由で、本人が虐待を受けたり、生きにくさを感じたり、孤立してしまったり、誤解を受けたりということが起こると、それが結果的に犯罪(加害者にせよ被害者にせよ)につながってしまう、という傾向は否めないのです。
本書はそうした事実関係を冷静に見据えつつ、実際に加害者となってしまった少年たち、矯正施設や学校の関係者、トラウマ治療の現場、発達障害をもつ子どもたちを支える精神科医などに取材し、事態を改善させる方策を探ったものです。
見えてくるのは、発達障害をもつ子どもたちがしばしば放置されたままになっていること、同じく発達障害をもつ親などからの「虐待の連鎖」ともいうべき事態に身を置かれていること、その意味でたまたま加害者になってしまった子どもたちも実際には「被害者」の側面が強いこと、などです。
一筋縄ではいかない重い記述がいろいろとあるのですが、ひとつ希望に思えたのが、本書の中で紹介されている「コグトレ」という教育法です。
「コグトレ」は三重県の宮川医療少年院に勤めておられた精神科医の宮口幸治先生が開発したもので、問題を抱えた少年たちの認知機能を高めるための技法です。
「それは認知行動療法とどこが違うのか」と思われるかも知れませんが、認知行動療法は、「認知のゆがみ」を修正するもの。つまり、「認知能力は備わっていること」が前提になります。
これに対し「コグトレ」は、もともと認知能力の乏しい子どもたちに「認知能力を備えさせる」ために行うもの。つまり、放置されたり虐待されたりしていた子どもには、そもそもの認知能力が乏しいので、認知能力の向上によって、彼らをもう一度、社会で生きていけるようにしよう、という試みなのです。なかなか大変で苦労の多い試みではあるのですが、その効果は大きく、導入した矯正施設や学校などでは結果が出始めているのは大きな希望だと感じました。
実は、ここにも不思議なご縁があったことに、本書の編集の過程で気付きました。宮川医療少年院をお辞めになった宮口先生は、いま立命館大学産業社会学部の教授になっています。なぜ立命館にいらっしゃるかと言えば、『反省させると犯罪者になります』『凶悪犯罪者こそ更生します』『いい子に育てると犯罪者になります』の新潮新書「犯罪者三部作」の著者の岡本茂樹・立命館大学産業社会学部教授が2015年にお亡くなりになったからです。つまり、宮口先生は岡本先生の「後釜」というわけです。
「犯罪者に反省を求めない」という逆転の発想で、彼らを真の反省に導いていた岡本先生が亡くなって、認知機能の乏しさゆえに犯罪と結びついてしまった子どもたちを救済しようと奮闘している宮口先生がその後を受け継いでいることに、「志の連鎖」のようなものを感じます。
著者の1人の田淵俊彦さんは、以前にやはりNNNドキュメントの番組で「ストーカー加害者」のことを取り上げ、それを本にしているのですが、実はストーカー加害者の特性と思考法には、「自閉症スペクトラム障害」の特性が濃厚だと感じているそうです。
なお、これは余談ですが、田淵俊彦さんはNNNドキュメントを放映している日テレの社員ではありません。実はテレビ東京の社員で、2018年5月現在はテレ東でドラマのプロデューサーをされています。
NNNドキュメントの番組を作ったのは、テレ東が100%出資している番組制作会社プロテックスのディレクターとしてで、日テレの番組制作をテレ東系の番組制作会社が請け負っていた、という構図です。テレビ業界にも、会社を超えたそんな協力関係があることを、今回の仕事で初めて知りました。
本書では極力丁寧な記述・説明を心がけましたが、テーマがテーマだけに激烈な反応もあるかも知れません。どのような読まれ方をするのか、楽しみでもあり、怖くもありますが、機会があればぜひ手に取ってみてください。
2018/05/25
著者プロフィール
田淵俊彦
タブチ・トシヒコ
1964(昭和39)年生まれ。ジャーナリスト、テレビプロデューサー。慶應義塾大学法学部卒業後、テレビ東京に入社。
NNNドキュメント取材班
エヌエヌエヌドキュメントシュザイハン
1970年1月にスタートした報道ドキュメンタリー番組。日本テレビでは「3分クッキング」「笑点」に続く3番目の長寿番組。