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バッシング論

先崎彰容/著

858円(税込)

発売日:2019/06/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

日本人はなぜかくも余裕を失ったのか? 「謝罪と反省の国」をめぐる本格社会批評。

人間社会を善悪で二分したがる知識人、右も左も議論の底が抜け落ちた言論空間、異論を排除するだけの飽くなき他者否定、情報化社会への適応を叫ぶ教育論議――いったいなぜ、日本人はこれほど余裕を失ってしまったのか。くり返されるバッシングに浮かびあがる社会の構造変化をとらえ、異様なまでに「マジメ」な人たちであふれた「美しい国」の病根をえぐりだす。

目次
まえがき――「マジメ」で「美しい」人々
一 「善意」がテロを呼ぶ――バッシング論
過熱するバッシングへの危惧/絶叫と侮辱発言の同質性/権力への緊張感の喪失/「真」「善」「美」に憧れたテロリスト/大正時代と現代の類似性/三島由紀夫の「美と政治」/弾力性なき「善意」の暗い影
二 「辞書」を失った現代人――情報化社会論
イメージ優先の教育論議/文科相通知で議論が沸騰/政府方針に資する教育政策/「自明の前提」とされる人間像/「消費」中心の情報化社会への移行/「辞書的基底」の喪失/個性を奪いとるグローバル教育/小林秀雄の歴史教育論
三 「大きな物語」は危うい――ロマン主義論
独善者と自己喪失者の同居/必要なのは「気骨」と「大きな物語」なのか/マルクス主義からロマン主義へ/不安定で「宙づり」の自分自身/ロマン主義化する現代日本/カリスマ登場の時代要因/丸山眞男が注目した「天道」
四 「流行」が国家を潰す――西郷隆盛論
小英雄から大英雄への反転/林真理子『西郷どん!』の着眼/江藤淳が西郷にみた「民族感情」/佐藤一斎「天人合一」思想のエネルギー/植木枝盛が陥った自己神格化/「鉄の国」か「農の国」か
五 「おことば」が象徴したもの――ポピュリズム論
生前退位報道への三種の反応/和辻哲郎の象徴天皇論/「おことば」が象徴する日本人の窮地/左右両側とも捩れた論理/民主主義を濫用するポピュリズム/饒舌だが心の貧しい社会
六 「言論空間」が荒廃してゆく――保守主義論
『新潮45』休刊騒動の論点/「生産性」への身体的嫌悪感/「他者」なきモノローグ/福田恆存が定義した「保守」/狂騒の言論空間への失望
七 「フクシマ」と「オキナワ」は同じではない――民族感情論
沖縄をめぐる対照的な二冊/坂口安吾が拒絶した「正義」/善意が悪を生むこともある/東北人は寡黙で忍耐強いから?/著しく違う両県の地理的要因/フクシマに民族感情はあり得ない/弱さを自覚してこそ「人間」通
八 「否定」という病が議論を殺す――国家像論
一四〇年近く前とおなじ「批判」の光景/「否定」という心情の裏側/矮小化する原発再稼動問題/憲法改正問題で「議論」は成立するか
あとがき――歎息の時代に

書誌情報

読み仮名 バッシングロン
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 208ページ
ISBN 978-4-10-610816-7
C-CODE 0236
整理番号 816
ジャンル 政治・社会
定価 858円
電子書籍 価格 814円
電子書籍 配信開始日 2019/06/21

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情報化社会への過剰適応によって揺らぐ「正しさ」

 本書の中でくり返し述べられているように、日本社会の構造的な問題は、現代人の「辞書的基底の喪失」にあるというのが著者の見立てです。近代言語学の父と呼ばれる哲学者ソシュールは、世界は言葉によって分節することで認識されると言いましたが、ある言葉に対して各人がバラバラの意味合いをもって現実世界を見ているとしたら、この世は「正しさ」をめぐって常に不安定になり、自己像もひどく動揺せざるを得なくなります。いわば、底の抜けた世の中、というわけです。

掲載:2019年6月25日

著者プロフィール

先崎彰容

センザキ・アキナカ

1975(昭和50)年東京都生まれ。東京大学文学部倫理学科卒。東北大学大学院博士課程を修了、フランス社会科学高等研究院に留学。2021年5月現在、日本大学危機管理学部教授。専門は日本思想史。著書に『ナショナリズムの復権』『違和感の正体』『未完の西郷隆盛』『バッシング論』など。

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