
国家を食べる
858円(税込)
発売日:2019/07/13
- 新書
- 電子書籍あり
戦場で、紛争地で、食べたのは「国家」と「文明」だった。伝説のジャーナリストによる極限のノンフィクション。
【メニュー】――イラク戦争の取材中に食べた世界一うまい羊肉。チグリス川の鯉の塩焼き。パパイヤだけだった内戦下ソマリアの昼食。カラシニコフ銃の開発者の冷凍ピロシキ――中東・アフリカの戦場や紛争地帯、アフガニスタン、チェルノブイリなど、世界中を駆け巡ったジャーナリストが口にした食の数々は、はからずも「国家」の本質を示していた。実践的文明論の最高峰。
書誌情報
読み仮名 | コッカヲタベル |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 考える人から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610823-5 |
C-CODE | 0226 |
整理番号 | 823 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 858円 |
電子書籍 価格 | 858円 |
電子書籍 配信開始日 | 2019/07/26 |
蘊蓄倉庫
昼食はパパイヤだけです
1991年に政府が倒れ、無政府状態が続くソマリア。2003年に現地の首都・モガディシオに入った著者が泊まったホテルは高い塀と有刺鉄線に囲まれ、鉄の門扉、玄関先には機関銃、自動小銃を持ったガードマンが5、6人いたという。部屋には「ガードマンの付き添いなしで門の外に出ないでください」という張り紙があり、実際に門の外で車を降りた英BBC放送の女性記者は、背後から撃たれ即死した。
街にはレストランなどあろうはずもなく、著者は三食とも、その牢獄のようなホテルで食べるはめになる。食料も途絶えがちで、ある時から昼食はパパイヤだけになった。
だが、かつてモガディシオは美しい街で、イタリア風の白壁、赤屋根の建物が並び、海を見下ろす高台には吹き抜けのホールを持つホテルもあったという。2003年に著者がそのあたりを訪れた際、ホテルは柱を残すのみで、仕切っていた親切な女主人の姿もなく、街は廃墟と化していた。
政府がないから、警察も学校もない。現在まで続く無政府状態の結果、ソマリアでは34歳以下の人たちは、誰一人として学校に行ったことがない。
掲載:2019年7月25日
担当編集者のひとこと
「国家」とは何だろう
朝日新聞に「松本仁一」記者の署名記事がないか、毎朝探していたのは、松本さんが中東・アフリカ総局長だった当時のこと。後にまとめられた『アフリカを食べる』『カラシニコフ』といった著書を読み、この人の書いたものをもっと読みたい!と、純粋に一読者として思いました。そして松本さんのどの原稿からも通奏低音として響いてきたのは、「『国家』とは何だろう」という問いでした。
アフリカで、中東で、松本さんが何を食べて、何を見てきたのか。そしてそれは今、どんな意味を持つのか。
異邦人のジャーナリストであるはずの松本さんの視線は、しかし現地の人以上にその国を、時として国家の体をなさないその形を、的確に捉えています。どの章を読んでも「『国家』とは何だろう」という問いは、「人間とは何か」に他ならない、そう思えてなりません。
2019/07/25
著者プロフィール
松本仁一
マツモト・ジンイチ
1942(昭和17)年、長野県生まれ。東京大学法学部卒業。1968年朝日新聞入社。中東アフリカ総局長、編集委員等歴任。1994年、ボーン・上田記念国際記者賞受賞。2007年退社。『アフリカを食べる』『カラシニコフ』『テロリストの軌跡』『兵隊先生』等、著書多数。