ドル・人民元・リブラ―通貨でわかる世界経済―
792円(税込)
発売日:2019/11/15
- 新書
- 電子書籍あり
円はなぜ買われるの? リブラは実現するの? ドルvs.人民元の攻防から仮想通貨の最新事情まで。
一言でいえばこうだ。ドル=経済をカジノ化させた主犯。ユーロ=期待を裏切り存在感は限定的。人民元=昇竜に立ちはだかる国際化の壁。リブラ=可能性と危険性を孕む「夢の通貨」。円=黄昏を越え輝きを取り戻せるか。物の取引のツールだったはずのお金(通貨)が、逆に経済全体を動かすようになってしまった現在。主役としての通貨を理解することで、一見複雑怪奇な世界経済の構造が、すっきりわかるようになる。
「カジノ資本主義」の不安定性
「物の世界」では落ち目のアメリカ
基軸通貨の持つ「慣性」
ドルが世界に君臨する不幸
基軸通貨国が得る膨大な利益
とてつもない借金なのに利払いが少ない理由
「法外な特権」はいつまで続くか
愚の骨頂! トランプ大統領の通商政策
過剰消費体質を改善できるかが鍵
正道を行かずしてアメリカ経済の再生は無い
為替リスク回避など大きなメリット
統合のための3つの条件とは
日本経済が「円」で運営できている理由
引き金はギリシャの財政不安
危機の根本的原因は参加基準の甘さ
働き者の国とそうでない者の国
貿易・経常収支の赤字は再び財政破綻を招きやすい
加盟国の離脱なくユーロを維持するためには
財政の健全化と共通予算
ユーロの安定的な維持に向けて
基軸通貨への名乗りを上げた人民元
一躍、世界第3位の国際通貨に
人民元はどこまで国際化したのか
「いびつな国際化」の限界を露呈
人民元の「真の国際化」に向けて
アジアの貿易構造と為替政策に注目
円はなぜアジアの基軸通貨になれなかったのか
自助努力が徒になった円
人民元台頭で追い込まれる日本
不条理な円高に翻弄され続けてきた日本経済
アベノミクスはアホノミクスなのか
機動的な財政出動は一点集中主義で
MMTのリスクは看過できない
世界で戦える産業の育成を
お金とは「買い物で支払いに使われるもの」
インターネット上で使える新しいお金
ビットコインの仕組み
銀行を通さず個々人が直接やり取り
「夢の通貨」の大きな欠陥とは
「物差し」なのに目盛りが伸縮
「お金」の役割を果たせないビットコイン
今のところ「投機性の強い金融資産」
電子化、デジタル化、キャッシュレス化
政府がデジタル通貨を発行すれば
リブラには準備資産の裏付けがある
「国際通貨」にもなりうるが
お金の国家管理に対する挑戦
安全性は確保できるか
主要参考文献
書誌情報
読み仮名 | ドルジンミンゲンリブラツウカデワカルセカイケイザイ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610837-2 |
C-CODE | 0233 |
整理番号 | 837 |
ジャンル | ビジネス・経済 |
定価 | 792円 |
電子書籍 価格 | 792円 |
電子書籍 配信開始日 | 2019/11/22 |
インタビュー/対談/エッセイ
通貨の未来をどう形作るか
誰しもが、お金は欲しいと思うだろう。お金があれば、好きな物が買えるし、大概の欲望は満たすことができるからだ。とはいえ、お金そのもので満足(効用)を覚えているわけではなく、それで買うことができる物やサービスによってである。あくまでも、お金の本来の役割はそれらの取引をスムーズにすることにあった。経済を物とお金という二面で見れば、お金は経済の潤滑油であり、脇役といえよう。
ところが、そのお金が今や主役に躍り出た感がある。そのお金(商業資本)が新たな産業を育成すべく、合理的に投資されていくのならば望ましい。しかし、世界的に金余りの今日では、お金がお金を生む投機にまわされることが多くなっており、経済がカジノ化し、不安定化してしまっている。そうした今日の世界経済の動きは、主要なお金(通貨)を見ずして語ることができないといっても過言ではない。
物の世界では地位が後退しながら、お金の世界では覇権を握り続けるアメリカ。それ故に、基軸通貨国として法外な特権を享受してきたが、そのツケともいうべき貿易収支赤字、対外債務の累増が無視できない状況になってきている。ようやく、トランプ政権は対応に乗り出すも、経済音痴の大統領の通商政策は的外れ。正道を行く政策によって、ドルを安定化することを強く望みたい。
世界経済の安定化のためには、ドルに対抗できる基軸通貨が不可欠である。そうした期待を担って登場したユーロであるが、経済格差の大きい国まで仲間に加えたため、危機まで引き起こしてしまった。
一応、危機は収まりその耐震性は高まったものの、本質的問題を残したままのユーロに、あまり明るい未来を描くことはできない。となると、アジアで脱ドルが進み、新しい通貨圏が誕生するか否かが重要となる。もはや、黄昏の安定通貨といわれる円の復活は望みがたく、人民元がどこまで台頭するかがキーポイントとなろう。
こうしてドル、ユーロ、人民元が鼎立し、一定の役割を分担する世界。そんなお金(通貨)の未来を描いてみたが、そこへ突如仮想通貨(暗号資産)が割り込んできた感がある。確かに、新しい機能を備えているものの、ビットコインは価値が不安定でお金としては決定的欠陥がある。リブラはそれを克服したといえるが、そもそも民間に通貨を発行させて良いのかという通貨主権にかかわる大問題を残したままであり、安易に容認することはできない。
各国がデジタル通貨を発行することも含めて、お金(通貨)の未来をどう形作るかが今まさに問われているといえる。その議論に、本書が一石を投じることができれば望外の喜びである。
(なかじょう・せいいち 中央大学名誉教授)
波 2019年12月号より
薀蓄倉庫
通貨は言語と似ている
私たちはなぜ英語を勉強するのか? それはおそらく英語が一番世界中の人々と意思疎通できるからでしょう。そう思って、多くの人が英語を学ぶとますます英語は世界中で通用するようになります。これと同じことが通貨の世界でも起こっています。第2次大戦後、ドルが通貨ナンバーワンの座に就くと、それは多くの人に受け取ってもらえるし、安全や利便性も高いため、世界の多くの取引で使用されることになりました。そうするとますますドルは便利なお金になり、アメリカはお金の世界で覇権を握り続けることになります。これが、基軸通貨の持つ「慣性」と呼ばれるものです。この「慣性」により、基軸通貨国であるアメリカは、膨大な利益を手にしています。詳しくは本書第1章「ドル――世界に君臨し続ける旨み」をお読みください。
掲載:2019年11月25日
担当編集者のひとこと
「通貨の本質」を基礎からわかりやすく
筆者の中條さんは10年以上の商社勤務ののちに、この春まで35年間の学究生活を送りました。その間、理論と現実の乖離が大きい国際金融の実態や面白さを大学で学生相手に伝えてきましたが、それらの経験をもとに、基礎からわかりやすく、書物を通じてより多くの人に広げようとしたのが本書です。
お金(通貨)とは、そもそも物を円滑に取引するためのツールであり、経済において主役はモノ、お金は脇役のはずでした。ところが、脇役であるはずの通貨が本来の必要量をはるかに超えて出回り、主役になってしまったのが現在の世界経済です。
とすれば、現在の世界経済の動きを理解するためには、通貨とは何かを理解しなければなりません。世界的な基軸通貨であるドル、その対抗馬になろうとしたユーロ、アジアでの基軸通貨を目指す人民元――それぞれの通貨の現状と問題点を分析・解説し、円の可能性も論じます。
さらに2019年前半から大きな話題となっている新たな仮想通貨・リブラは実現するのか。なぜ世界中多くの金融当局はリブラに反発するのか。どんな根本的な問題を抱えているのか。しばらく前にもてはやされた仮想通貨・ビットコインにも触れながら、わかりやすく説明します。
一見複雑怪奇に見える世界経済が、この1冊を読むことでぐっと身近なものになるはずです。ぜひご一読ください。
2019/11/25
著者プロフィール
中條誠一
ナカジョウ・セイイチ
1949年新潟県生まれ。中央大学名誉教授。中央大学大学院経済学研究科修士課程修了。約11年間の商社(日商岩井)勤務を経て、大阪市立大学助教授・教授。1996年から2019年まで中央大学教授。商学博士(大阪市立大学)。『人民元は覇権を握るか』など著書多数。