「人生百年」という不幸
858円(税込)
発売日:2020/01/17
- 新書
- 電子書籍あり
長生きだけが、人生か。「死にゆく患者」を常に診(み)続けてきた臨床医による遠慮一切抜きの現代医療論。
人は必ず老いて、寿命が尽きて死ぬ。医者も患者も家族も、国家も、この当然の真理を直視できずに目を背ける。「人生百年時代」などと浮かれているが、この長寿社会は人々に幸福をもたらしているのか。長生きのみを目的にする医療にはいかなる歪みが生じるか。癌患者にとって本当のハッピーエンドとは何か。臨床医として常に「死にゆく患者」と共にいる著者が、遠慮忖度なく現代医療の抱える根本的な矛盾を衝く。
2 人工呼吸器につなげるのか
3 ピンピンコロリは実に難しい
4 内なる無法者としての癌
5 「人は死なない」を前提にしてしまった現代医療
6 ホスピスにて
7 何も考えなければ何も始まらない
8 事前の意思はコロコロ変わる
9 死を望む患者との対話
10 「生きねばならない」という
12 癌の心配しながら煙草を吸っても
13 素人感覚のままでいると迷惑だろう
14 最期に何をしたいですか
15 代替医療で得られるものは
16 贈り物はありがたく受け取るべし
17 それでも贈り物は断るな
18 「神の手」幻想が消えない理由
19 敵は病気かそれとも……
20 看護大学を卒業する諸君へ
21 日本人は主治医を求める
22 財前五郎は「主治医」だったのか
23 何をそんなに怖がるの
24 「私が病気をこじらせたのですね」
26 救命艇に乗るべきは誰なのか
27 邪悪なものは強い
28 医者の無駄遣いは止まらない
29 何のために長生きするのだろう
30 他人の金なら気前良く
31 気前のいい人は怪しい
33 引継症候群
34 医者の必修科目は何か
35 信頼と理屈
36 順天堂不正入試の科学的考察
37 どこまで「配慮」すればいいのだ
38 当たり前が当たり前でなくなると
39 救急隊の苦労を思う
40 人が死ぬのはそんなに嫌か
書誌情報
読み仮名 | ジンセイヒャクネントイウフコウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | 週刊新潮から生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610844-0 |
C-CODE | 0247 |
整理番号 | 844 |
ジャンル | 科学 |
定価 | 858円 |
電子書籍 価格 | 858円 |
電子書籍 配信開始日 | 2020/01/24 |
薀蓄倉庫
患者さんからの贈り物をどうするのか問題
どの世界もコンプライアンスが厳しくなって、病院では「患者さんからの贈り物をもらうことは厳禁」となっています。かなり厳しくルール化されているようで、実習の場で、患者さんからもらった飴を口にした看護師さんが教官にこっぴどく怒られた――そんなエピソードが『「人生百年」という不幸』(里見清一・著)では紹介されています。飴玉を断られたら患者さんは傷つくかもしれないが、それでも決まりは決まりだ、というのです。この風潮に著者は真っ向から異を唱えていますが、業界内では少数派のようです。実際のところ「贈り物問題」がどうなっているのか、詳しくは本書で。
掲載:2020年1月24日
担当編集者のひとこと
遠慮一切ぬきの現代医療論
業界内では常識であっても、外部にはなかなか漏れない話というのはあります。それはある時には暴露という形で、また別の時には本音という形でオモテに出るわけです。
出版業界においても、たぶんいろいろあるのでしょう。
「あんなに立派なことを言っているあの方は、実はああいう人で……」
といった話は噂レベルでは耳にします。しかし世間が狭いのでよく知りません、ということにしないと何となくまずい気がします。
『「人生百年」という不幸』は、現役の臨床医である著者が、気まずいとかそういう遠慮をしないで、思うところを自由に述べた医療論です。だからここで書かれているのは、あまり表に出てこない話、意見、表現です。「死を見つめよう」くらいのことはよく聞くのですが、「『生きねばならない』という偏見(バイアス)」という表現はあまり目にしないのではないでしょうか。本書の締めくくりの項のタイトルは「人が死ぬのはそんなに嫌か」です。
しかし、ここには普段は外に漏れないお医者さんの本音が詰まっています。常に死にゆく患者と共にいる著者の思考にはハッとさせられることが多々あるはずです。
美辞麗句に飾られたようなオモテの言論にちょっとでも疑問を感じたことのある方はぜひ手に取ってみてください。
2020/01/24
著者プロフィール
里見清一
サトミ・セイイチ
本名・國頭英夫。1961(昭和36)年鳥取県生まれ。1986年東京大学医学部卒業。国立がんセンター中央病院内科などを経て日本赤十字社医療センター化学療法科部長。杏林大学客員教授。著書に『死にゆく患者(ひと)と、どう話すか』『医学の勝利が国家を滅ぼす』『医師の一分』など。