歴史の教訓―「失敗の本質」と国家戦略―
836円(税込)
発売日:2020/05/18
- 新書
- 電子書籍あり
「統帥権の独立」という愚策を生んだのは議会だった。博覧強記の元外交官が鮮やかに描き出した近代日本の栄光と挫折。
急速な近代化を成し遂げ、大国ロシアも打ち破った戦前の日本が決定的に誤ったのは、「統帥権の独立」が政争の道具として登場した時だ。逆に言えば、政治と軍事が国家最高レベルで統合されていない限り、日本は同じ過ちを繰り返すかも知れない――。「官邸外交」の理論的主柱として知られた元外交官が、近代日本の来歴を独自の視点で振り返り、これからの国家戦略の全貌を示す。
書誌情報
読み仮名 | レキシノキョウクンシッパイノホンシツトコッカセンリャク |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610862-4 |
C-CODE | 0221 |
整理番号 | 862 |
ジャンル | 日本史 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2020/05/22 |
薀蓄倉庫
東条英機も認めていた「統帥権の独立」の暴走
太平洋戦争開戦当時の総理であり、陸軍大事と参謀総長も兼務していた東条英機は、昭和史の中では「悪役」と言える人物です。しかし、それほどの権力を手中にしていた東条でも、当時の日本軍を組み伏せることはできませんでした。
その原因が、軍部の独走を許してしまう「統帥権の独立」という仕組みにあったことに、東条自身もじゅうぶん意識的だったようです。巣鴨プリズンで絞首刑になる前、夫人から差し入れられた土井晩翠詩集の余白には、その旨を認める無念のメモがびっしりと書き込まれていたといいます。
掲載:2020年5月25日
担当編集者のひとこと
「統帥権の独立」という愚策を生んだのは議会だった。
本書の著者である兼原信克氏は、「官邸外交」の理論的主柱として知る人ぞ知る存在だった元外交官です。
第二次安倍政権は、2013年の発足当初から「地球儀を俯瞰する外交」を標榜し、2014年には国家安全保障局を発足させ、2015年には平和安全法制(いわゆる安保法制)を成立させて、集団的自衛権の部分的な行使容認に道を拓きました。
こうした政策は、反対する政治勢力からは「戦争への道を拓く」「国際社会での理解が得られない」などと評されました。しかし、政権発足当初から内閣官房副長官補を務め、2014年からは国家安全保障局次長も兼務するなど一貫して内閣の要職にあったた兼原氏は、むしろ「政治と軍事が国家最高レベルで統合されていないことこそが日本の問題であった」と言います。
戦前の日本が決定的に道を誤ったのは、「統帥権の干犯」という議論が政争の道具として「議会から出てきた」ことです。これによって「統帥権の独立」に誰もが反対できない構図ができあがり、結果的に軍部の独走が許されることになってしまいました。その歴史の教訓を踏まえれば、政治と軍事は国家最高レベルで統合しておくことが望ましい。つまり、「戦前の反省に基づいて」創設された組織こそが国家安全保障会議なのです。
今回のコロナ禍でも見られたように、強硬な政策を求める意見というのは政権内部よりもむしろ民間から出てきます。そうした世論も汲みながら、軍事力を含めた政策手段を含めてどう国益の実現につなげていくかは、まさに政治の役割です。
本書では、歴史通の外交官としても知られた兼原氏が、独自の視点で近代日本の歴史を振り返り、そこから教訓を引き出しつつ、これからの日本の国家戦略を構想しています。実際の政策を担った官僚による「現在と地続きの、明日を拓くための歴史」の叙述には、新鮮な手応えと発見があります。ぜひご一読頂ければ幸いです。
2020/05/25
著者プロフィール
兼原信克
カネハラ・ノブカツ
1959年山口県生まれ。同志社大学特別客員教授、笹川平和財団常務理事。東京大学法学部卒業後、1981年に外務省入省。フランス国立行政学院(ENA)で研修の後、ブリュッセル、ニューヨーク、ワシントン、ソウルなどで在外勤務。2012年、外務省国際法局長から内閣官房副長官補(外政担当)に転じる。2014年から新設の国家安全保障局次長も兼務。2019年に退官。著書に『歴史の教訓』『日本人のための安全保障入門』など。