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歴史の教訓―「失敗の本質」と国家戦略―

兼原信克/著

836円(税込)

発売日:2020/05/18

書誌情報

読み仮名 レキシノキョウクンシッパイノホンシツトコッカセンリャク
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 223ページ
ISBN 978-4-10-610862-4
C-CODE 0221
整理番号 862
定価 836円
電子書籍 価格 836円
電子書籍 配信開始日 2020/05/22

「統帥権の独立」という愚策を生んだのは議会だった。博覧強記の元外交官が鮮やかに描き出した近代日本の栄光と挫折。

急速な近代化を成し遂げ、大国ロシアも打ち破った戦前の日本が決定的に誤ったのは、「統帥権の独立」が政争の道具として登場した時だ。逆に言えば、政治と軍事が国家最高レベルで統合されていない限り、日本は同じ過ちを繰り返すかも知れない――。「官邸外交」の理論的主柱として知られた元外交官が、近代日本の来歴を独自の視点で振り返り、これからの国家戦略の全貌を示す。

目次
はじめに
第一部 世界史の中の近代日本
第一章 歴史を見る視座
歴史とは何か/私たちは、どこに立っているのか/日本は何を間違えたのか/普遍的価値観を担う日本
第二章 近代日本外交の黎明期
地球的規模に拡大した西欧文明/西欧文明の源流は、ゲルマン系欧州人の精神的覚醒にある/奴隷貿易とカリブ海植民帝国/産業革命とアジア諸王朝の植民地転落/フランス革命とアメリカ独立革命/ナポレオン軍と長州の奇兵隊/明治維新の世界史的意義/日本にとって朝鮮半島とは何か/伊藤博文の戦争指導、陸奥宗光の外交手腕/日露戦争当時の国際情勢/日英同盟の締結と日露戦争/日本の朝鮮統治を検証する/大陸経営路線が導いた日本の破滅/特筆すべき「第一次国防方針」/劣化していった帝国国防方針
第三章 対華二十一ヶ条要求、日英同盟消滅、統帥権独立
血を流した海軍、高みの見物を決め込んだ陸軍/対華二十一ヶ条要求という愚策/中国「抗日建国」神話の原点/ロシア革命の衝撃/全体主義の三つのパターン/日英同盟の消滅がもたらしたもの/日本人にはしっくりこなかった米国の新思考外交/民族自決と人種差別撤廃決議案/日本憲政史上、最大の失敗
第四章 国際協調の終焉と大東亜戦争
反動と混乱の一九三〇年代/満洲事変は「下策中の下策」/上海事変と日中戦争の勃発/なぜ日本はあれほどヒトラーに入れあげたのか/独ソ不可侵条約でハシゴを外された日本/北部仏印進駐から三国同盟へ/松岡外相、ヒトラーに振り回される/恐るべき国際感覚の欠如/もはや消えていた「臥薪嘗胆」の選択肢/開戦阻止の御優諚と東条首相の苦悩/戦術的に大成功、戦略的に大失敗した真珠湾攻撃/何故、誰も戦争を止められなかったのか/最後までバラバラだった帝国陸海軍/重光葵外相と大東亜会議/鈴木貫太郎首相と阿南惟幾陸相
第五章 民族自決、人種差別撤廃、共産主義の終焉
戦後国際秩序の原初形態/制度化された平和/自衛権の行使要件が真逆のドイツと日本/核兵器の登場と不拡散体制/ガンジーの衝撃/インドネシア独立戦争を戦った日本軍人/キング牧師の公民権運動と人種差別制度撤廃/米中国交正常化と戦略枠組みの変化/共産主義の終焉/二十世紀から掬い取るべき教訓は何か
第二部 日本の外交戦略を考える
第六章 普遍的価値観と自由主義的国際秩序
銃、金、言葉/二十世紀の人類を突き動かしたもの/違う名前で呼ばれている「同じもの」/自由と民主主義/原理的個人主義から生れる妥協の民主政治
第七章 「価値の日本外交」戦略を構想する
国益とは何か/「なんちゃって自由圏」から本物の自由主義的秩序へ/最大の問題は中国/普遍的価値観の台頭が読めなかった近代日本/日本の価値観とその普遍性/「優しさ」と「温かな心」/「法の支配」の伝統/甦るアジアの連帯/海洋国家戦略という選択肢/海運に依存している国がなすべきこと/投資国家に変貌した日本/中国の一帯一路と日本のインフラ支援/結語 二十一世紀の日本の役割
おわりに

薀蓄倉庫

東条英機も認めていた「統帥権の独立」の暴走

 太平洋戦争開戦当時の総理であり、陸軍大事と参謀総長も兼務していた東条英機は、昭和史の中では「悪役」と言える人物です。しかし、それほどの権力を手中にしていた東条でも、当時の日本軍を組み伏せることはできませんでした。
 その原因が、軍部の独走を許してしまう「統帥権の独立」という仕組みにあったことに、東条自身もじゅうぶん意識的だったようです。巣鴨プリズンで絞首刑になる前、夫人から差し入れられた土井晩翠詩集の余白には、その旨を認める無念のメモがびっしりと書き込まれていたといいます。

掲載:2020年5月25日

担当編集者のひとこと

「統帥権の独立」という愚策を生んだのは議会だった。

 本書の著者である兼原信克氏は、「官邸外交」の理論的主柱として知る人ぞ知る存在だった元外交官です。

 第二次安倍政権は、2013年の発足当初から「地球儀を俯瞰する外交」を標榜し、2014年には国家安全保障局を発足させ、2015年には平和安全法制(いわゆる安保法制)を成立させて、集団的自衛権の部分的な行使容認に道を拓きました。
 こうした政策は、反対する政治勢力からは「戦争への道を拓く」「国際社会での理解が得られない」などと評されました。しかし、政権発足当初から内閣官房副長官補を務め、2014年からは国家安全保障局次長も兼務するなど一貫して内閣の要職にあったた兼原氏は、むしろ「政治と軍事が国家最高レベルで統合されていないことこそが日本の問題であった」と言います。
 戦前の日本が決定的に道を誤ったのは、「統帥権の干犯」という議論が政争の道具として「議会から出てきた」ことです。これによって「統帥権の独立」に誰もが反対できない構図ができあがり、結果的に軍部の独走が許されることになってしまいました。その歴史の教訓を踏まえれば、政治と軍事は国家最高レベルで統合しておくことが望ましい。つまり、「戦前の反省に基づいて」創設された組織こそが国家安全保障会議なのです。
 今回のコロナ禍でも見られたように、強硬な政策を求める意見というのは政権内部よりもむしろ民間から出てきます。そうした世論も汲みながら、軍事力を含めた政策手段を含めてどう国益の実現につなげていくかは、まさに政治の役割です。

 本書では、歴史通の外交官としても知られた兼原氏が、独自の視点で近代日本の歴史を振り返り、そこから教訓を引き出しつつ、これからの日本の国家戦略を構想しています。実際の政策を担った官僚による「現在と地続きの、明日を拓くための歴史」の叙述には、新鮮な手応えと発見があります。ぜひご一読頂ければ幸いです。

2020/05/25

著者プロフィール

兼原信克

カネハラ・ノブカツ

1959(昭和34)年山口県生まれ。同志社大学特別客員教授。1981年に東大法学部を卒業し、外務省に入省。外務省国際法局長を経て、2012年に内閣官房副長官補に就任。2014年より新設の国家安全保障局次長を兼務。2019年に退官。

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