検閲官―発見されたGHQ名簿―
880円(税込)
発売日:2021/02/17
- 新書
- 電子書籍あり
日本人エリートたちは何をしたのか。決定的第一級史料をもとにした戦後裏面史。
敗戦後の日本では、手紙、電話、雑誌、映画まであらゆる言論がGHQによって検閲された。その職を担ったのは、英語を解する日本人エリートたちだ。著者が発掘したGHQ名簿をはじめとした資料、時を経て口を開き始めた経験者たちの証言によって浮かび上がってきたのは、日本人検閲官たちの葛藤、待遇、そしてその経歴を隠し続けた意外な著名人の名――第一級史料をもとに、今日にも通じる問題を炙り出す戦後裏面史。
2 重視された郵便検閲
3 郵便検閲の仕組み
4 東京中央郵便局の検閲配置――陽動作戦の現場
5 CCDの指示による郵便局の諸規則
6 逓信当局のCCD検閲への全面服従
(2)CCDから郵便局への返送の際のトラブル
(3)CCDから集配郵便局への謎の訪問対応
(4)国民側の対抗手段――私設郵便の創設
(5)CCDから電報局へのクレーム
2 東大生のアルバイト
3 肯定派
4 女性の大量進出
5 高齢者雇用
6 緘黙派――木下順二
2 悲しき中間管理職――日本人監督官ものがたり
3 キャリアとしての検閲官体験
(2)交渉力なき職員労組
(3)CCDの検閲施設と場所・面積の全貌
(4)検閲官集団の行方
(5)エリートになれなかった検閲官
(6)「負け組」だった参謀本部高級幕僚の暗躍
(2)ウィロビー・コレクションの提唱
(3)メリーランド大学プランゲ・コレクションの誕生
書誌情報
読み仮名 | ケンエツカンハッケンサレタジーエイチキューメイボ |
---|---|
シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 256ページ |
ISBN | 978-4-10-610894-5 |
C-CODE | C0221 |
整理番号 | 894 |
ジャンル | 歴史・地理 |
定価 | 880円 |
電子書籍 価格 | 880円 |
電子書籍 配信開始日 | 2021/02/17 |
薀蓄倉庫
男女平等、高齢者雇用の果てに
敗戦直後の日本で、英語が判る人は一握り。東大、津田塾など、名門校の学生たちもアルバイトとして数多く雇われていました。しかも、当時としては珍しく、性別も年齢も関係なく、その英語力によってのみ雇用が決ったため、意外かもしれませんが、数多くの女性たちが働いていました。また、年齢でいえば下は15歳から、上は78歳までを著者は確認しています。高齢者の中には、大学や外務省で働いていた人たちも多数いました。東大医学部を卒業してドイツ留学を果たし、公立病院の副院長(当時68歳)を務めていた人も、検閲官として働いていたといいます。当時の日本は、そうした人々でさえ食べていくことは容易ではなかったのです。戦争、そして敗戦を抜きにして、検閲官は論じられない――そう断言した著者が発見した、リベラルとして知られた著名人は、最後まで自分が検閲官だったことを公には語りませんでした。そして今なお続く問題も著者は指摘しています。
掲載:2021年2月25日
担当編集者のひとこと
沈黙は、破られた——。
かつて江藤淳がその著書『閉ざされた言語空間』の中で、優に1万人以上が働いていたにもかかわらず、誰一人としてその経歴を記載しないと嘆いたのが、GHQに雇われた日本人検閲官たちでした。同胞への裏切りと謗られるのを憚ったのか、確かにある時点までは、名乗りを上げる検閲官経験者はいませんでした。しかし、著者はGHQの民間検閲局の資料の中から、検閲官名簿を発見します。その数は、江藤の推測の倍、おそらく2万人にのぼると著者は推定しました。また、2010年以降、元・検閲官らに呼び掛けた結果、証言が集まり出します。そうして得られた談話や資料、自費出版、同窓会誌などから丹念に拾ったその経験談、また日本人検閲官を監督していた日系二世らへの取材などから積み重ねた、彼ら、彼女らの体験、その記憶は実に様々なものでした。そこに潜む真実とは何か。沈黙は、破られました。第一級の史料が満載、占領史の必携書となることでしょう。
2021/02/25
著者プロフィール
山本武利
ヤマモト・タケトシ
1940(昭和15)年愛媛県生まれ。一橋大学・早稲田大学名誉教授。1964年、一橋大学商学部卒業。1969年、同大学院社会学研究科博士課程修了。NPO法人インテリジェンス研究所理事長。著書に『日本兵捕虜は何をしゃべったか』『ブラック・プロパガンダ』『陸軍中野学校』など。