日本大空襲「実行犯」の告白―なぜ46万人は殺されたのか―
836円(税込)
発売日:2021/08/18
- 新書
- 電子書籍あり
将校246名・300時間の証言。銃後人口の無差別大量虐殺は、米空軍独立の「人身御供」だった。歴史に隠されていた真実が今、明かされる。保阪正康氏推薦!
第二次大戦末期、わずか一年足らずの空爆で約46万人もの命が奪われた。すでに敗色濃厚の日本に対して、なぜそれほど徹底的な爆撃がなされたのか。最大の理由は、空爆を実行したアメリカ航空軍の成り立ちにあった。当時、陸軍の下部組織という立場にあり、時に蔑まれてきた彼らが切望するものは何だったのか。半世紀ぶりに発掘された将校ら246人の肉声テープが浮き彫りにする「日本大空襲」の驚くべき真相とは。
あとがき
参考文献
番組製作スタッフ
書誌情報
読み仮名 | ニホンダイクウシュウジッコウハンノコクハクナゼヨンジュウロクマンニンハコロサレタノカ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 224ページ |
ISBN | 978-4-10-610917-1 |
C-CODE | 0221 |
整理番号 | 917 |
ジャンル | 歴史・地理 |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2021/08/18 |
インタビュー/対談/エッセイ
ルメイの蛮行には「動機」があった
今から76年前、日本は焼け野原になった。終戦までのわずか1年足らずの間に、アメリカ軍の無差別爆撃で46万人の命が奪われた。当時、日本の敗色は濃厚だった。それにもかかわらず、なぜ、あれほどまでに徹底した爆撃が行われたのか。
以前、「なぜ日本の文化財は戦禍を免れたのか」について取材をしたときから不思議に思っていたことがある。アメリカ軍には、文化財保護を目的とした部隊があり、日本の貴重な文化財を空爆しないように進言し、その保管場所100カ所以上をリストにまとめ上げていた。敵国の文化財に気を配れるほど余裕があったのかと驚くとともに、なぜ人の命は大切にされなかったのかと大きな疑問が湧いてきたのだ。
その答えを知るための手がかりが、アメリカで見つかった。軍内部で行われた聞き取り調査の音声記録である。証言者は、空軍将校246人。時間にして300時間を超える。半世紀ぶりに封印が解かれた将校たちの「肉声テープ」を再生してみると、本音や思惑が赤裸々に語られていた。
「空軍にとって戦争は素晴らしいチャンスだった」「航空戦力のみで日本に勝利できると示す必要があった」「陸・海軍に空軍力を見せつける」……。
表向き「正義と人道」を掲げて戦っていたはずのアメリカ。だが、空軍将校たちが語っていたのは、それとは全く異なる空軍独自の目論みだった。当時、陸軍の傘下に置かれていた彼らは、無差別爆撃の舞台裏で、アメリカ軍内部で“独立する”という野望を掲げていた。日本空爆の戦果は、それを実現するための足がかりだったのである。
空軍将校が遺した肉声をひもといていくと、東京大空襲の“首謀者”として悪名高いカーチス・ルメイ司令官も、空軍独立のための駒にすぎなかったこともわかってきた。その背後には、無差別爆撃を周到に準備し実行を指示した空軍トップ、ヘンリー・アーノルドの存在が浮かび上がる。そして、史上最悪とも言える日本への無差別爆撃につながる空爆戦略を生みだしたのは、アーノルドが師と仰ぐ、一人の将校だった。この男は、真珠湾攻撃を17年前から予想していたほどの卓越した戦略眼の持ち主だったが、第二次世界大戦前に死んだ。だが、その思想は空軍内部で教義として今も脈々と受け継がれているのだ。
一つ一つの証言がパズルのピースとなり、これまで謎に包まれていた日本への無差別爆撃の内幕が徐々に明らかになっていく。思うような成果が出せず、倒錯していく空爆作戦。当初の戦略から逸脱する命令に、現場の指揮官も追い詰められていった。
「私の手を握ってくれる人は誰もいなかった。結果を出さなければクビになる。それはそれは孤独なものだった」(カーチス・ルメイ)
東京大空襲をはじめとする、日本空爆の知られざる真相に迫った。
(すずき・ふゆと 報道番組ディレクター)
波 2021年9月号より
薀蓄倉庫
B-29の開発費用は原爆よりも高かった
航続距離はそれまでの航空機の2倍以上の5000キロ、高度は当時の軍用機が飛ぶ5000〜7000メートルの遥か上空の1万メートル。ヨーロッパ戦線でのドイツとの闘いで苦戦した経験から開発されたB-29は、敵の反撃を受けずに爆撃できる能力を備えた“未来から来た飛行機”でした。その開発費は何と30億ドル(4兆円)。原爆(20億ドル)の1・5倍にあたる、莫大な金額でした。国民の税金をつぎ込んで作ったものは、その成果を見せることが要求されます。原爆投下もそうですが、B-29による日本への焼夷弾爆撃にも、そうした意味合いが多分にありました。そして焼夷弾爆撃は、アメリカ軍の中で陸軍の下部組織に甘んじていた「航空軍の独立」という野望とも相まって、さらに激しさを増したのです。
掲載:2021年8月25日
担当編集者のひとこと
3人の「功労者」と46万人の犠牲者
東京大空襲に関わった米軍関係者といえば、まず頭に浮かぶのは無差別爆撃を指揮したカーティス・ルメイ司令官でしょう。日本では「鬼畜ルメイ」「皆殺しのルメイ」と呼ばれ、日本への無差別爆撃は非人道的な空爆だった、とアメリカ国内でも非難されてきました。
ただ、彼は当時38歳の現場の司令官にすぎませんでした。実質的に方針を決定したのは、陸軍航空軍のトップだったヘンリー・アーノルド。ライト兄弟から直接操縦方法を教わった生粋の航空隊プロパーで、第2次大戦中にルーズベルト大統領を説得してB-29の開発に踏み出し、その「未来の飛行機」を使った日本空爆の成功で、空軍は戦後の1947年に陸軍から独立することになります。その功により、アーノルドは今も「空軍の父」として尊敬されています。
そして、そのアーノルドに絶大な影響を与えたのが、航空隊の上司だったウィリアム・ミッチェル。第1次大戦で現代戦における空軍の重要性を確信したミッチェルは、航空戦力に多くの予算を割くべく様々な活動を行いますが、陸・海軍から猛反発を受け、1926年に除隊に追い込まれ、1936年に失意のうちに死去します。
しかし、1924年に日本軍の真珠湾攻撃を正確に予言し、一般市民を攻撃目標とする無差別爆撃の有効性についても提言していたミッチェルの先見性は、アーノルドをはじめ航空隊幹部に受け継がれ、アメリカ航空戦略の基軸となっていきます。その意味で「日本大空襲」は、ミッチェルの構想をアーノルドが整えてお膳立てし、ルメイが実行したものです。
アメリカ空軍からみれば、こうした経緯は組織の大成功譚です。彼らは大いなる努力をして、自分たちの組織の独立という野望を成し遂げました。しかし、その成功の陰には、46万人の日本の一般市民の犠牲がありました。
そして、第2次大戦中に極度のストレスから4度の心臓麻痺を起こしたという「空軍の父」アーノルドは、1950年、空軍独立の3年後に63歳で世を去ります。一方、現場司令官だったルメイはのちに空軍参謀総長にまで上り詰めますが、1990年に亡くなるまで無差別爆撃への批判は消えず、本人も家族もほとんどメディアの取材を受けませんでした。本書では軍内部の調査に答えたルメイの肉声に加え、ルメイの唯一の孫の声も伝えています。
本書は2017年8月13日にNHK-BS1で放送された「なぜ日本は焼き尽くされたのか 米将校が語った“真相”」という番組が基盤となっています。
この番組は、東京大空襲をはじめとする日本空爆の背景に、当時、陸軍の傘下に置かれ、時に蔑まれてきた航空軍の独立への野望があったことを暴きました。無差別爆撃で死んだ多くの日本国民は、アメリカ空軍独立の「生贄」になったようなものです。その史実の重みに加え、本書は際立った存在感を持つ人物たちが自らの野望を実現する物語でもあり、組織論としても多くのことを考えさせられます。
2021/08/25
著者プロフィール
鈴木冬悠人
スズキ・フユト
1982年、富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。NHKグローバルメディアサービス報道番組部ディレクター。主な制作番組はBS1スペシャル「なぜ日本は焼き尽くされたのか」(衛星放送協会オリジナル番組アワード最優秀賞受賞)、同「“悪魔の兵器”はこうして誕生した」など。