マツダとカープ―松田ファミリーの100年史―
946円(税込)
発売日:2022/02/17
- 新書
- 電子書籍あり
広島に受け継がれる「不屈のDNA」。
マツダの実質的創業者・松田重次郎は、傑出した技術屋であり、「尖った経営」を貫いた実業家であった。二代目・恒次は世界初のロータリーエンジン搭載車の販売にこぎ着けるも、三代目・耕平は不本意な形で会社を追われる。カープのオーナーに転じた松田家は、四代目・元の下で「育成のカープ」の礎を築き、国内屈指の人気球団を育て上げたが……。「不屈のDNA」を受け継ぎし者たちのファミリーヒストリー。
主要参考文献
書誌情報
読み仮名 | マツダトカープマツダファミリーノヒャクネンシ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 272ページ |
ISBN | 978-4-10-610942-3 |
C-CODE | 0234 |
整理番号 | 942 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 946円 |
電子書籍 価格 | 946円 |
電子書籍 配信開始日 | 2022/02/17 |
薀蓄倉庫
なぜ広島「東洋」カープなのか
カープ球団の正式名称は「株式会社広島東洋カープ」ですが、なぜ「東洋」が入っているのかと不思議に思う方もいるかも知れません。
実は、創設当時の名前は「株式会社広島カープ」だったのですが、カープ球団の財政と成績を立て直すため、東洋工業が単独支援を決めたことにより、1967年11月に「東洋」の文字が加わりました。
当時の東洋工業社長でカープの社長でもあった松田恒次は、市民球団であるカープの社名に「東洋」を入れることに抵抗があったようですが、球団への支援金を広告・宣伝費として税務処理するためにやむなく同意したと言います。
その東洋工業も1984年に「マツダ」に社名変更。元々は「東洋コルク工業」として出発した会社の名残は、いまやカープ球団の社名に残るのみです。
掲載:2022年2月25日
担当編集者のひとこと
やっぱり広島はすごかった
共に広島に本拠を持つマツダとカープは、日本の企業にしては珍しい「尖った経営」を続けていることでも共通しています。限られた資源を「これ!」と見込んだところに投入して、強みを磨くことで競争力を確保する戦略。それによってマツダは世界で初のロータリーエンジン搭載車の量販を始め、電気自動車優位の現在でも内燃機関の能力を磨く独自のカーボンニュートラル戦略を採っています。人口規模の小さい地方にありながら、国内屈指の人気球団になったカープも、補強に頼らずコストを節約しながら強い選手を自前で育てる「育成のカープ」戦略によって、チームを作ってきました。
マツダとカープのこうした姿勢には、広島財界の期待を背負って瀕死の東洋コルク工業(後のマツダ)を育て上げた松田重次郎のDNAが感じられます。
松田ファミリーの事実上の初代である重次郎は、傑出した起業家、技術屋でしたが、自分で創った会社を何度も追い出されたり、生涯にわたって事業資金の不足に悩まされたりと、どこかしら後のマツダ社の特徴をも彷彿とさせる人物でした。
幼少期には対馬で漁師の修行をしたり、大阪で作った会社をあっという間に大きくして「今太閤」と呼ばれたりと、スケールのでかい男だったようです。本当は民需で儲けたいのに軍の仕事を無理矢理引き受けさせられたりと、戦前の起業家らしい苦労もしています。私生活でも、婿養子に入って苦労したり、結婚も三回したり、息子を原爆で失ったりと有為転変。まあ、大きな会社の創業者になるような人物が「キャラ立ち」しているのは普通ですが、この松田重次郎の人生は、そのまま朝ドラになりそうな波瀾万丈ぶりです。
二代目・恒次の時代にマツダは世界初のロータリーエンジン搭載車の販売にこぎ着けますが、折悪しくオイルショックに見舞われ経営が悪化、三代目の耕平は経営責任を取らされる形でマツダの社長を追われることになります。カープのオーナーという立場に転じた松田ファミリーは、4代目・元(はじめ)がドミニカに「カープアカデミー」を作るなど、現在に至る「育成のカープ」路線を築きました。
また、初代・重次郎の次男であり、被爆死した宗彌の系譜は、主にマツダ車の販売会社を担い、広島の新名所であるおりづるタワーを作るなど、独自の足跡を残しています。
松田一族については、その系譜をたどった一般書籍はほとんど存在しないので、この本がある種「正史」として読まれることになるかも知れません。
著者の安西巧さんは、2016年に『広島はすごい』を出版した元日経新聞の広島支局長。前著『広島はすごい』は、カープがそこからセ・リーグ3連覇を果たすという絶好のタイミングで出されたこともあり、当時の「広島ブーム」を担う形にもなって売れに売れました。本書はある意味でその続編みたいな本です。
広島を広島たらしめている二つの組織を作り上げた一族のファミリーヒストリー。どうぞお楽しみください。
2022/02/25
著者プロフィール
安西巧
アンザイ・タクミ
1959年福岡県北九州市生まれ。日本経済新聞編集委員。早稲田大学政治経済学部を卒業後、日経に入社し、主に企業取材の第一線で活躍。広島支局長などを経て現職。著書に『経団連 落日の財界総本山』『広島はすごい』『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想』など。