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核兵器について、本音で話そう

太田昌克/著 、兼原信克/著 、高見澤將林/著 、番匠幸一郎/著

946円(税込)

発売日:2022/03/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

空想的核論議に終止符を。数千発の核兵器に狙われた日本の現実を直視せよ!

日本は、中国、北朝鮮、ロシアなど猛烈に核能力を向上させている国に取り巻かれており、数千発もの核兵器の射程内にある。「唯一の被爆国の悲願」としての核廃絶は正しいが、本当にそれを望むならば、東アジアの現状を踏まえた、ありうべき国家戦略を日本自身が構想しなければならない。内閣、自衛隊、メディアなどで核政策に深くコミットしてきた4人の専門家が、「タブーなき核論議」を展開する。

目次
はじめに
第1章 核をめぐる現状
これまでの常識が通用しない/変化した五つのポイント/自衛隊にいても、核問題は遠かった/攻撃と防御の境が曖昧に/攻撃的兵器の開発合戦/日本がアメリカの核政策にコミットした唯一の事例/スターウォーズ計画という契機/専門家の中だけの議論でいいのか/核抑止と核不拡散は「一緒の話」
第2章 台湾にアメリカの核の傘を提供すべきか
米軍の戦い方は「鬼舞辻無惨型」になる/中国は南シナ海を「核の要塞」にしようとしている/「台湾を守る」と明言し始めた米国/増殖する中国のICBMサイロ/外交と軍事をどう組み合わせるか/危機を経験した方が対話は進む?/日中国交正常化の前提になっていた「台湾海峡の平和」/中距離ミサイル配備は認めるのか/アメリカの核戦略にもの申したいなら人を出せ/自衛隊が南西諸島に部隊を配する理由/危機の際の対話の枠組みを準備しておく/政策的な議論をしない政治家たち/中距離ミサイルのギャップをどう埋めるか
第3章 北朝鮮の核
三つの「弱者の戦法」/北朝鮮危機のターニングポイント/米大統領にとっての、北朝鮮問題の位置づけ/下手に扱うと、NPTに穴があく/空母3隻を日本海に入れたアメリカのメッセージ/北朝鮮は実は核戦略を熟知している?/非核化に至る「本気のプロポーザル」を一度は出すべき?/北朝鮮は中国が大嫌い/韓国とのパイプを切らすな/アジアの核抑止は元々、日韓一体だった
第4章 ロシアの核
「核を使う」と公言する背景/北方領土交渉は、プロセス自体に意味がある/北方領土駐留軍の近代化/NATO核の情報開示という交渉カード/ロシア人の頭の中は「9割軍事」/いずれ対中警戒が対西側警戒を上回る
第5章 サイバーと宇宙
サイバーや宇宙をやられると、核抑止は成り立たなくなる/非核攻撃でも核報復の対象になりうるケース/最後の手段だった「インフラ落とし」が最初に/攻撃主体をトレースする仕組みの構築を/サイバーの総合戦略を担う部署が存在しない日本
第6章 日本の核抑止戦略
「非核三原則」は維持可能なのか/「瓶の蓋」論と裏腹だったシェアリング論/打撃力の議論を始めよ/核の傘を「破れ傘」にするなかれ/沖縄の核、西ドイツの核/日本の核シェアリングはNPT違反になる/日本が核攻撃されたら、アメリカは本当に核で反撃するのか?/「やる」と決めれば自衛隊は対応可能/日本のNPT批准を遅らせた「核武装派」/日本はなぜ打撃力を持てなかったのか/長い射程を持つなら日米共同で/国会論議の質は、冷戦時代よりも下がっている
第7章 核廃絶と不拡散
日本に「核廃絶型」の軍縮提案はできない/安全保障の観点が抜けた核廃絶論議/抑止力の向上は、不拡散の議論と同時に進めよ/NATOの二重決定という先例/核兵器禁止条約の成立は、核兵器国の怠慢の結果/「核のタブー」を守る責任/自己都合でしか動かないP5の動向を理解せよ/核の使用を想定していた自衛隊の部隊編制

書誌情報

読み仮名 カクヘイキニツイテホンネデハナソウ 
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 272ページ
ISBN 978-4-10-610945-4
C-CODE 0231
整理番号 945
ジャンル ノンフィクション
定価 946円
電子書籍 価格 946円
電子書籍 配信開始日 2022/03/17

薀蓄倉庫

中国の「核の要塞」化する南シナ海

 本書の中で、元陸将の番匠幸一郎氏は、中国の南シナ海進出は「核戦略」から読み解くとよく分かる、と言っています。
 ベトナム戦争の頃に西沙諸島を、1980年代末に南沙諸島を手に入れた中国は、フィリピンの排他的経済水域の内側にあるスカボロー礁にも領有権を主張しています。実は、この三つに囲まれた海域は南シナ海で一番水深が深く、4000メートルを超えるところもある。つまり、報復能力を担保するSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)を搭載した戦略原潜を遊弋させておくには、格好の場所なのです。番匠氏は、「中国は、冷戦期ソ連の『オーシャン・バスチオン(海洋要塞)』に相当するものを、南シナ海に作ろうとしているのではないか」と述べています。

掲載:2022年3月25日

担当編集者のひとこと

期せずして、最高のタイミングに

 日本は世界で唯一の被爆国。原爆の惨禍を経験した日本人が、「悲願」として核廃絶を求めることはごく自然なことでしょう。
 一方で世界情勢は、その「悲願」とは逆の方向に向かっています。

 中国は猛烈な勢いで核能力の向上に邁進しています。特に、米露がINF(中距離核戦力)全廃条約(1988年)によって手を縛られている間隙を突いて、中距離ミサイルの開発・配備を猛烈に進めました。また昨年には、地上発射型ICBM(大陸間弾道ミサイル)のサイロを内陸部に大量に作り上げていることも判明し、関係者に衝撃を与えました。

 北朝鮮が、ミサイル実験をやめないどころか、むしろ強化していることはご存じの通り。

 ロシアは、極超音速滑空兵器「アバンガルド」などの配備計画を通じて、日本やアメリカのミサイル防衛を無効化する計画を遂行中です。今般のウクライナ侵略でも、公然と核使用の可能性をチラつかせていますが、ロシアにおいては限定的な核の使用の可能性は軍事戦略の一部になっています。

 既存の国際秩序への挑戦・破壊を目論むこの三カ国が手にしている核兵器は、トータルで数千発はある、と見られています。そのほとんどすべてが、日本を射程に収めている。しかもロシアは、核兵器を脅しに使いながら独立した主権国家に公然と侵略し、中国はそのロシアを間接的に支援している。こうした現状に対し、日本はどうすべきなのでしょうか。

 日本では、核をめぐる政策論議が公に見える形でなされることはほぼありません。また、核論議が展開される場合でも、「唯一の被爆国の悲願」としてなされる核不拡散論と、アメリカの核の傘によって担保されている核抑止の議論は、交わってきませんでした。

 核廃絶という「理念」は正しい。しかし、現実に「核抑止のロジック」で動いている国際社会、特に核兵器国であるP5(国連安保理常任理事国)は、そのロジックに則った提案・意見でなければ聞いてくれません。核廃絶という究極の理想は、仮に訪れるとしても、抑止論の延長上にしかありえない。だから、本来核抑止と核不拡散は、同じフォーマットで議論すべきものなのです。
 ということで、本書では、抑止論と廃絶論を同じ土俵に上げ、東アジアの現実に立脚した「専門家じゃない人が読んでも分かる核論議」を展開するように務めました。

 集まったのは、博士号も持つ核政策のスペシャリストであり、「核廃絶」の信念をお持ちである共同通信編集委員の太田昌克氏、安倍政権で誕生した国家安全保障局で外政担当の次長だった兼原信克氏、同じく国家安全保障局次長で元防衛官僚、最後は軍縮会議日本政府代表部大使を務めた高見澤将林氏、陸上自衛官で元西部方面総監(←台湾有事の際には最前線で部隊を率いるポスト)の番匠幸一郎氏の4人です。いずれもメディア、内閣、自衛隊などで、核政策に深く関わってきた専門家です。

 本書の内容は、読む人にとってはタブーブレーキングに聞こえるかも知れません。

 例えば、日本は核を作らず、持たず、持ち込ませずの「非核三原則」を掲げていますが、この「持ち込ませず」の部分は曖昧にされ、事実上は「非核二原則」になっているのはご承知の通り。現在、核を巡る政策コミュニティで一つの焦点となっているのは、「核・非核対応(デュアルユース)の中距離ミサイルの日本配備」の是非です。つまり、「事実上、日本に核兵器を置くかどうか」という議論が水面下である。
 また、自衛隊の次期主力戦闘機F35もデュアルユースですから、やろうと思えば核爆弾を積んで飛んでいくことも可能です。
 先日、安倍元総理が核共有(ニュークリア・シェアリング)の話に言及してニュースになっていましたが、この安倍発言の背景にはそういう事情があります。

 多少事情の分かった方なら、「アメリカにはICBM(大陸間弾道ミサイル)もSLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)もあるんだから、撃たれたら反撃はできるはず。核抑止は効いている。いまさら日本に中距離ミサイルなんて置いても意味はない」とお考えになるかも知れません。しかし一方で、「アメリカは反撃できてもそれまでに日本がメチャメチャになっていたら元も子もない」という考え方もあります。

 日米同盟はありますが、有事になったら「敵」は日本とアメリカの離反を図るかも知れない。「核で確実に反撃できる核兵器国」と「核兵器国の庇護に頼るしかない非核兵器国」の間には、決して乗り越えられない溝があります。核兵器の配備には、敵に対する抑止という機能の他に、同盟国に対する安心供与という側面もある。だからこそ、地上発射型のデュアルユースの中距離ミサイルの配備のように、他国の核の傘に頼る非核兵器国の不安を目に見える形で解消する選択肢がありうるわけです。

 ちなみにこの議論の場合、比重は「同盟国への安心供与」の方にありますから、本気でやるとなったら「日本から言い出さないと意味がない」「日本が切実に望まないと実現しない」でしょう。第2撃(報復)能力のあるアメリカは、前線である日本がやられたところで敵に確実に報復できるし、場合によっては「報復しない」という選択肢もとれる。だから、アメリカには日本への中距離ミサイル配備に、日本ほどの切実な動機はない。

 実際に日米同盟が中距離ミサイルを配備するとなったら、最適なのは沖縄だと思いますが、さて、そんなことができるのか? おそらく、激越な反対が生じるでしょうし、安倍元総理の「核共有」発言を即座に撥ね付けた岸田首相は、そんなことを考えそうにもない。専門家の中にも、抑止の論理から「わざわざ敵のターゲットになりそうなものを持ち込むと、かえって脅威は高まる」とする考え方もあるようです。だから、現下の日本において実現の可能性は低そうなのですが、核問題について現実的に考えるというのは、そういう数多のアポリアに直面し、「ロジックとしてあらゆる選択肢を考える」ということを意味するのです。

 実際、今般のウクライナ危機を受けて、欧州の安全保障環境はガラッと変わりました。ドイツは、トランプに文句を言われても渋りまくっていた「防衛費のGDP比2%超え」をあっさりと決定(しかも、それを決定したのは左翼政権)。EUもウクライナへの武器供与を決め、伝統的に中立政策をとってきたロシアの隣国フィンランドや、スウェーデンまでもウクライナへの武器支援を決めています。
 驚異が現実のものになったときは、対応も現実的なものにならざるを得ない。日本の置かれた戦略環境は、欧州に負けず劣らず厳しいですから、実現の是非は脇に置いて、「あらゆる選択肢を考えておく」作業は必要なことだと思います。それも、洗練された議論を展開する安全保障専門家の内輪の論議だけでなく、国民の目に見える形において。
 本書はその思考実験の一助となる一冊です。

 期せずして、最高のタイミングで出されることになった本書を、ぜひご一読ください。

2022/03/25

著者プロフィール

太田昌克

オオタ・マサカツ

1968年富山県生まれ。共同通信編集委員兼論説委員。早稲田大学客員教授、長崎大学客員教授。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1992年に共同通信社入社。広島支局、外信部、政治部などを経て、2003〜2007年ワシントン特派員。2006年度ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。日米欧の核政策研究で博士号を取得(政策研究大学院大学)。『核の大分岐』など、核問題についての著書多数。

兼原信克

カネハラ・ノブカツ

1959年山口県生まれ。同志社大学特別客員教授、笹川平和財団常務理事。東京大学法学部卒業後、1981年に外務省入省。フランス国立行政学院(ENA)で研修の後、ブリュッセル、ニューヨーク、ワシントン、ソウルなどで在外勤務。2012年、外務省国際法局長から内閣官房副長官補(外政担当)に転じる。2014年から新設の国家安全保障局次長も兼務。2019年に退官。著書に『歴史の教訓』『日本人のための安全保障入門』など。

高見澤將林

タカミザワ・ノブシゲ

1955年生まれ。長野県出身。東京大学公共政策大学院客員教授。1978年に東京大学法学部を卒業後、防衛庁(現・防衛省)に入庁。防衛局防衛政策課長、運用企画局長、防衛政策局長、防衛研究所長などを歴任。2013年に内閣官房副長官補。2014年から新設の国家安全保障局次長、2015年から内閣サイバーセキュリティセンター長を兼務。2016年に退官後、ジュネーブ軍縮会議日本政府代表部大使に就任。

番匠幸一郎

バンショウ・コウイチロウ

1958年生まれ。鹿児島県出身。拓殖大学客員教授、元陸上自衛官、陸将。1980年に防衛大学校(国際関係論専攻)を卒業後、陸上自衛隊に入隊。2004年、第1次イラク復興支援群長として自衛隊派遣部隊初代指揮官。陸上自衛隊幹部候補生学校長、陸上幕僚監部防衛部長、東日本大震災に際しては「トモダチ作戦」の日米共同調整所長。第3師団長、陸上幕僚副長を経て、2013年に西部方面総監。2015年に退官。2018年まで国家安全保障局顧問。

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