日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層―
836円(税込)
発売日:2022/04/18
- 新書
- 電子書籍あり
日本人にとって「会社で認められる」意味とは。「個人」と「組織」のストレスを減らす、画期的論考!
ムダな出社を命じられる、在宅勤務なのに疲れる、新人が職場に馴染まない。コロナの感染拡大が落ち着くと、多くの企業は瞬く間に出社へと切り替えた。日本でリモート改革が進まない原因は、閉ざされた組織に巣くう特異な「承認欲求」にある。 誰もが持つ認められたい気持ちをコントロールし、満たされるにはどうすればいいのか――組織研究の第一人者が、日本的「見せびらかし」文化の挫折と希望を解き明かす。
書誌情報
読み仮名 | ニホンジンノショウニンヨッキュウテレワークガサラシタシンソウ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 192ページ |
ISBN | 978-4-10-610947-8 |
C-CODE | 0234 |
整理番号 | 947 |
ジャンル | ノンフィクション |
定価 | 836円 |
電子書籍 価格 | 836円 |
電子書籍 配信開始日 | 2022/04/18 |
インタビュー/対談/エッセイ
会社は「見せびらかし」の場?
新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置が解除されるや否や、多くの会社では社員にテレワークをやめて出社するよう促す。社員を待ち受けているのは、大部屋で仕切りがない日本企業特有のオフィスだ(感染予防のため透明のアクリル板は設置されたが)。
出社解禁を歓迎するのは主に管理職である。孤独なテレワークから一転、目の前には大勢の部下がいる。部下たちはたびたび仕事の相談にやってくるし、何気ないひと言にも耳を傾けてくれる。ミーティングやプレゼンを仕切るのも管理職だ。
日本人にとって会社は、承認欲求を満たせる貴重な場である。とくに管理職にとって職場は、自分の「偉さ」を見せびらかすことができる快適な場だ。彼らが出社勤務に戻るのを待ちわびていたのも無理はない。
いっぽう職場で「偉さ」を見せびらかすことができない若者は、自撮りの写真や動画をSNSにアップし、仲間内で自分のキャラをそれとなくアピールする。近年しばしば話題にのぼるようになった承認欲求。心理学者のマズローは、それを「自尊の欲求」と「尊敬の欲求」に分けている。自分の地位や魅力を見せびらかしたいと思うのは後者、つまり尊敬の欲求からくるものだ。注目すべきなのは日本人の場合、職場や仲間内など小さな世間で認められることが、ことさら重視される点だ。
「見せびらかしたい」という欲求に焦点を当てることで、これまでとは違う側面が見えてくるし、さまざまな「不思議」が不思議でなくなる。
会議に議題と直接関係のない社員まで出席させ長広舌をふるうのも、忘年会や新年会の開催にご執心なのも、管理職にとってその場が「ハレの舞台」になっているからだ。非効率だといわれながら判子文化がなくならないのも、押印が権威を見せつける機会だと思えば納得がいく。
もっとも「見せびらかしたい」という衝動に駆られ、自ら墓穴を掘ることもある。部下から期待どおりの尊敬が得られず、自分の権威を力尽くでも認めさせようとすると、パワハラ扱いされかねない。一歩組織の外に出て箍が外れると、それがさらにエスカレートする。政治家や官僚が大言壮語して足をすくわれるのも、自粛要請中に接待をともなう飲食店に出入りしてペナルティを受けたのも、欲求が暴走したものだといえよう。
陰徳を重んじ慎み深さをよしとするわが国では、自己主張や自己アピールははしたないとされる。しかし承認欲求が「欲求」である以上、食欲や性欲と同じように捨て去ることは困難だ。心の奥底にある俗っぽい欲求から目を背けず、正常な方向へコントロールしていくべきだろう。本書ではテレワークによる時代の変化のなかにその可能性も見出そうとした。
(おおた・はじめ 同志社大学政策学部教授)
波 2022年5月号より
薀蓄倉庫
出社は「出世」への近道?
『日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層―』の中で著者の太田肇氏は、テレワークを許可されていても、あえて出社する部下がいるといいます。彼らの根本には、上司から「評価されない」不安があるそうです。テレワークでは仕事ぶりが周囲から見えにくいため、仕事の出来不出来は上司に評価されるか否かにかかっています。日本企業では仕事の分担が不明確なこともあり、一人一人の成果を補足しにくく、そのぶん評価者の感情や利害関係が評価に入り込みやすいのです。
実際に「物理的な接近性」は当事者の感情や利害関係を左右します。飲みニケーションやタバコ会議が上司との接近法であるように、近くにいる者ほど評価されるという日本企業において、テレワークでは上司から評価されにくいと考える部下も少なからずいるのです。
掲載:2022年4月25日
著者プロフィール
太田肇
オオタ・ハジメ
1954年兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授(大学院総合政策科学研究科教授を兼任)。経済学博士。専門は組織論、人事管理論、モチベーション論。個人を生かす組織・社会について研究。著作に『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)『同調圧力の正体』(PHP新書)など。