2035年の中国―習近平路線は生き残るか―
902円(税込)
発売日:2023/04/17
- 新書
- 電子書籍あり
GDP世界一、米中対立に勝利、台湾統一……。壮大な「夢」と、薄氷の「現実」。習近平を最もよく知る元大使による冷厳な分析。
中国共産党総書記として異例の三期目に突入した習近平。幹部人事を意のままに行い盤石の体制に見えたが、コロナ対策では国民の反発で軌道修正を迫られ、一転、不安を感じさせる幕開けとなった。建国百年を迎える2049年への中間点とされる2035年に、彼は八十二歳。国内外の難問が山積する中国は、その時どうなっているのか? この国と中国共産党の本質を踏まえながら、第一人者が今後の行方を占う。
書誌情報
読み仮名 | ニセンサンジュウゴネンノチュウゴクシュウキンペイロセンハイキノコルカ |
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シリーズ名 | 新潮新書 |
装幀 | 新潮社装幀室/デザイン |
雑誌から生まれた本 | Foresightから生まれた本 |
発行形態 | 新書、電子書籍 |
判型 | 新潮新書 |
頁数 | 240ページ |
ISBN | 978-4-10-610992-8 |
C-CODE | 0222 |
整理番号 | 992 |
ジャンル | 政治 |
定価 | 902円 |
電子書籍 価格 | 902円 |
電子書籍 配信開始日 | 2023/04/17 |
インタビュー/対談/エッセイ
習近平を待ち受ける困難と挑戦
中国は分かりにくい。しかし中国が分からなければ対中外交は成り立たない。1969年に外務省に入って以来、現場での体験に加え、中国共産党の文献を読み、中国関係の世界の文献を読み、中国の有識者と意見交換をしていく間に、中国分析の「脳内ソフト」が次第に出来上がってきた。外交の現場はすぐに答を要求する。その時点で、手元にある「事実」をソフトにぶち込み、中国の現状はこうであり、中国はこう動こうとしているという「仮説」を立てる。それを基に中国ないし中国がらみの事案に対する対応を考えてきた。判断の間違いが判明すれば、どうしてそうなったのかを考え、自分のソフトを修正してきた。かなり前に共産党政権は持たないと本気で思った時期があった。だがそうはならなかった。なぜそうならなかったかを考え、ソフトに組み込んだ。研究者の学術書は、ソフトを精緻化し、事実関係を整理する上でとても役に立つ。
これまで実務家の中国分析が世に問われることは希有であった。われわれも自分たちの「脳内ソフト」を解析し説明する努力をしてこなかった。2010年に外務省を辞めた後、中国や日中関係について講演をする機会も増えた。そこで宮本さんの話は新鮮だ、というコメントを多くいただいた。自分にとって普通の話をしているのに珍しがられる。もっと自分たちの見方をより多くの方に伝える必要がある。そう考えて本を書くことにした。「脳内ソフト」は、中国理解の近道が、中国共産党はどのように中国の現状を理解し、対応しようとしているかを知ることにある、と教える。2015年の新潮新書『習近平の中国』は、そういう認識の下に書かれたものだ。今回の『2035年の中国―習近平路線は生き残るか―』は、その続編と位置づけていただいて差し支えない。
2015年から8年が経ち、中国も大きく変貌した。真の「習近平の中国」が確立しつつある。2015年当時、おぼろげにしか見えなかった習近平路線の全貌が、ほぼ明らかとなった。それは今世紀半ばまでに、あらゆる面で世界の最高峰に立つ中国の実現である。習近平は、その中間点を2035年におき、そこで達成すべき具体的目標を定めた。この年、習近平は82歳となる。最終目標に向かって邁進する中国の姿を自分の眼に焼き付けたいのであろう。
だが、中国の内外情勢は実に厳しい。習近平の長期政権の存続も、「中国の夢」の実現も、何の保証もない。現場で結果を出せなければ、そこで終わる。国内は盤石で自信満々、米国主導の世界に真っ向から挑戦する習近平――この姿は中国の現場からは浮かんでこない。多くの困難と挑戦が待ち受けているのだ。再び中国の現場に立って、中国の視点で眺めることの必要性が分かる。『2035年の中国』が、読者の皆様の中国理解の有益なガイドブックとなることを念じて止まない。
(みやもと・ゆうじ 元中国大使)
波 2023年5月号より
著者プロフィール
宮本雄二
ミヤモト・ユウジ
1946(昭和21)年福岡県生まれ。宮本アジア研究所代表。1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。1990年アジア局中国課長、2006年在中華人民共和国日本国大使館特命全権大使。2010年退官。著書に『習近平の中国』『強硬外交を反省する中国』など。