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交通崩壊

市川嘉一/著

902円(税込)

発売日:2023/05/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

鉄道網・道路・歩道……。ツギハギ行政はもう限界! STOP交通カオス。

日本の交通行政は「部分最適」の集合体である。新幹線の延伸によって寸断される在来線のネットワーク。欧州で復活続くも日本では広まらない路面電車。自転車に加え電動キックボードも乗り上げカオス化が進む歩道。権限を警察が握り、「まちづくり」の観点での施策が進まない道路行政……。そろそろ全体最適を意識した総合的な交通政策を構想すべきではないか。都市・交通問題に精通したジャーナリストによる提言。

目次
はじめに
第1章 統合的な交通政策の不在
「移動の連続性」説いた先輩ジャーナリストの言葉/地域公共交通の衰退/地域は頑張っているが、限界がある/遅きに失した交通関連2法/議論の出発点は2004年/局長発言通りになったその後のスローな展開/着手から8年経った熊本のバス路線共同化の取り組み/鉄道のあり方を再定義せよ/受け皿としての「上下分離」/フランスは鉄道で2時間半以内の航空路線を禁止に/もう一つの選択肢を維持することの重要性/基本計画が指摘する「交通崩壊」の可能性/もう一つの危機・歩道環境のカオス化
第2章 鉄道の役割を再定義する
柳田國男の鉄道旅/地域の車窓風景も立派な観光資源なのに……/経営自立は難しいJR2島会社/観光路線としても人気の並行在来線まで廃止/相次ぐ自然災害で深まる廃線の危機/観光を含めた国土政策を視野に入れたネットワークの視点を/ツーリズムの歴史変えたオリエント急行/欧州で定期夜行列車が相次ぎ復活/「まずは自助」は正しいのか/国が「無策」を反省した?報告書/「公共政策的意義」が協議のモノサシ/BRT専用道の公道化や「特定BRT」に新味/地域主権隠れ蓑に責任放棄?/フランスの交通税/ドイツも独自財源、財源も地方に移譲/米国も交通インフラの整備・運営財源に注力/知事会長、「ネットワーク維持は国策上必要」/「国はJRのあり方を見直せ」/「社会政策とみなす」世界から逆行する日本/運営財源としての「交通税」の可能性/「上下分離」試案・独自税財源と広域行政への権限移譲セットに
第3章 遠ざかる路面電車ルネサンス
ウソのように鳴りを潜めた待望論/フランスでは25都市で新規導入/遅れたイタリアでも「トラム・ルネサンス」の動き/現代的システムを導入したメッシーナ/パレルモは同時に4路線開業/フィレンツェでは路線網が拡大/パンデミック下、新たな導入計画が続々と/米国ポートランドは、運営財源の半分以上を所得税上乗せ分などで調達/建設財源は駐車場収入や固定資産税上乗せ分など/富山は奇跡だったのか/「始まりの偶然」と2つの要諦/路線新設はわずか2km/宇都宮、世界でも珍しい「ゼロから導入」/世界的に使われない「LRT」という言葉/速度アップは先送り/「優先信号」もシステム化には欠かせない/宇都宮に続く動きはなし?/30年来の悲願が実を結ぶ/福井県、これ以上の上下分離の継続に危機感/上下分離支える税財源制度を
第4章 CASE革命時代のクルマの役割
徳大寺氏の予言/ハイブリッドを認める日本はガラパゴス?/トヨタもEVシフト強める/ソニーも参入/ガソリン自動車の誕生以来の大変革/高速道の渋滞時での自動運転にお墨付き/小さな町で小型自動運転バスが定常運行/大型の路線バスでも実験始まる/「レベル4」可能にする改正道交法が成立/永平寺町の無人運転/システムエラーの可能性踏まえた合意必要
第5章 歩行者に安全な歩道を取り戻せ
車道削減前提の歩行者空間拡大へ新制度/「3密」回避で道路占用特例/いつまで続く交通行政への警察の関与/今と類似する明治初めの「乗り物バブル」/コロナ禍の自転車ブーム/懸念される自転車の暴走運転/増えている歩行者を巻き込む事故/大半は矢羽根表示の車道混在型/今なお曖昧な「自歩道」の存在/電動キックボードは自転車と同じか/欧州の街なかの風景を変えたキックボード/規制緩和に向け、公道実証実験を相次ぎ実施/潜在ニーズがある電動3輪車や電動カート/規制緩和ありきで動いた警察庁/2023年7月に規制緩和を実施/どこまで安全性を担保するか/検討会では賛否両論があったというが……/心配な歩道での車道モード走行/求められる都市交通政策の視点
あとがき
主要参考文献
年表 戦後日本の交通をめぐる歩み

書誌情報

読み仮名 コウツウホウカイ
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-610997-3
C-CODE 0265
整理番号 997
ジャンル 地球科学・エコロジー
定価 902円
電子書籍 価格 902円
電子書籍 配信開始日 2023/05/17

蘊蓄倉庫

イタリアの路面電車ルネッサンス

 かつては約80都市で路面電車(トラム)が走っていたイタリアでは、1960年代には14都市にまで縮小していました。それが、21世紀になって劇的に転換、2003年4月のメッシーナを皮切りに、パドヴァ、ベルガモ、フィレンツェ、パレルモなど、多くの都市でトラムが復活しています。この背景には、イタリア政府が「持続可能な移動に向けた国家戦略プラン」を策定し、トラムの復活・新規増設を後押ししていることもあります。

掲載:2023年5月25日

担当編集者のひとこと

脳内妄想の観光列車

 日本の交通政策の特徴の一つは、「部分最適の集合」になってしまっていることです。鉄道は鉄道、クルマはクルマ、歩道は歩道という形で政策が分断されてしまい、「全体最適」の視点が希薄なのです。フランスでは鉄道で二時間半以内の航空路線を禁止にする法案が通ったりしていますが、日本ではこうした部門横断的な政策はなかなか採用されません。

 たとえば新幹線網の整備にともなって、在来線のネットワークはどんどん寸断されていっていますが、鉄道ネットワークを「鉄道だけの経済性」で議論していたら、ほとんどの地方鉄道が廃止になってしまいます。人口減少が続いている以上、ある程度は仕方ない部分もありますが、北海道新幹線の札幌延伸で函館本線の「山線」(長万部~小樽間)まで廃止が決定されたのは深刻な事態だと思います。
「山線」沿線のニセコは海外資本の投資によってバブル状態ですが、個人的には山線そのものだって、立派な「インバウンドの資産」になるのに、と思います。

 本書でも論じているように、鉄道ネットワークを「公共資産」としてとらえ、欧米では一般的な「上下分離」(線路や施設は公共財として、鉄道会社は運営のみを担う)を実現させれば、「山線」にはスイスの氷河急行のような観光列車だって走らせられるでしょう。個人的な妄想を言えば、函館~小樽間に列車を設定すれば、どちらの観光地にも人が呼べる。いまや貴重な「始発駅」「終着駅」の風情をたたえた頭端式ホームの函館駅には、豪華列車が似合うはず。こういう列車を走らせれば、いまはニセコにとどまっているインバウンドによる価値の上昇をもっと広い地域に行き渡らせることだってできるかも知れない。
 でも、「利用者が減っている」「JR北海道にカネがない」「新幹線の並行在来線はJRから切り離すのがルールだ」という原則論で終わってしまい、国土政策や観光政策の視点が全くないのが現状です。

「都市の路上」にも深刻な問題があります。電動キックボード、電動三輪車、電動カートなどの新しい交通手段が増え続けて、「歩道(と車道の側道)のカオス化」が進んでいるからです。

 また歩道には、これだけ使う人が増えてきているのに、自転車が「鬼っ子」になっているという問題もあります。
 都心部に自転車専用道路はほとんどありません。ありませんが、幹線道路では車道のはじっこに申し訳程度の矢羽根表示が記されていて、自転車はそこを走れ、と促されてはいます。でも、都内の移動はいつも自転車の私の感覚では、これがかなり使いにくい。例えば内堀通りの半蔵門から桜田門に至る区間は毎日のように走っていますが、矢羽根部分を走るのはかなりオソロシイ。そもそも大半のクルマに、自転車走行部分を意識している気配は皆無です。新潮社の地元である神楽坂の本通りは一方通行で、車道の両端に矢羽根表示がありますが、常に車が停止しているので、矢羽根部分だけで走って行くのはほぼ不可能。ということで、申し訳ないと思いつつ、歩道に自転車を乗り上げる場合も少なくありません。
 本当は、道路交通法上は自転車は子どもを乗せているとかの事情があってゆっくりと走るという前提でないと歩道走行はできないことになっていますが、現状は野放しです。私がいつも走っている皇居の周辺でも、千鳥ヶ淵交番のお巡りさんが半蔵門まで歩道を走っていく姿をよく見かけるくらいですから、これは警察も「黙認」しているということでしょう。

 自転車族の本音としては、車道を減らして歩道と自転車道を拡張してもらいたいのですが、これはなかなかハードルが高い。ハードルが高くなる理由の一つに、欧米では自治体が持っている交通規制権限を日本では警察が握っており、まちづくりの観点から道路の配分を変えたりしにくい、という問題があります。本書でも論じていますが、ここもボトルネックの一つです。

 本書では、鉄道ネットワークの寸断、路面電車の導入が進まない現状、CASE時代の自動車の再定義の必要性、「歩道のカオス化」などの問題に着目し、日本の交通政策の現状をトータルに概観し、「部分最適」から「全体最適」への交通政策の転換を提唱しています。
 交通政策や都市政策に興味を持つ方や、私のようなソフトな鉄ちゃんなどには、強くお勧めできる本かと思います。

2023/05/25

著者プロフィール

市川嘉一

イチカワ・カイチ

1960年埼玉県生まれ。都市・交通ジャーナリスト。立飛総合研究所理事。1984年早稲田大学卒業、日本経済新聞社入社。「日経グローカル」主任研究員などを経て2018年退社。埼玉大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。主著に『交通まちづくりの時代』。

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